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blew up spirit 8

「彩乃ちゃんが居なくなるのは寂しいわ」
彩乃の勤める風俗店の店長は店のHPの更新作業をしながら言った
「長い間お世話になりました。あと数か月お願いします。」
「やりたいことが見付かったのなら何よりね。キッチンカーオープンしたら私も食べに行くよ」
「はい、ありがとうございます」
会社員等が退職する場合、本来なら有休消化をし退職した後、失業保険を貰って余裕を持って次の職を探し始めると言う事ができるのだが、風俗嬢は個人事業主として委託と言う形で雇用される事が殆どで、彩乃も例外ではなくギリギリまで風俗店で働きキッチンカーのオープンが整ってから退職するしかない。キッチンカーが完成するまでの半年間は風俗業もしつつ、キッチンカーの準備をし、めい花の育児も並行すると言うハードスケジュールをこなさなければならなかった。

「ママ、これ不味い!」
めい花は彩乃の作ったクレープを吐き出しながら言った。
「ええっ…結構自信作だったのに…アボカドジャムクレープ」
「ゲロの味がする!」
キッチンカーのメニュー開発は難航していた。ただのクレープだけでは競合店も多く目を引き難い。アレルギー仕様で米粉と豆乳で作っているのは商品として大きな付加価値だが、やはりそれだけでなく見た目や味で客の目を引ける完成度は必要であり、素人の彩乃が一朝一夕でできる様な事ではなかった。
「やっぱり変に大人向けのオシャレさを意識するより、子供や家族客向けのキャッチーさを追及した方がいいのかしら…?」

「事業計画書には、彩乃さんがキッチンカーを始めるきっかけになった事や、お店の持ち味、他店と違っている所、これからの展望を書いてください」
休日を使って、紗英と共に彩乃宅にて補助金の計画書を作成していた。
「初期費用、開業から5年間の収支、競合店のデータあたりは私が受け持ちます。こう見えても経済学部なんで!」
「ありがとう、いいの?こんなに手伝ってもらって。」
「いいんです!私の始める事業への投資ですし、キッチンカーは卒論のネタにも使えるんで!」
彩乃は紗英の様な明るさとバイタリティがあれば自分の人生も違ってたのかな。と、ふと思った。
「あとは購入する業者以外でキッチンカーの見積もりを数点出してもらって、請求書や領収書類も全て提出できるように保管しておいてください」
「分かった、書類の整理苦手だけどなんとか頑張る」
「あとキッチンカーの屋号なんですけど、どうします?」
「うーんそれなんだけど、考えてるのがあって、いつもめい花に味見してもらってるし、私がキッチンカーを始めるきっかけにもなっているから「めいクレープ」と言うのはどうかなと思って」
「いいですね!めちゃくちゃ可愛いです。それでいきましょう!」

「順調に進んでるみたいだね」
彩乃が仕事を終えめい花と共に帰宅すると、合鍵を使いアキラが先に帰っていた。
「うん、今までで一番忙しいかも」
「何か手伝えることがあったらいつでも言ってよ」
アキラは部屋の掃除をしながら彩乃と話している。彩乃の部屋はアキラが掃除をしなければすぐに散らかってゴミ屋敷の様になってしまう。洗濯物やゴミ出しもアキラがやる事が多い。食事の準備もアキラがする事が多く、また平日の殆どはアキラがめい花を迎えに行く。彩乃とめい花にとってアキラは居なくてはならない存在になっていた。
「風俗辞めてごめんね。仲介料の事もあるのに」
「いいんだよ。彩乃ちゃんとめい花ちゃんが幸せになってくれる事が一番だから」
「本当にありがとう」

補助事業への書類提出から3ヵ月が経ち、結果が送られてきた。採択だった。
「紗英ちゃんやったよ!」
「これで経費をかなり削れますね!」
「今日は祝勝会にしよう!」
「アキラさんにも教えてあげましょう」
「うん!」
彩乃はアキラに電話をしてみたが出なかった
「運転中かな?」
「彩乃さん、補助事業の採択の報告がてらキッチンカーの完成度合いを見に業者さんの所に行きませんか?」
「そうね、そろそろ半分は出来てる頃だし…」
彩乃と紗英が注文したキッチンカーの業者の所へ向かうと、キッチンカーの姿はなく、見知らぬ男が何やら作業していた。
「あの~すいません、ここでキッチンカーを頼んでいた者なんですが」
紗英が男に尋ねた
「キッチンカー?ここはただのレンタルスペースで、そこまで大掛かりなものは作ってないと思うけどなぁ」
「レンタルスペース?」
彩乃が業者に連絡してみるが電話には出ない。
「え…アキラさんも電話に出ないですか?」
「うん、さっきから鬼電してるけど全然出ない。メッセージも既読にならない」
「お金って全額払ったんですよね…?」
「うん…550万…」
「騙された…?」

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