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【女】【恋愛】たくさんの愛を、ありがとう

突然だが、15歳上の彼との関係を解消した。

話を切り出したのは私だった。

仲違いでも、心変わりでもない。これからの二人の道を考えて決めたことだった。

これほどの円満な別れは、経験したことがない。

好きなのに、どうして別れたのか?

それは、美しい思い出のまま心に閉じ込めておきたかったからだ。関係に疲れてすれ違う前に。あるいは、物理的に離れて、自然消滅してしまう前に。そのためには、今ここで区切りをつけなければならなかった。

涙にまみれたぐしゃぐしゃのひどい顔で、たどたどしく伝える私の頭を彼はそっと撫でてくれた。

「強くなったな」と。

彼も、このままではいけないと思っていたはずだ。どこかほっとしたような、そんな顔をしていた。

借りていたものをすべて返し、とりあえずこれからも連絡を取り合うことを確かめ合い、キスをして、私は彼の車を見送った。

澄んだ初夏の空。

なんだ、最後は泣かなかったじゃん。

笑顔で見送れた、よかった。

そうして、ついさっきまで彼といた部屋に戻って来て。

私が無造作にベッドに置いていたタオルハンカチが、いつの間にか綺麗に折り畳まれていて。

それを見たら、もう、だめだった。

両手で顔を覆って、声をあげて泣いた。

ありがとう、ありがとう、と心の中で呟いた。


◆◆◆


不倫から始まった、ただの幼い恋だったかもしれない。

けれど彼がくれたものは、間違いなく無償の愛だった。

これから経験を積んで、彼とまた何かの縁で出会えれば、その時は恋人を超えた関係になるはずだ。

秘めた恋愛だったから、ツーショットは撮れなかったけれど。川遊びに出かけた時、水面に映った二人の影を映した時の写真は宝物だ。

私と彼が「二人で」いたことの、唯一の証明だから。

別々の軌道が、たまたま重なり合っただけ。それでも、彼が生きている、この世界にいるということが、私の心のなかに真実として残り続ける。

生きていて、よかった。そしてこれからも、生きていく。

私達は、まだ旅路の途中だ。


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