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【禍話リライト】押し入れの星

 禍話の守備範囲は広い。山、海にまつわる怪談の後、「こうなったら、宇宙に逃げるしか……」との書き込みがあり、語り手のかぁなっきさんが反応してこんな話を紡ぎ出した。

 恋愛シミュレーションゲーム「アマガミ」の主人公について、かぁなっきさんが何かの折に語っていた時に、それを聞いた友人のAさんが「怖いですね」と言う。語っていたのは、主人公が落ち込んだ時に押し入れに閉じこもるというくだりだ。
 何も怖い話はしていないので、「どの辺が?」と問うた。
 すると、「友人のひきこもりの弟を励まそうということがありまして」と聞いた話が次のようなものだった。

【押し入れの星】
 
 Aさんが、後輩・Bさんの弟を励まそうとお宅を訪れた。二人で向かいながら「あだ名は、ドラえもんか屋根裏の散歩者だな」と軽口をたたく。
 詳しく話を聞くと、2階の自室の押し入れから出てこないのだという。ノックして二人で弟の部屋に入ると、やはり中に人影はなかった。奥にある押し入れを指し、Bが「中です」と小声で口にする。ふすまを軽くノックして「開けるぞ」尋ねると、「開けるな!」と返事があった。
「今日は面白い先輩が来てるんだ、一緒に飯でも食いに行こう」
 誘っても、否定的な答えしか返ってこない。
「やだ。中で星を見てる方がいい」
 AさんとBさんは二人して顔を見合わせた。正直、これほどのものとは思っていなかったのとともに『星ってなんだろう?』と疑問が湧く。B兄弟のやり取りは続いているが、ミニプラネタリウムみたいなものかと自身を納得させた。
「星なんか見ても、いいことないよ」というようなやり取りが小一時間続き、ようやく弟君は出てきた。まるで、天岩戸の前でアマテラスオオミカミが出てくるように頑張るアメノウズメやアメノタヂカラオのような気分だったという。
 食べ物で釣って出てきたはいいが、しばらく風呂にも入っていなかったらしく、形相がすさまじい。
「すみません、シャワーでも浴びさせて準備をさせますんでA先輩はちょっと待っててもらっていいですか?」
と嫌も応もなしに、弟君の部屋に取り残された。
 ぼんやりと部屋を見回す。
『星って言ってたけど、どんなんだろう』
 興味がわいた。『話のタネになるかも』との思いもあり、押し入れの上の段に上り、ふすまを閉めた。しかし真っ暗なだけで、星など全く見えない。
『ひきこもりが長引いて、妄想の中で星を見ていたのか。精神状態は思ったよりもヤベぇな』と込み上げてきて、思わず、「星なんかねえじゃん」と口走ってしまった。
 すると間髪入れず耳元で、
「あいつには見えてんだよ」
と言われた。
 もちろん、一人部屋の押し入れのこと。大人が入った横に人がいるスペースなどあるはずもない。
「ああっ!」
と叫んで、気を失ってしまった。
 しばらくして、Bさんが「先輩、お待たせしました」と迎えに来た時に、「何ふざけてるんですか」と起こされたそうだが、その時は押し入れの下の段にいた。どうやら気を失っている間に下段に行ったのだそうだが、全く記憶はない。

 以来、Aさんはすこし押し入れが苦手になってしまった。誰もいないとわかっていても、いるはずのない人の気配を感じてしまうのだという。

 かぁなっきさんは、B君の弟が見ていたのは星ではなく、彼を見る無数の眼だったのではないかと話を〆た。

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出典

元祖!禍話 第五夜 ストロングスタイル回帰(2022年5月28日配信)

01:28:00〜

https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/733327316


※本記事は、猟奇ユニットFEAR飯による著作権フリー&無料配信の怖い話ツイキャス「禍話」にて上記日時に配信されたものを、リライトしたものです。

下記も大いに参考にさせていただいています。

禍話 簡易まとめWiki
https://wikiwiki.jp/magabanasi

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