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運命の光る糸

 俺は特殊な能力を持っている。人の運命が見えるのだ。光の糸として。


 真っ暗闇を背景に、光の繊維が絡み合って、どこまでも続く、カラフルで光輝く塊を作っている。近づくにつれ、光の繊維一本ずつが見えるようになる。ネオンサインのように輝く、ピンクの糸に目をつけた。それは中ほどでライムグリーンに輝く糸と絡み合って、またほどけていく。ほどけた先ではどの糸とも絡まずに曲がりくねり、終わっている。


 人が心を開き、愛し合ったとき、それらの糸は絡み合う。
 つまり、あの二本の糸の主は、一度愛し合い、離れていったという訳だ。しかし、それぞれが結婚と離婚を表すのでは無い。心の底の愛の話である。


 これはまだ明るい話。もっともっと嫌な糸も見つかる。


 ある、美しいオレンジ色に光る糸があった。それの中間部は見えない。なぜなら他の糸がびっしりと覆い隠してしまっているからである。他の糸は自らの体でオレンジの糸を縛るようにして締め付けている。それが卵子に群がる精子のように隙間なくついて、中ほどは見えないのである。そして、その先から出てきたのはオレンジでなく、どす黒く紫色に光る、汚い糸だった。その糸は、近くにいた糸を小突いてから曲がりくねって伸びていった。

 この糸達はいじめっ子といじめられっ子を表している。よってたかって一人を傷つけ、人生そのものを歪めてしまったのだ。本当に胸糞が悪い。



 話は変わるが、一つ不便なことがある。それは自分の糸を見れないことだった。これから自分が誰を愛し、別れるのかは一切見えない。これは困る。つい最近も困ったので、それを話そうと思う。


 電車に乗っている時だった。昼過ぎだったので、都内とは言え空いていた。座って、ぼんやり向かいの窓を見ている内に、電車がホームに着き、人が降り、乗って来る。


 向かいの席に、女性が座った。ぼんやり見ている暇などなかった。


 一瞬にして心を奪われたのである。一目惚れである。


 この美しい女性を愛したい。刺激的な恋愛をして、幸せな家庭を築き、愛し合うまま死ぬ。そんな妄想が捗った。


 
 さぁ、糸を見てみようか。彼女の糸は美しい銀色だった。しかし、友人らしき絡みはあるものの、生涯愛し合う人はいないように見えた。どの糸とも絡み合っていないのである。何故だ。何故ここまで美しい女性が誰にも心を開かずに死んでいくとは。



 しかし、これは別の解釈も出来る。



 彼女の糸は、どの糸とも絡み合っていないのではない。『見えない糸』、つまり自分の糸と絡み合っている、という解釈である。



 彼女は俺を愛すのか。それとも誰にも心を開かないのか。


 どっちにしろ彼女の事を考える時、頭の中はぐちゃぐちゃに乱されてしまう。絡まって解けない糸クズのように。         
                  【完】


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー☆トップ画はみんなのフォトギャラリーから使わせて頂きました。なんて素敵なイラストだ…感謝します。


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