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【イタリア旅日記05】パドヴァの老舗ホテルとサンドイッチ屋さんでの再会

2022年イタリアに旅して思ったことあれこれ 〈第5回〉 

 イタリアにいた間はパドヴァに滞在していた。宿泊していたのは旧市街にあるホテルで、13世紀に建てられた聖アントニオ大聖堂は目と鼻の先だった。 

 ホテルの歴史は1700年代にさかのぼり、ゲーテが宿泊したという記録もあるらしい。現在の名前と形態になったのは1950年だそうだ。147室あるらしいが、廊下や階段が入り組んでいて、私は滞在中もしょっちゅう迷っていた。

 その理由の一つは、自分の部屋が廊下の先からさらに小さな階段を上った先にあったことだ。チェックイン後、初めてドアに鍵を差し込んだ時は、建物の隅に作り込まれたこじんまりした部屋を予想していたが、それとは真逆で、一人にはもったいない広さの部屋が目前にあらわれた。普段暮らしている部屋のゆうに2倍はある。

窓からは大聖堂が見える。鐘の音が今も耳に残っている。

 なぜ、この部屋になったのか不思議だった。滞在中、清掃中でドアが開いている他の部屋を覗いてみると、日本の一般的な観光ホテルと同じくらいの広さだった。予約したのは最安値のプランだったので、ラッキーだったのだろう。天井に張り巡らされた寄せ木細工が美しかった。

 パドヴァに見どころはたくさんあるけれど、私が一番に向かったのは「ダラ・チッタ(Dalla Zita)」というバゲットサンドイッチ屋さんだった。7年前にイタリアに来た時、その店をお母さんと一緒に切り盛りしているラウラと知り合った。ラウラは柔道の黒帯を持っていて、大の日本びいき。それに犬を飼っているところも共通していて、話が盛り上がった。ラウラの相棒はインディという元気な黒ラブ。

 ダラ・チッタは30年以上前、ラウラのご両親が始めたお店だ。建物は160年の歴史がある。ご両親はこの店を居抜きで買い取り、それから新しくしたのはカウンターだけで、天井、床は当時のまま、スツールも100年以上のものだという。

 その一方で、お客さんの希望を取り入れて、メニューは常時、増やしたり、入れ替えたりしている。壁に貼られたカードはすべてメニュー。200種類はあるという。古いものと新しいものの両方を大切にするバランス感覚がとても素敵だ。

 作り置きはない。ラウラとお母さんは注文を受けてから一つ一つ作る。その間、お客さんとのんびり話をする。誰も急いでいない。「『早い』はウチのウリじゃない」とラウラは言っていた。

 ドゥオーモに近いダラ・チッタはすぐに見つかった。この7年間はうっすらとFBでつながっているだけだったので、覚えてくれるかどうか心配だったけれど、名前をいうと、ラウラはすぐにわかってくれた。それからサン・ドナ・ディ・ピアーヴェでやっている写真展の話、お互いの愛犬の話、ラウラがお店と並行して年に何回かやっているナミビアガイドの仕事はコロナですっかり途切れていることなどをひとしきり語り合う。

 プロシュートとラディッキオとナスのサンドイッチ、それにプロセッコをごちそうになった。払おうとしたのだけれど、がんとして受け取ってくれなかった。お母さんも奥でうなずいている。

 翌日、もう一度訪ねて、いくつか持っていっていた小さな手製の本をわたした。ラウラは泣きそうになって喜んでくれる。日本語だけなんだけど、亡くなった愛犬を思い出す詩を書いたの。そう話すと、ラウラはほんとうに大泣きしはじめる。またね、またね、とぎゅうぎゅう抱き合う。

 今度はいつ会えるだろう。でも、またきっと会える。


(話に夢中でほとんど写真を撮っていませんでした。こちらの記事(↓)イタリア語ですが、ラウラとお母さんの素敵な写真があるので見てみてください!パドヴァに行くことがあったら、ぜひ訪ねてくださいね!)

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