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「動かぬ巨人」ナイジェリアにポジティブな異変。ビジネス環境改善なるか

ナイジェリアの動向に、いまめちゃくちゃ注目が集まっています

ナイジェリアは人口2億人を抱え、OPECのメンバーでもあるアフリカ最大の産油国です。アフリカ54カ国を言えなくても、大国ナイジェリアを知らない人はいないでしょう。

しかしナイジェリアは、その恵まれた資源があるがゆえに、原油に依存した経済構造です。苦労して製造業などにより外貨を得なくても、原油を売れば手に入りますし、国家歳入も潤います。

こういった経済は、原油が順調に生産され価格が高いときはプラスに回りますが、生産や原油価格に異変が起こると逆回転となります。2016年以降の原油価格下落でナイジェリアに起こったのがまさにそれ。この何年かは国家債務も膨らみ、原油生産量も激減、経済成長率はマイナスに陥る年もありました。

そのようななか、この5月29日に新しい大統領としてティヌブ氏が就任しました。ティヌブ大統領(71歳)は前評判はまったく良くなく、期待値は非常に低く、選挙で選ばれたときはこりゃナイジェリアの経済成長は5年は期待できないと落胆されていました。ところが、就任以降1カ月も経たないのに矢継ぎ早に長年の課題の改革を進め、そのギャップに世界が驚いています

メディアが使う写真も、就任前の期待値が低かった頃はよぼよぼな老人チックな写真が多かったですが、最近はこころなしかかっこよさげなものに変わってきました(ロイター)

ナイジェリアには、成長路線に再度乗るにあたって変えなくてはならない3つの悪癖がありました。ガソリン補助金、石油産業の独占、二重為替です。

ナイジェリアはなんと、産油国であるのにガソリンを輸入しています。なぜかというと製油所への投資やメンテナンスが長年滞っていて軒並み稼働していないからです。原油を輸出し、欧州などから精製された石油製品を輸入してます。

なぜ製油所が稼働していないかというと、いろいろな理由はありますが、最大の原因は元国営企業NNPCがしっかり運営していないからです。原油の開発、精製、石油製品の輸入といった石油産業はNNPCなど限られた企業が独占しており、経営不良や不正、汚職の巣窟となっていました。

ティヌブ大統領は就任演説をした2日後の5月31日に、突然ガソリン補助金を廃止します。これにより全国のガソリンスタンドでは価格がいっきに3倍となりました。しかしそもそも国家歳入の9割が債務返済に当てられている現状ですから、止血は待ったなしでした。

同時に、石油の輸入が民間に開放されることとなりました。補助金はもうないので、民間の石油小売が自分で輸入し、自分で値付けができるようになります。

これを行うには、二重為替の解消も行わなければなりません。二重為替の名の通り、ナイジェリアには2つ(正確には3つ)の為替が存在していました。国家財政が悪化した頃から、政府による石油輸入など恣意的に選んだ取引や企業に対してはドルに対して現地通貨ナイラが強い固定の中央銀行為替レートを、投資などを呼び込むためや食料などの輸入を制限するためには、それよりナイラ安となる変動し実相相場に近い市中為替レートを使い分けてきました。

もちろん2つの為替レートが一国に平行して存在しているなど非常が評判が悪く、ナイジェリアへの投資が妨げられる理由になってきました。資金の流動性を減じ、原油輸出収入を減じ、不公平な競争、不正な蓄財といったさまざまな課題を生み出してきた制度です。

ティヌブ大統領は就任9日目の6月9日、この二重為替を前政権で導入した中央銀行総裁を、即刻停職処分としました。実質的な更迭です。そしてその5日後の6月14日、中央銀行が正式に二重為替の中止を発表し、変動相場制へと一本化すると発表しました。

ここまでで就任から16日、約2週間です。かなり強引なやり方ではありましたが、悪癖を3つとも終了させてしましました。

3つの悪癖を終わらせたあと、大統領公邸でビル・ゲイツ氏と密会していたとされるティヌブ大統領。ビル・ゲイツ財団やマイクロソフトによるこれからの投資や協力を議論していたのでしょうか。課題が多いナイジェリアは、言い換えるとビジネスチャンスが非常に多い国でもあります。
https://www.vanguardngr.com/2023/06/tinubu-in-closed-door-meeting-with-dangote-bill-gates/

なぜ2週間で改革できるようなことが、いままで改革できなかったのか?そう思いますよね。でもできなかったんですよね。アフリカにいると、リーダー次第で政治や経済が大きく変わる場面によく出くわします。

ガソリン補助金については、10年前に廃止を試みたときは暴動となったのですが、今回は労組と最低賃金の上乗せであらかじめ握っていたようです。

もっともティヌブ大統領も、ここまでは大活躍ですが、今後順調に改革を定着できるかはわかりません。ティヌブ氏は数々の悪癖を生み出した前政権においても重要なポジションを占めていた人物でしたし、疑惑も多いです。

前政権の良い遺産としてひとつ挙げられるのは、ダンゴテによる製油所の開設です。ダウンしている既存の製油所に代わって、アフリカいちの富豪と言われるアリコ・ダンゴテ氏が創業した民間企業ダンゴテ財閥が製油所を開設しました。シングルトレインとしては世界最大規模となる日量65万バレルが可能な製油所で、稼働が間近です。

ダンゴテが建設しており、稼働間近とされる世界最大規模となる製油所

ティヌブ氏は原油生産量の回復も目指しているので、原油生産量が増加し、ダンゴテ製油所によって国内で精製ができるようになり石油製品の輸入が必要なくなり、石油の流通が民営化され、二重為替開放により外貨入手が容易になれば、ナイジェリアの国家財政も民間投資も大きく改善されます。

ナイジェリアはこれまで、大きな期待と同時に課題が山積みで、解決のための動きも見られない「動かぬ巨人」(私が命名)でした。さまざまな歪みが解消され、マーケットメカニズムに基づいた透明性のある経済となれば、元来の期待値に適した経済成長が実現できる可能性があります。

ナイジェリアでビジネスを行いたい日本企業にとっても、L/Cが開きやすくなったり、利益還流ができるようになり、事業環境は改善します。ガソリン補助金廃止によるインフレは避けられないですが、為替はいままでも実相相場として使われてきたレートに落ち着くと見られています。あらゆる汚職や不正の源であった石油産業が改革されれば、カントリーリスクも改善します。

ナイジェリアに関心があるものの、政府の政策やカントリーリスクに鑑み断念していた日本企業は多くいます。今後のティヌブ大統領の動向に注目です。

ナイジェリアの動向は、随時、毎週発行の「週刊アフリカビジネス」でも取り上げていきます。今回取り上げた動きも、週刊アフリカビジネスの有料版でより詳しく専門的に記載しています。週刊アフリカビジネスは無料版もありますのでご登録ください。

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