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後輩とグリーンピース

今は遠く離れたところに行ってしまったけど、ふとした瞬間に思い出す人物がいる。

彼は、私が会社員時代に人事担当として初めて面接し採用した人物だった。

採用後は、仕事もしっかりこなし、ユーモアのセンスに溢れ、周りの人々を楽しませる才能は天下一品だった。

彼が入社してから、社内の人間関係が改善されるほどのリーダーシップとはまた違う独特の雰囲気を醸し出す人物だ。

社内では、きっと上司と部下という関係なんだろうけど、当人たちは先輩、後輩という関係だと思っている。私の自慢の後輩なんだ。

そんな彼だったが、ワンマン社長のブラックワークについて行けず、入社から3年後に辞めることになってしまった。

彼のいない職場の空気は重く、日々の長時間労働、管理職という立場でメンタルも崩壊しそうになり、私も耐えられずに10年勤めた会社を去ることにした。

「たまには仕事しない時期もあっていいよね」と、ちょっと罪悪感もありながらの無職生活にワクワクしていた矢先、先に退職した後輩から連絡がきた。

「先輩、暇してますよね?ちょっと派遣登録付き合って下さいよー」

「はぁ?今更?派遣登録するの?いや、無理だから。そうゆーのマジ無理だから」

と断ったけど、どうしてもというので、仕方なく登録だけすることに。

当然、登録だけで済むはずもなく、後輩の口車に乗せられ、某コンビニのお弁当製造ライン業務へ行くことになってしまった。

ある特定の職種を批判する気持ちは全くないが、人には向き不向きがあるんだよ。

私はベルトコンベアで流れてくる、そぼろと炒り卵の2色弁当の上に、グリーンピースをトライアングル状に3つ置くというミッションを担当することとなった。 

ひたすらグリーンピースを3つだ。

大きめなボウルに入った沢山のグリーンピースを、薄いとはいえビニール手袋をした状態で3つ掴み取ることが、どれだけ難しいか思い知らされた記憶が、今でも鮮明に脳裏に焼き付いている。

同じ製造ラインにいる後輩は、ラッピングの確認(不良が出たらはじく)ミッションを担当していた。

ずるい。

私より格段に楽そうだ。

最初は、グリーンピースを掴み取るだけでも大変なのに、ベルトコンベアで止まることなく流れてくる2色弁当にプレッシャーをかけられ、時間の経過が早く感じられたが、さすがに数分で要領を得ると時間の経過が遅く感じでしまう。

24時間平等に決められている「時間」なのにだ。
楽しい時間はあっという間に過ぎ去り、つまらない時間は永遠に続く…

逆だったらいいのに…

この状況での気分転換は、工場内にある大きな掛け時計を見て「あと何時間、何十分で終わりだ!」とポジティブにカウントダウンするしかない。

たまに製造ライン後方にいる後輩の様子を横目で伺うと、ラッピングチェックより掛け時計チェックのほうが格段に忙しそうだった。

そんな後輩の掛け時計をみる瞳は、完全に死んでいた。

そして彼と目が合った瞬間、お互いの気持ちを理解し、お互い頷いた。

「今日で辞めよう」と…

帰りの送迎バスの中で、後輩が発した言葉は…

「次は配送仕分けっすね!」

えっ?そこ?

私も彼のような性格だったら、きっと人生もっと楽しめたのだろう。

ちょっとメンタル落ち気味の時に限って思い出す良き思い出。

彼との楽しかった時間…

彼の分まで人生楽しまなくちゃね!

人生は一度きりなんだから。

そんな後輩は、現在、北海道で人生エンジョイ中です。

いただいたサポートは大好きなカフェオレ☕️代として大切に使わさせていただきます。