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多くを語らない女たちのたくらみ~9月前半の読書記録「黄金比の縁」「グレイス・イヤー」


黄金比の縁(石田 夏穂)

はじめましての石田さん。
雑誌ダ・ヴィンチ連載中のエッセイ「9.5時間戦えますか?」が面白かったので小説も読むことにしました。
主人公は「(株)Kエンジニアリング」の採用担当である女性・小野。
とある出来事から花形部門を左遷され、会社に対して復讐をしようと考えています。そのために、彼女はあえて自社にとって不利益をもたらしそうな人間を採用し、密かに会社の企業価値を落とそうと画策し続けます。
小野が考えたのは、会社の体力を奪うために「とっとと辞める秀才」を採用すること。それを見出すための小野の評価軸は、顔が黄金比か、そうではないか、のみ。

就活生よ、もっと我が社に集まれ。もっと我が社にESを送れ。一次面接に来い。そして、私の推した黄金比の諸君。入社の暁には、とっとと辞めてくれ。

「黄金比の縁」70頁より

小野が「黄金比の顔」を評価軸にしているのかについては、是非とも小説を読んで味わってほしいところですが、個人的にはちょこっと捻じ込まれる比喩表現がツボでした。(明朝エマ・ワトソンとか!腹抱えて笑ってしまった)
ただ、ラストの場面では、もっと主人公に地雷を踏みに行って欲しかったような…だけどすごく読みやすくて、面白かったです。

グレイス・イヤー(キム・リゲット)

いやぁ…参りました。すごかった、この本。
ずっと気になってはいたのです。

「だれもグレイス・イヤーの話はしない。禁じられているからだ」ガーナー郡では、少女たちに“魔力”があると信じられている。男性を誘惑したり、妻たちを嫉妬に狂わせたりできるのだと。その“魔力”が開花する16歳を迎えた少女たちは、ガーナーの外に広がる森の奥のキャンプに一年間追放される。“魔力”を解き放ち、清らかな女性、そして妻となるために。この風習について語ることは禁じられていて、全員が無事に帰ってくる保障もない。16歳を迎えるティアニーは、妻としてではなく、自分の人生を生きることを望みながら、“グレイス・イヤー”に立ち向かう。キャンプではいったい何が?そして、魔力とは?生死をかけた通過儀礼が、始まる―。

e-hon「グレイス・イヤー少女たちの聖域」商品解説より引用

物語の舞台が、超ウルトラ男尊女卑な架空都市の話なので、正直最初は読みながら「もう途中で読むのやめようかな…」と思いました。
少しずつ読みすすめていたのですが「グレイス・イヤー」を読んだ日は悪夢を見たり、夢の中で叫んでいたり(←夫の証言)してたみたいです。
なんたって、グレイス・イヤーは「ディストピア×フェミニズム」小説だから。
ほんっと~~になんともいえない不気味さがあって、序盤からしんどいしんどいしんどい…。

・ガーナー郡では、グレイス・イヤーである16歳の女性すべては「清らかな女性」になるためにサバイバルキャンプに参加しなくてはいけない。全員が生きて帰れるとは限らない。

・グレイス・イヤーを迎えた16歳の女性は、結婚相手を自分で選ぶことも、また結婚しないことを自分で選ぶこともできない。すべては男性の間で決められ、取引されている。

・グレイス・イヤーのキャンプ期間中に行方不明になった女性の妹は、罰を受けなければいけない。

・女性は<より弱き性>とみなされ、発言権を持たない。

・女性は全員三つ編みにしなくてはならない。(髪を三つ編みにしていると隠し事ができないと男性に信じられているため。リボンの色も立場によって決められている。)

・女性は夢を見てはいけない。見た夢の内容によっては処刑される。

・女たちがいっせいになにかを行うことは禁じられている。

これはグレイス・イヤーの舞台であるガーナー郡のしきたりの一部ですが、もう書いているだけで結構つらいものがある…。
読みすすめられず、机のわきにずっと置いていたのですが、表紙に描かれている少女の目(おそらく主人公であるティアニー)が、どこから見ても目が合う猛々しい龍の天井画のように見えてきてしまって、観念して読み続けました。。

Hayakawa Books & Magazines(β)より「「ページを開いたら後戻りできない」「まさに“禁書”」いま必読のディストピア小説『グレイス・イヤー 少女たちの聖域』書店員さんコメント」より引用


けどね!冬の章で、ライカーが登場するまでは頑張って読み進めてほしい。
ここから俄然、希望が見えますから。
男性と女性が手を取り合って生きる暮らし。こっからはもうページをめくる手が止まらなくて、最後まで一気読み。ライカーとは結局どうなるのか、ティアニーは無事にグレイス・イヤーから帰還できるのか、ラストは個人的には意外な展開でしたが、涙が止まりませんでした。

目の端にちらっと赤いものが映る。そこに向かって歩いていくあいだも、心臓の鼓動がどんどん早くなっていく。あの花だ。もう少しで忘れてしまうところだった。つまづいたふりをしてそこまで這っていき、完璧な形をした花びらにそっと触れてみるが、いつのまにか花が二つに増えている。こんなふうに広がっていくのかもしれない。一度にひとつずつ。ゆっくりと、でも着実に。

「グレイス・イヤー少女たちの聖域」 430頁より引用


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