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妊娠により居場所を失う。一方で、居場所がないから妊娠する方も……。「にんしん」をきっかけに自由で幸せに生きることができる社会をめざして

妊娠が「困りごと」になる

たとえば、20代のAさん。彼女は、性風俗店で働いている。
客の子どもを妊娠。誰にも言わず、性風俗の寮で産んだ。

たとえば、生活保護を受給しているBさん。
経済的な余裕がないなか、妊娠したことに不安を感じている。
生活保護のケースワーカーに、叱られてしまうのではないかと怖くて妊娠のことを伝えられない。

特定非営利活動法人ピッコラーレ・代表理事の中島かおりさんらは、こういった、妊娠が「困りごと」になっている人々の相談支援を行ってきた。
ピッコラーレには、月700件を超える相談が寄せられる。
その内容は、「生理が遅れている」「避妊に失敗した」というものから「たったいま、自宅でひとりきりで子どもを産んだ」という女性まで多様だ。
中島さんたちは、産む産まない、育てる育てないに関わらず、相談者と一緒に悩み、考えながら問題に立ち向かっている。

そんな中島さんも、相談支援をはじめる前は妊娠に関して葛藤を感じた1人だった。

中島かおりさん

「いつかはお母さんになるんだろうなあと思っていたけど、具体的に何歳でとか計画していたわけではないし、絶対に子供欲しいとか、何人欲しいとかイメージをもっていたわけではありませんでした。恋愛も相手があることで思い通りにならない中で、結婚をする前に妊娠をしました。仕事のことも考えて、葛藤がなかったと言えば、嘘になります。
ただ私の場合、周りに喜んでくれる人、受けいれてくれる人がいて、家族も協力してくれて、職場も『じゃあ今後どうやって働き続けていくか』と一緒に考えてくれて、何とかなったんですよね。もしも独りきりだったり、他にも抱えているものがあったら、どうしようもなかったのかもしれません」

たとえ妊娠が計画通りだったとしても、妊娠期や出産、子育ての過程で葛藤を抱えない人はどれだけいるのだろうか。
ただ、抱えながら過ごすことができ、そしていつの間にか解消されるような葛藤ではなく、今日明日を生きるか死ぬかを考えなければならないくらい、追い詰められることがあることを知ったのだという。

産んでいい人、産んではダメな人

2人の人間がいて初めて成立する妊娠。二人の関係や、周りの環境、様々な偶然の要素によって、妊娠は嬉しいことにも困ったことにもなりえる。
それは、決して人間が完全にコントロールできることではない。

「避妊ってどんなに気をつけても、失敗することもありますよね。
それに、男女の配偶子同士の相性って性格が合うとかとも違うし。
本当に、なんで相手がこの人だと子供ができないんだろうってこともあったり。相手があることを100パーセント計画通り、思い通りにすることなんてできないのかもしれません」

しかし今の日本では、まるで妊娠を完全にコントロールしなければならないという圧が女性にかかっているようだ。

「以前、女性で教員をしている方から相談がありました。4月から担任をしているんだけど、妊娠した。年内に出産だなんてとてもじゃないけど言えない、って。経済的にも自立している女性でも妊娠するには様々なハードルを超えなければなりません」

妊娠は、誰にでも開かれたお祝いごと。そう信じたい。
しかし、今の日本は「産んでいい人」と「産んではいけない人」をまるで社会がジャッジしているように感じられる。
妊娠の背景は実に多様だ。そして、妊娠は絶対に女性だけでできることではない。それなのに社会が一人一人の事情を無視し「あなたのせいなんだから」と言って封じ込めようとも、そこにはままならない現実を生きている人々がいる。
中島さんたちは、その現実を生きている一人一人に向き合っているのだ。

妊娠によって居場所を失う、居場所がないから妊娠をする

「妊娠が困り事になる背景のひとつに、居場所の問題があります」

産んで自分で育てたいと思っても、親から出て行けと言われてしまったり、
妊娠をしたことによって彼との関係性がさらに悪くなり同棲先にいられなくなったり。
妊娠がわかって、仕事を続けられなくなるから寮を出なければならなくなると、途端に居場所を失うことになるのだと、中島さんは言う。

「誰にとっても、妊娠出産、そして育児は1人で抱えるには大変なことです。
妊娠中から出産、産後の間の生活保障、母体と胎児の健康のために必要な医療にかかる費用、育児などを自分だけでなく、パートナーや家族、周囲の人たちの助けを得ながらでないと難しい。
とても『一人でも、未成年でも、仕事がなくても、何とかなるよ』と簡単には言えないです。
妊娠をきっかけに生活が出来なくなるほど困ってしまう人たちは、だからこそ、その妊娠を誰にもいうことができません。
妊娠以前から心を安らかにできる居場所や周りに心から信頼して頼りにできる人がいないとか、そういう状況にあったら、なおさら妊娠がさらなる大きな困り事になってしまうことが、この活動をしていてどんどんわかってきました」

ある相談者のストーリー

中島さんはある相談者のストーリーを話してくれた。

「相談窓口を開設して半年くらいが経った頃、一人きりで出産したという方からメールが届きました。
風俗店の寮に住んでいた彼女は妊娠が明らかになると仕事を続けることができず、寮をでなければならなくなります。誰にも妊娠を言えないまま出産の日を迎えたのでしょう。
最初のメールにはこう書いてありました。

『誰にも言わず、一人で赤ちゃんを産みました』

メールにはそう書いてありました。
私たちが最初に送ったメールのお返事はこうでした。


『はじめまして。私たちにご相談くださってありがとうございます。
妊娠中も不安で一杯の日々を過ごされたことでしょう。
初めての出産をたった一人でよく頑張りましたね。
赤ちゃんが無事に生まれてくれてよかったですね。
これからどうしたらいいか、一緒に考えていきましょうね』

そんな内容でした。

彼女と赤ちゃんについて、私たちがわかっているのは、メールアドレスと出産日、そして赤ちゃんの名前だけでした。
彼女と赤ちゃんと私たちを繋ぐのはメールだけ、この細い糸をできるだけ途切れないように、私たちはすぐに24時間体制になり、まずは本人の身体の状態、おっぱいは出ているか、赤ちゃんのうんちやおしっこの状態はどうか?そんなことをメールでやりとりし続けました。


『オムツは何回くらい変えている?ウンチの色はどう?』
そんな質問を投げかけると、
『5回くらいかな?昨日までは黒かったけど、黄色っぽくなってきた』
などととても具体的な返事が返ってきます。

並行して、社会福祉士のメンバーが福祉制度などの情報を少しずつ彼女に伝えるうちに、その方が住む地域がだんだんとわかりましたので、その地域の保健センターと連携しながら、彼女と赤ちゃんにとってキーパーソンとなる人を探しました。

そんな日が2週間ほど続いたある日、
彼女に私たちは今度はこんなメールを送りました。

『これからの子育てはまだまだ長くて、
いつまでのその部屋の中で二人きりでいきて行くわけにいかないですよね。大変だと思うけれど、どうか自分で電話をかけてください。
あなたと赤ちゃんが安全な場所で安心して暮らしていってほしい、それが私たちの願いです』

彼女は、勇気を出して連携先に連絡をしてくれました。
無事に地域のサポートに繋がり、周囲のサポートを受けながら、彼女が子育てを頑張っている彼女に私たちも励まされています」


これはほんの一例だと、中島さんは語る。

安心した居場所に繋ぎエンパワメントする

安らかに休める居場所がない、これは衣食(職)住の問題でもある。

冒頭で紹介した、性風俗の寮で子どもを産んだAさん。
彼女のように性風俗で働いていると、専用の寮で暮らしている場合がある。
しかし、この寮は仕事とセットであるため、仕事ができないと住み続けることは出来ない。
つまり、妊娠したことが職場の人間にわかると、寮を出なければならない。仕事と住居を同時に失うということは、彼女にとって衣食(職)住の全てを失うことと等しい。

そして、衣食住を失い、新たな居場所を探すことが妊娠のリスクを生むと、中島さんは言う。

「例えば、親からの暴力から逃れるためにやっとの思いで家出ができたとしますよね。家出先を友達の家にしても、友達の家にずっといられるわけではありません。そのため、次はSNSで知り合った人の家を転々とするようになるかもしれません。
または、彼氏の家に泊まる子もいます。寮のある仕事を探すかもしれません。

居候という、対等ではいられない関係性の中で、そこにいるための代償として自分の性をさし出さざるを得ない、その場にい続けるために、あるいは相手との関係が今よりも良くなるようにと性行為に応じているケースもあります。その結果の妊娠を避けることは本当に難しいのではないでしょうか。

安心で安全な居場所がないということが、妊娠に繋がり、誰にも言えず、一人きりで抱え、病院にもかかれないままになってしまうということと関係していると感じます」

居場所を探す中で、多くのリスクに晒される女性達。
一方で、中島さんは彼女達に生きる力を感じるそうだ。

「彼女たちには、今あるどうしようもない選択肢の中から、それでもその時の最善を探して、今よりもより安全だと思える場所に出ていく力があります。そして、受け入れてくれる男性が優しくしてくれるから一瞬家より安全かもと思う。
そうやって一旦安全そうな場所を得るけれど、またそこが安全ではないと判断したら別の頼りさきを探す。そうやって彼女たちは、懸命に生き抜こうとしています」

そんな彼女たちが持つ、社会や人と繋がる力を守るためにも、緊急性の高い妊婦さんをエンパワメントできる居場所に繋ぐ必要がある。

足りないシェルターをアンブレラ基金で

「妊娠4ヶ月の妊婦さん。一緒に住んでいる相手男性からの暴力があり、自宅を飛び出してきたが帰宅できない状況。近くに頼れる人もおらず、所持金も300円。
『もう家を出てきちゃいました、怖くて帰ることができない』
というような電話が公園からかかってくることもありました。
最近では、ネカフェにいますって妊娠6ヶ月の妊婦さんから連絡をもらったこともありました。

こういう時、女性相談センターや警察に緊急一時保護をしてもらえるように働きかけるけれど、それがうまくいかない場合は、まずお会いして一緒に行政の窓口に行くことが、私たちにできることです。でも、ほとんどの場合行政の窓口が開いているのは月から金の日中なので、例えば、週末にSOSをキャッチできたとしても、私たちとの待ち合わせの日までの数日をネットカフェから知人の家へと変えながら過ごしている場合があります。

もしも、アンブレラ基金があれば、ネットカフェにいると聞いた時点で、ネットカフェの宿泊費を渡しに行くという理由で、相談者に会いに行き、事情を聞かせてもらうことができるかもしれません」

現状、居場所がない妊婦さんからの相談を受けた場合、子ども支援や女性支援をしている他の団体と連携をとり、緊急性の高い場合はそれらのシェルターを案内することが多い。
ただ、その日の夜に相談者から連絡を受けてそのまま入所できるようなシェルターはほとんどない。
アンブレラ基金を利用すれば、シェルターに入所するか行政の支援と繋がるまでの間に、相談者は公園や見ず知らずの男性宅ではなく、一旦ホテルやネットカフェに身を置くことができる。

「女性相談や福祉事務所、保健センターなど、彼女とお腹の赤ちゃんに必要な支援がある窓口に繋がることさえできれば、そこからは生活保護の申請や、母子手帳の交付、病院の受診など一連の流れでやって貰えると思います。
居場所については、母子生活支援施設や妊産婦支援施設に入って、出産までを安全に過ごすとかっていう選択肢になることが多いです」

「にんしん」をきっかけに自由で幸せに生きることができる社会の実現のために

様々な困難を抱えた妊婦さんのプラットフォームになり、それぞれのニーズに合わせた支援先と繋げることを大切にしながら、相談窓口から見える課題の周知や様々な視点からこの課題に取り組み、相談者さんのその後の生活を考えるために「特定非営利活動法人ピッコラーレ」を設立した。

「妊娠葛藤相談支援窓口で相談者さんの話を聞く中で、例えば世間の人達がまだまだ知らない背景があったり、今ある制度がどれだけ使いにくいか、声をあげられない人たちの存在を知りました。
今の日本には妊娠をしている女性のための法律を根拠法とした制度がほとんどありません。
『児童福祉法で』とか『DV防止法で』といった根拠法の元の制度を妊婦も利用している、そしてその場合は出産することが前提になっている制度ばかりです。そうではなく、妊娠してる女性、妊娠で葛藤している女性のための法律や制度があっていいんじゃないかと思います。
そのため、今きている相談の背景を調べたり、構造化して見える形にし、調査や政策提言という形で、この課題を、彼女たちの存在を知ってもらいたいです」


妊娠葛藤相談、研修・啓発事業、そして居場所のない妊婦に対する医食(職)住の提供。ピッコラーレは、様々な方向からこの課題に取り組んでいく。

多くの困難を抱えた人々が、妊娠をきっかけにピッコラーレと繋がり、自分らしい幸せを作っていく。
産めなかったけど、妊娠をしたから自分のいままでの生活を切り替えられる。
安心安全な場所を見つけられる。
そのためにも、困った時に「困った、助けて」と言える社会を作っていかなければならない。
「あなたのせい」なんて、誰が決められるのだろう。そして、誰かのせいにしてこの現実はなんとかなるのだろうか?
一人一人の、その場その場を生きるための行動があって、今がある。
誰のせいでもない。
ただ、みんなの生きる力が集まって、次の一人の次の人生に繋がっていくのだ。[了]

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【取材・執筆】 原田詩織
都内の私立大学4年生。有限会社ビッグイシュー日本東京事務所と、ビッグイシュー基金で計1年間のインターンを経験。現在、ビッグイシュー日本アルバイト、つくろい東京ファンドボランティア。

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