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優雅なひとり旅の始まり、のはずが…

新大阪行きの新幹線の中。
温かいカフェオレを口に運び、深呼吸に近い一息をついた。
優雅なひとり旅が始まった時の話を聞いて欲しい。



1泊2日の初めてのひとり旅。
独身の時は友達と、
結婚してからは夫と、
子供が生まれてからは家族と、
ひとりで旅行に行く選択肢は、考えたこともなかった。

アラフィフまだまだやってないことはある。

旅行は車で行くことが多く、新幹線を使うのは帰省の時くらい。その時だっていつも夫が予約してくれる。私は後ろを付いて行くだけだった。


東京駅には、30分以上余裕をもって到着。
時間はたっぷりあるのでトイレに寄り、飲み物を買っておこう。
新幹線乗り場の近くにあったお店に入り、温かい飲み物を探す。店内には冷蔵庫に入っている冷たい飲み物しか見当たらない。

仕方ない。
時計に目をやり、冷たい水を購入。

ネットで予約した新幹線の切符。スマホの中のPASMOにちゃんと連携されているのか改札を通すまで不安で、少し早めに改札を通った。
スマホをタッチして出てきた切符を抜き取り、ホームへ向かった。
無事、クリア。

新幹線はまだホームに入って来ていないが、ホームには新幹線を待つ人達がすでに並び始めていた。
切符に書かれた車両番号を探し、列の後ろに並んだ。

まだ時間はある。
特にすることもないので周りを見渡す。

ひとり旅の始まり。

今まで、”おひとり様”って寂しいイメージを少し持っていたけど、おひとり様を満喫している友達が言うように”自由”がここにはある。
寂しいというより、わくわくしてきた。

目線の少し先にホットコーヒーの自販機が目に入った。
温かい飲み物が買える!
自販機の前には、女の人が1人立っていた。
どうやらできあがるのを待っている様子。
次に待ってる人も居なそうだし、どうしよう買おうかな。

今朝はコーヒーを飲む時間がなく飲まずに出てきたことを思い出したら無性に飲みたくなった。新大阪に到着するまでの時間、コーヒーを飲みながら新幹線の旅を満喫なんていいじゃない!
腕時計を見ると出発まで後9分ある。大丈夫、行ける!

私は列から外れ自販機へ向かった。

前の人はまだ自販機の前に立っていて、コーヒーの出来上がりを待っている。並んでいる間にメニューを決めておこう。ざっと目を通して、カフェオレの砂糖なしにしようと決める。料金を確認してお金を財布から取り出しておく。準備万端。

前の人のコーヒーはまだ出てこない。ちょっと遅すぎやしないか。
一体何を頼んだのだろう。
そう思った時に目に入ったのが、自販機のところに大きく書かれた文字。

商品完成まで約95秒
発車時刻にご注意ください

見た瞬間焦って写真を撮る余裕もなかった


私が並んでいたのは東海道新幹線のホームに設置されている自動販売機「SHINKANSEN COFFEE」だ。豆を挽いてコーヒーを抽出してくれ美味しいコーヒーが飲める。ただ問題は、抽出までに約95秒もかかるということ。
タイミングを見誤ると発車の時間に間に合わないということになる。

腕時計を見ると10:03の表示。まだ大丈夫、1分くらいすぐだ。

前の人がやっとコーヒーが出来上がったようで取り出して、去って行く。
私の順番が来た。
あらかじめ準備しておいたぴったりの小銭を入れてカフェオレを押す。
間違えて砂糖ありを押してしまったけど、まっいっか。甘いのも嫌いじゃない。


95秒だよね・・・えっと1分が60秒だから、1分と35秒・・・


さっき1分くらいって何故か思ってしまったけど、1分半かぁ…押してすぐ出る自販機と比べたら時間は、まぁまぁかかる。
単位が秒で書かれていると短く感じるけど、1分半って考えると少し長く感じるよね。
そう思ったら急に発車時刻が気になり、不安がよぎる。

前の人もかなり時間かかってたよなぁ~。
本当に95秒で出来上がるんだろうか。
カフェオレにしたから、ミルク入れる時間がプラスでかかるんじゃないだろうか。
しかも砂糖ありにしてしまった!余計なオプションを付けてしまった事が悔やまれる。

新幹線がホームにいつの間にか入って来たらしく、並んでいた人々が車両の中へ入って行く。

まずい、みんな乗り込み始めている。

新幹線まで1分とかからずに行けるホームのこの場所で、まさか乗り遅れる訳にはいかない!
しかも1人。
助けてくれる人も居ないし、乗り遅れて笑い合える人も横には居ない。
片手にはボストンバックの荷物があるし、出来上がったコーヒーをサッと取ってダッシュで乗らなくちゃいけない!


えっと、えっと、
何分からコーヒー作り始めたっけ?

自販機の前でひとり焦り出す。
淡々とコーヒーを抽出してくれている機械。


1分半って長いー!

単位を秒で書くの反則ー!

と心の中で叫んだけど、待つしかない身。
いや、いざとなったらコーヒーを置いて行くしかない。
しかし、その判断は何分前にすれば?
1人だから自分で決断しなきゃ!

コーヒーを静かに待つ顔をしながら頭はフル回転。

並んだ時は10:03だったけど、順番が来たのが10:05だったとして、発車時刻は10:09。
4分あるからね、絶対間に合うよ、間に合うはずだけど、本当に5分開始だった?
時間を見なかったことが悔やまれる。
何分にボタンを押したか確認してないから、確信がない!

うぅ~ソワソワする。


間に合うと思うけど
お願い早く出来上がってー!


自販機の内カメラでコーヒーの抽出状況が映し出されている。

私みたいにヒヤヒヤしてる人や、なんでこんなに時間かかってんだーって怒っちゃう人向けなのかな?ちゃんと丁寧に作っておりますよアピール。時間に余裕があったら楽しみに待てるけど、今はそんな余裕がない。何でもいいから早く作って〜!

自販機に映る曇った画面の中で何やら動きが。
あ、カップに蓋をしている。
そろそろ出来上がりじゃないか⁈

この視覚効果、結構大事かも。
鞄をギュッと持ち直す。
時間が迫っているのは確かだ。
頭の中でシュミレーションする。


自動販売機の小さな扉が開いた瞬間、ものすごい早さでカップを取り出し、すぐさま自販機に背を向け後ろに向かって大股で1歩踏み出し新幹線に飛び乗った。
入り口が狭くて鞄がぶつかったが、そのまま突進した。


間に合ったー!
時計を見る余計さえなく、とりあえず乗り込んだ。

ドキドキさせてくれるぜ「SHINKANSEN COFFEE」!

私がぎりぎりに買ったのがいけないんだけど。

自分の座席の番号を再度確認して、上のネットに鞄を乗せた。座席に腰を下ろした瞬間、新幹線がゆっくりと動き出した。

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