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179冊目:ゼロワン/若木未生

こんばんは、Umenogummiです。


今日は小説です。


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ゼロワン/若木未生 作


カバーのセンターマイクのとおり、ゼロワンという漫才コンビの苦悩を描いた作品です。年末に開催されている某漫才グランプリが出てきます。

王串ミドロこと王串公威はかつて親友のと共にアオミドロという漫才コンビを組んでいました。漫才は副業のようなもので、王串は声優、壱は小説家という本業を持っており、どちらも順調に活動していましたが、壱の死で王串は多くのものを失います。

現在33歳となった王串は、売れない声優の仕事にかじりつきながら、壱の弟・とゼロワンというコンビを組んで活動していますが、アオミドロ時代ほどの情熱を注げずにいました。

紅茶店に勤務するお笑い好きの若手芸人食いを生きがいとするマドカのヒモのような生活を送りながら、王串はまだ若い零の未来を考え、毎年年末に行われるマンザイ・グランプリ、通称マングラに出場し、。


不気味な兄弟漫才コンビ・クロエのお笑いに対する姿勢に共感しながら、小さいな事務所所属のゼロワンはクロエの大手事務所主催の若手お笑いライブにゲスト出演し、存在感を示します。特に兄である黒江ユキはアオミドロのファンで、王串の反応を気にし始めます。


マドカ、王串の同級生で壱の妻だった・鏡子などの存在が、ゼロワンの勢いを後押しし、ゼロワンは苦しみながらも準々決勝まで勝ち上がります。しかしそれと同時に、王串を取り巻く様々な環境が少しずつ崩れ始めていきます。


すでに故人である壱の存在が王串と零を苦しめ、奮い立たせ、大きな役割を果たしています。孤独感、焦り、嫉妬様々な感情が王串を襲うのですが、真綿で首を絞めているような、じわりじわりと迫ってくるように表現されています。

若木未生氏の作品は、中学生の頃よく読んでいました。当時はライトノベルの分野で活躍されており、今作が一般文芸進出作だそうです。

よく読んでいたころの作品と比べると、今作を読み始めのころは「ええ?これが若木氏の作品?なんか大衆化されちゃっていてつまらないかも?」なんて偉そうに思っていました。でも読み進めていくうちに、王串と零の繊細な心の内がつまびらかにされていって、ゼロワンどうなっちゃうの?マングラ獲れるの?とドキドキワクワクしていました。


あとがきで若木氏が触れていますが、近しい人たちの死がこの作品を書くきっかけとなったようです。残されたものは、苦しみながらもがいて生きている。まさにこの作品の主人公である王串は、若木氏の心の叫びなのだと思います。

私はまだ、想像を絶するような別れには出会っていませんが、もしその時は王串や零、若木氏のように少しずつ生きる力を取り戻すことができるのか、自分のやるべきことをやれるのか、新しいことにチャレンジできるのか。そんなことを考えてしまいました。



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