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blew up spirit 6

彩乃は近くにあるカフェに入り落ち着きを取り戻していた。
(ハァ~なんであんな事に…)
頭を抱えながら大きく溜息をつく。
この様に衝動的に反論してしまう事は今回が初めてではなかった。以前にも店で接客中に客の一人が風俗嬢を貶す発言をして咄嗟に反論をした彩乃と喧嘩になってしまう出来事があった。その時は店長が仲裁をして事なきを得たが、彩乃には威圧的な相手に対し反抗的に振る舞ってしまう性格があった。
「ハァ~もう帰ろう。保育園終わっちゃう」
コーヒーを飲み干し立ち上がろうとした時カフェの入り口から一人の女性が入って来た。長い黒髪を藍色のシュシュで束ね、薄い水色のブラウスをインにしてジーンズを履いている。鏑木紗英だった。
「やっと見付けた!」
彩乃は目を丸くして驚いた
「えっ!?」
鏑木紗英は驚く彩乃を尻目にスタスタと彩乃の向かいに座り店員に注文をした
「ルイボスティーください」
彩乃はおずおずと尋ねた
「鏑木…さん?」
「そう!鏑木紗英です!お姉さんはあの日風俗店にいらっしゃったスタッフさんですよね?今日来ててびっくりしちゃった!」
鏑木紗英はデモの後と言うこともあり少し興奮気味の様子だった。
彩乃はおどおどとしながら言った
「はい、そうです…あの日店長と議論していた時に立ち会っていた風俗嬢です。西田彩乃と言います。実は今日は鏑木さんを探してこのデモにやって来たんですが、何故かあんな事になってしまって…」
「私を探してたんですか!?どうして?」
「鏑木さんにお伝えしたいことがあって…でも今日のデモであんなことになってしまって、フェミニストの皆さんにも鏑木さんにも嫌われてしまいましたよね…」
「とんでもありません!主催者も、みんなも物凄く感心していましたよ!あれだけの数のフェミニスト相手に堂々と反論して、私も新しい視点と考えられる機会をいただきました。むしろ感謝していますよ!」
感謝…?あの張り詰めた緊張感と殺気のこもった視線、フェミニストとは言うなれば女性の権利を勝ち取る為に育成された戦士の様なものだ。その集まりの中心で子羊の様な自分があれだけ反論をした、今考えると恐ろしい事をしてしまった。とても感謝などしてもらえるとは思えない。しかし目の前の鏑木は少なくとも彩乃に対しフレンドリーだ。
「本当に怒ってないなら、聞いて欲しいことがあります」
「はい!勿論どうぞ!」
彩乃は自分が風俗業を辞めてキッチンカーを開業しようとしている事を話した。また、自分の子供に将来自分と同じ仕事に就かせたくない事、風俗業の代わりとなるセーフティーネットに興味がある事、自分が風俗業を始めたきっかけや、会社員時代の事なども話した。彩乃は最初は緊張しながら話していたが、紗英の明るく気取らない相槌や仕草に徐々に心を解し、親近感を深めていった。
「凄い!行動力あるね!って言うか風俗ってそんなにお金稼げるんだ!」
「うん、若いうちはね。30代になったらもう終わり」
「って言うか30代に見えないんだけど!めちゃくちゃ若くない?」
紗英がほぼ空になったルイボスティーのポットを持ち上げカップに注ぐと2、3滴だけ中に落ちた
「ぜひ私も彩乃さんの事業を手伝わせてよ。色々と手伝えることがあると思う」
「本当に?嬉しい」
「キッチンカーも平日は授業があるからダメだけど、土日なら手伝えるよ!」
「授業?」
「うん、私は大学生だから。あと2年。卒業したらすぐに事業を立ち上がる予定!彩乃さんとの仕事はその地ならしって感じね」
彩乃は両手を握り締める
「すごい、人生でこんなにわくわくするのは初めてかも」
「わたしも!めちゃくちゃわくわくする!」
二人は意気投合し笑い合った。
めい花の保育園の閉園は16:00、現在時刻は18:30だった。

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