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【禍話リライト】ごろごろ

 現在は状況がずいぶんと様相が変わってしまっているが、修学旅行の訪問先といえば、沖縄、北海道、京都が最も選ばれるベスト3ではないか。
 そして、そのうち沖縄と京都への旅行で怪異に出会ったという話は、比較的よく聞く。京都については、曰くや因縁がないはずなのに……。という話も。
 これも、修学旅行先、京都での話。

【ごろごろ】

 修学旅行では、引率の先生も大変だ。
 一生に一度の旅行だけに、生徒たちもなかなか寝ないし騒ぐ。話も尽きないだろう。

 S県の高校が京都への修学旅行へと向かった。
 秋のシーズンたけなわ。たまたまいつもの旅館は、この高校のみの貸し切りとなっていた。
 夜、12時前に女子生徒の部屋へとA先生が見回りに向かった。1時間ほど前に枕投げをしていて、さんざん注意したところだ。まだ騒いでいたら、正座でもさせようと思って、大部屋の扉に手をかけた。
 すると、部屋の雰囲気がおかしい。
 確かに騒いでいる生徒はいる。しかし、先ほどとは違って少数、下手すると一人のような気がする。
 内心、「先ほどのことを鑑みて、そんな状況あるか?」と思いながら部屋に足を踏み入れて驚いた。
 入ってすぐの場所に多くの生徒が固まっているのだ。それぞれ思い思いに立膝だったり、身を寄せ合ったりしている。
「お前らどうしたんだ?」
 皆、神妙な面持ちでこちらを見る。例えていうなら、ふざけてガラスや壺を割って見つかった生徒のようだった。
 少し落ち着いて見回す。
 ふすまが閉まって見えないが、奥の布団が並べてある部屋からは、相変わらずバタバタと何かが動く音が聞こえている。
 そこでA先生は気が付いた。
 全員いるのだ。この部屋に寝泊まりするはずの生徒全員が、この入口の狭いスペースに集まっている。
 遊びに来てふざけている生徒がいるのか、とも思うが雰囲気が重い。
 いつも眼鏡をかけている学級委員の子が声を上げた。メガネは手に持ったままだ。
「先生、奥の部屋の中を見てきてください」
 言われるがまま、ふすまを開けた。
 旅館の常で、多くの布団が延べてある。生徒の姿は見当たらないが、一つだけ、布団にキレイにくるまっている子がいた。
「アハハハハハ」
 声を上げながら、さながら大きなトイレットペーパーのような姿で、延べられた布団の上を右に、左に転げまわっている。
 A先生は、この部屋に泊まる予定の生徒はもちろん、他の生徒もきちんと覚えているものの、その声には全く覚えがない。
 A先生は、後ろ手にふすまを閉めて、皆が集まる場所へと戻った。よく見ると何人かは涙ぐんでいる。
 すると、先ほどのクラス委員の子が再度声を上げた。
「先生、あの子、誰ですか?」
「さぁ……」
 旅行の疲れもあって、頭も真っ白だ。とりあえず、その場にいた生徒全員を、職員が宿泊する部屋へと連れて行った。
「どうだったんですか?」
 生徒指導の体育教師が聞く。ぞろぞろと多くの生徒を連れて戻ってきたことにも疑問を持ったのだろう。
「知らない子が右に左に……」
「えっ!」
 他校の生徒が紛れ込んでいるなら、大ごとだ。
 ガタイの大きな生徒指導の先生と連れ立って、再度先ほどの部屋へと戻った。

 同じく、ふすまの前に立つと、先ほどよりも大きな音がするような気がする。
 他校の生徒ならまだしも、不審者が入っていたらかなり深刻だ。
「こらっ!」叫ぶなり、生徒指導の先生が中へ入った、と思ったら、すぐに出てきてふすまを閉める。
「一人だと聞いていましたが」
 肩で息をしながら問われる。
「一人の生徒が布団にくるまってふざけているようなんです。気持ち悪いでしょう」
 A先生が先ほど見た姿をそのまま伝える。
「あの~、一人じゃないな」
 聞くと、転がっている生徒以外にも右と左の壁にそれぞれ人が立っていて、転がっている子の動きに合わせて手を右に左に動かしている。転がすフリをしているのだ。もちろん、その二人が転がっている子を動かしているわけではない。
 声を上げているのは、布団の中の子だけだった。壁の二人は比較的若い年代だった。
「うちの生徒でしたか?」
「いえ、知らないですね~」
 ふすまの向こうからは変わらず、転がっているだろう子の声だけが聞こえてくる。
 しょうがないので、そのまま職員の宿泊する部屋へと戻り、予備の布団を工夫して、生徒たちと先生たち皆で雑魚寝をしたのだという。

 翌朝、件の部屋へ行くと、人は一人もいなかった。
 しかし布団は、敷布団も掛布団も、枕投げ大会があったかのようにぐちゃぐちゃになっていた。
 旅館の責任者を呼んで、事情を説明するものの、「えぇ! 過去に聞いたことがないですね」。困惑する旅館の担当者を尻目に、A先生が言う。
「でも実際に、部屋がこうなっているわけですから」
 責任者と一緒に来た仲居さんが口を滑らした。
「この部屋、よく分からないんですが、押し入れに何か貼っていませんでした?」
 宿の責任者は、その言葉に少し反応したものの、その仲居を部屋から追い出した。

 たまたま波長が合ったのかもしれないが、一生の思い出になる大切な旅行の夜に、訳の分からないものが現れて転がりまわったら、それはずいぶんと恐ろしい……。
 京都に今もその旅館があるかどうかは、分からないという。
                             〈了〉

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出典

元祖!禍話 第25夜(2022年10月22日配信)

15:20〜

元祖!禍話 第二十五夜
https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/749047661

※本記事は、猟奇ユニットFEAR飯による著作権フリー&無料配信の怖い話ツイキャス「禍話」にて上記日時に配信されたものを、リライトしたものです。

下記も大いに参考にさせていただいています。

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