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オーケストラの演奏のために島根県の山村に行ってきた

「ダメ元のお誘いなんだけど、11月の3連休空いてない?島根での演奏会があるんだけど…」

ある知り合いからこんなお誘いのLINEを受け取ったのは、10月も折り返し地点を過ぎた頃だった。

これを見た率直な感想は「なんだかよくわからないけど面白そう」で、あまりにも弾丸的で無茶な誘いに思わず笑ってしまった記憶もある。

11月3日:前日リハ

そんなわけで私は11月3日にバイオリンケースを携えて西へと飛び立った。

ちなみに余談ではあるが、このとき広島空港は霧に覆われており「このままだと出発した空港に引き返すかもしれない…」との機内のアナウンスがあったときはかなりヒヤヒヤしたものだった。
(天候が回復して広島に無事に着けるとわかったときは乗客の拍手喝采で包まれるほどで、あんなに緊張と歓喜を共有した空の旅はこれまでなかったと思う。)

とにもかくにも無事に広島に着いた私は、この企画へと誘った張本人である方とも合流し、島根県浜田市弥栄町へと車で向かった。
途中、こんな道の先に本当に集落があるのかと疑いたくなってしまいたくなってしまうほどの急な山道をひた走ったが、トンネルを抜けた先で突如道がひらけて家々が目に飛び込んできたときの安心感と高揚はしばらく忘れられないだろう。

会場に到着したところで参加メンバーの面々と初めましての挨拶を交わし、弦楽器の人数が通常に比べてかなり少ないことに内心ビビりながらもリハーサルを迎えた。

正直に言って、かなり楽しかった。
このオケの指揮者であり作曲家としても活動しているという方が手がけたという曲、チャイコフスキーの交響曲第5番、このオケ用に編曲された映画音楽メドレー。
どれも素敵で、心が浮き立つような感覚(おそらく実際に何度か椅子から浮き上がった瞬間すらあった)を味わいながら練習時間を終えた。

11月3日:懇親会

会場をあとにした私たちは、「ふるさと体験村」へと向かった。
そこがこの3日間で寝食をする場所である。


THE 日本家屋といった佇まいに圧倒されるような見事な建築物であった。


そうして、私たちオケメンバーと地元の方々たちによる懇親会、言い換えてみればどんちゃん騒ぎの飲み会の火蓋が切られた。

室内では鍋がぐつぐつと煮え、外ではシイタケが網で焼かれ、さらにその近くのテーブルでは鹿肉があれよあれよという間に解体されていった。

ここまで開放的で、自然の恵みを体感する飲み会なんて、これまで経験したことがなかった。
澄み渡るような星空の下で、この企画にえいやっと参加してみて正解だったなぁとひとしきり獣肉を突きながら思っていたのであった。

11月4日:本番

そうして迎えた本番の日。
会場に着くなり、そこに並べられたパイプ椅子の多さと、本格的な撮影・配信機材がまず飛び込んできた。
聞くところによると今回の企画はクラウドファンディングの寄付者向けに配信されており、そしてその配信機材などはメディア関係者でもある本企画の発起人が揃えたということだ。

音出しを兼ねた最終練習も無事に終わり、いよいよ本番。

これがもう、前日以上に楽しさに溢れる時間だった。

この演奏会のテーマ曲として作曲されたオリジナル曲。
ちいさい秋みつけたなどの童謡を盛り込んだ日本の歌メドレー。
シベリウス作曲フィンランディア。
ブラームスのハンガリー舞曲第5番。
地元の太鼓とのコラボ演奏。
チャイコフスキーの交響曲第5番。
ミッションインポッシブルやパイレーツオブカリビアンなどを取り上げた映画音楽メドレー。

それぞれが大きく温かい拍手に包まれ、アンコールまで弾きあげた。

演奏会を終えて

その日の夜も、また盛大に宴が催された。
お互いの演奏を讃えあい、苦労を語り、また次回も開催しようと決意を固めた夜となった。

夜も更けてきたころ、弥栄のまちづくり会の会長が全員に向けて発した言葉が、強く印象に残っている。

「弥栄は高齢化も進み限界集落と言われている。
でもそう言われようが、こうして音楽を届けにやってきてくれたりそれを聞きにやってきてくれたりして『関係人口』が増えていくことが何より大切なんだ。」

とその方は言っていた。

確かに演奏会に来てくださったお客さんの顔ぶれを見てもお年寄りが目立っていたし、都会か田舎かと問われればまず間違いなく田舎として分類されるような地域だろう。

それでも、今回こうして弥栄町を訪れることができて本当によかったと感じている。
これからも関係人口の一人であり続けるために、再びオーケストラを届けにこようと、そう強く思った。


ちなみに

今回の企画が地元の新聞に取り上げられていたことを後日知った。
なんだか少し恥ずかしいけど、誇らしい気持ちが広がったのもまた事実であった。

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