僕と龍の物語 #1 アボリジニ
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僕が流れ着いたのは、オーストラリアの海岸だった。
目を開けると太陽に照らされてキラキラ光っている真っ白な砂浜に、肌黒い子どもの足が見えた。
「気が付いたみたいね」女の子の声がした。
「ここは何処?」と声を出した自分に驚き、慌てて立ち上がると体が人間になっていて、更に「うわー!」と大きな声を出した。
「どうしたの、そんなに驚いて?」その子が心配そうに僕の顔を覗き込んだ。
「あっ、いやなんでも無いよ」まさか本当のことも言えず笑ってごまかした。
でも僕は内心嬉しくてたまらなかった。
「どうやら怪我はなさそうね。君は何処から来たの?」
何処から来たと聞かれて、説明しても信じて貰えないだろうから、僕は黙ったまま海を指さした。
「お腹空いてない?うちにおいでよ」
「ぐう〜。」 僕のお腹が返事をした。
「私はラウル、君の名前は?」
「僕はポジャ」 ポジャと名乗っている自分に驚いた。
ラウルの部落に着いた。「これが陸の生活なのか」見るもの全てが初めてだから僕の興味は尽きない。
部落のみんなが集まって来た。どうやら僕を歓迎してくれた様だ。何も聞かない、ただ僕という存在を受け入れてくれる。そのことが僕を安心させた。
次の朝、ラウルが山に連れて行ってくれた。生い茂る草をかき分け、岩を登り、川を渡り、草の匂い、岩の急勾配、冷たい水が喉を通る爽快さ、何もかもが新鮮な体験で、新しい僕を作って行く。
「ほら見えて来た、あれが山の頂上よ」
僕はこれから何が起こるのか想像も付かない。緩やかな坂を僕らはいつの間にか手を繋いで歩いていた。
「ね、目を閉じて」僕はドキドキしながらラウルに導かれた。
「さあ、いいわよ。目を開けて」
僕は深く息を吸い込んでゆっくり目を開けた。
「信じられない」もうこれ以上他に言葉が出て来ない。
山の頂上から見た地上の美しさは、正に別世界だった。海の中も確かに美しいことは間違いない。
だけど僕は初めて空を見た。真っ青な大空に続く無限に続くであろう宇宙。
昨夜見た暗い空に輝く星々を巡ってみたいとふと、思った。
その時、青い空に真っ白な大きな雲が流れて来た。
「カイジだ!」心の中で僕は叫んだ。
「あの雲は龍なのよ」と、ラウルが指さした。
「えっ、カイジを知ってるの?」と思わず言いそうになって慌てて口を閉じた。
「私の部族は代々、龍のお世話をしているの。私のお爺ちゃんが村長で受け継いでいるのよ」
そうか、カイジはいつもここからやって来ていたのか。僕は嬉しかった。雲の姿のカイジに会えて、嬉しくて心の中で泣いた。
僕とラウルはとても仲良くなり、よく海に潜って遊んだ。だって僕はイルカだったから泳ぎは得意さ。
そんな楽しい毎日を過ごしていたが、僕とラウルの別れは突然やって来た。
ある日、いつもの様に海に潜って遊んでいた。先に砂浜に上がって大の字になって青い空を見ていた。ラウルがなかなか海から出て来ない。
僕は不安になって海に戻った。すると大きな貝に足を挟まれ必死に抜けようとしているラウルを見つけた。
僕は力の限り貝を開き、ラウルの足を抜いた。ラウルは直ぐに浮上して浜に上がった。
しかし僕は自分の足を貝に入れて、開いたので今度は僕の足が挟まれて、もうこれ以上息を止めていられなくなり、遂に気を失った。こうしてアボリジニの僕は終わった。
つづく
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