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Q. 辞書はスマホで十分じゃない?

A. スマホに触るな。

 

スマホの辞書は避けるべきだ。絶対に余計なことをするから。

 

スマホもSNSも、世界最高峰の頭脳を持つ人たちが本気になってユーザーの気を惹く方法を日夜考えて作り続けている。通知が赤で表示されること一つでも大いに意味がある。そんなものに意志の力で勝てるわけがない見たら終わりだと思え。

 

 

紙辞書か、電子辞書(専用端末としての電子辞書のこと)を使うか、どうしてもアプリがいいならばたとえばiPadを機内モードにして使う。とにかく勉強の流れを止めない辞書を手に入れることだ。これで話は終わりだ。

 

***

 

とはいえここで終わりにしてしまうといつもの半分の分量の記事になってしまうので、あとは辞書についての話をする。

 

 

電子辞書と紙辞書はどちらがいいのかという論争が一昔前は盛んだったが、紙辞書が人気を失って久しいのはもちろん、最近は電子辞書の売れ行きも悪いようで、揃って衰退してしまったというのが最近の実情だろう。代わってアプリやWeb検索が台頭している。

 

 

だが繰り返していうが、Web検索は避けるべきだ。ネットにつながっていると勉強から脱線する可能性が高い。一度脱線したらなかなか戻ってこられないのはみなさんご存じの通りだ。

 

 

注意持続時間 attention spanということばがある。人間が平均して注意力を維持できる時間のことだ。

 

 

2000年には12秒だったのが、2015年には8秒になってしまった[1]。金魚は9秒だ。おそらく今はさらに短くなっているだろう。映画どころかYou Tubeの動画ですら集中して見ていられない(=スマホで他のことをしてしまう)人が増えているなかで、勉強中に何度もスマホで調べ物をするのは危険だ。

 

 

翻訳の世界では「辞書は金で買える実力」だという。良い辞書を持っていればそれだけで有利になる。単語帳とは情報量が違う。「載っていない」事態が避けられる確率が上がる。複数持っていれば引き比べもできる。

 

 

日本の辞書の水準はとても高い。特に英語やドイツ語、フランス語といういわゆる大言語の学習者用辞書は海外のものより遥かに使用者のことを考えて設計されている。(なお最近では英語以外のヨーロッパのことばの大きな辞典は改定が進んでいない。独和大辞典やロベールとか)

 

 

こう感じるのは私の母語が日本語だからということだけではなく、書体・字の大きさ・色使いやコラムの面白さがまるで違うからだ。もちろんこれは使いやすさという点の話であって、英英辞典や独独辞典にはそれぞれの面白さがあるし、微妙な語義について知るには必要不可欠だ。読み物としても楽しい。辞書を引くのではなく読むようになったら上級者だ

 

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大学生の時にロシア語を習った。大学のロシア語は基本的に受講者が少なく、「贅沢に」学べる。少ないも何も私たちの「ロシア語3」は受講者が2人だった。最後は1年かけてプーシキンを読んだ。

 

ロシア語をきちんとやるなら研究社の『露和辞典』を買いましょう、といわれた。一昔前のもの(「インターネット」も載っていない)だが収録語数、動詞の活用や名詞の変化といずれを見るにしても大変に充実した辞書だ。

 

「この辞書をダメにするまで使ったらロシア語はなかなかのものです」と先生はおっしゃった。

 私の『露和辞典』はまだまだ長生きしそうである。

 

 

結論:スマホ以外の辞書に投資せよ。




[1] https://www.sitepoint.com/how-to-build-a-thriving-business-in-a-world-of-declining-attention-spans/ (2024年6月8日最終閲覧)

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