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対カメムシ

「パパ、なんかいるんだけど!早くきて!」
寝る前に歯磨きをしていると娘から呼ばれた。

リビングに行くとライトの周りを何かが激しく飛んでいた。落ち着いたところで見てみるとなんとカメムシだった。

今年はカメムシが大量発生していると前にニュースで観たが、ついにうちにも来たか。
娘が言うにはカメムシはペットボトルで簡単に捕獲できるらしい。それと密閉すると自分の匂いが臭すぎて死ぬらしい。ホントかよ。きっと例によってYouTubeから得た情報だ。

歯ブラシが口の中に入ったままなのでとりあえず洗面所に戻って歯ブラシを置き、ペットボトルを手に取りリビングに戻るとカメムシはいなくなっていた。
部屋中どこを探しても見当たらないので恐怖しかない。たぶんライトの裏側のここから見えないスペースにいるんだと思う。娘を先に寝室に避難させ、浴室の電気を付けて扉を開け放ち、リビングの電気を消した。浴室の電気に釣られてやってきたところを水攻めにして退治するという作戦だ。
所詮は虫。光に集まるという本能には勝てまい。人間様の知恵をなめるなよ。フハハハハハ。

寝室に行くと娘が「カメムシ怖いから明日学校休むー。」と言った。
かと思ったらすぐ「あっ、行った方がいいのか」と言っていて笑ってしまった。
夜中にパパが退治しておくからもう寝なさいと伝えた。

5分ほど経ったころ、娘が、パパ見てきてというので浴室を見に行くとカメムシはいなかった。

さらに5分ほど経ったころ、また娘にパパ見てきてと言われて見に行ったが、やはりいなかった。娘にはパパに任せて寝るように念を押した。


それから娘が寝た頃を見計らって布団から出た。「カメムシなんてママが素手で捕まえちゃうよ」と話していた妻は熟睡していた。あれ?
浴室を確認するとやはりカメムシはいなかった。
恐る恐るリビングの電気を付けた。とたんにまたカメムシがビュンビュン飛び周りだした。この野郎、挑発してやがる。

激しく飛び回ったかと思えば、すぐにライトの裏側に隠れてしまうので、とてもペットボトルで捕まえられそうにない。
こうなったらカメムシが疲れて動きが鈍くなるのが先か、僕が眠くなるのが先かの我慢比べだ。いざ勝負。
文庫本を開いて、ライトから少し離れた位置に腰を下ろした。
その後も飛んでは隠れて飛んでは隠れてを繰り返していたが勢いはまったく衰えない。2時間くらい経ってさすがに僕の方が眠くなってきた。
家族には悪いがもうどうするかは明日の朝考えよう。このまま一晩中電気をつけたままにしておけば朝にはカメムシもクタクタになってるだろう。
と諦めかけたとき、いつものようにビュンビュン飛び回ったカメムシがなんとクッションの上に止まった。

チャンス!!ゆっくり近づいて注意深くペットボトルの口をカメムシに被せた。そしてクッションを裏返してトントンするとカメムシがペットボトルの底にポトっと落ちてきた。あわててキャップを締めるが疲れているのかまったく動かなかった。
勝った。窓を開けて、外に逃した。


「パパ」と呼ぶ娘の声で目を覚ました。部屋の中はまだ真っ暗だった。
カメムシは?と聞かれたので捕まえて外に逃してあげたよと答えると「良かった」と言って娘はすぐにまた寝た。

明日の朝になったら「やっぱり今日休むー。」なんて言い出すなよと思いながら、僕ももう一度眠りについた。

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