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【禍話リライト】襖の向こうの命乞い

 後情報で、がらりと怖さが増す話がある。
 元の話もそこそこ怖いのに、スパイスが加わることで全く違う味わいになってしまうのだ。

【襖の向こうの命乞い】

 その時、高校生2年のAさんは何となくの流れで皆が怪談を披露する流れになっていたという。夕刻6時ごろの放課後の教室。夏の夕日が暮れなずむシチュエーションは、怖い話をするのにぴったりだ。
 本で読んだ話やテレビで見たエピソードのあと、各人の体験を聞く段となった。
 話はいくつか出た。
 おばあちゃんの一周忌に、嫌に線香の匂いが強いと思っていたら仏壇に線香を備えるのを忘れていた話など、ややライトな体験談がいくつか並んだ。

 それまで皆の話を頷きながら聞いていたBさんが、流れでこんな話をし出した。
 「私が中学生の時、家で寝てたら金縛りにあったんだ……」
 普通の金縛りは、数分、長くても10分ほどだと聞くが、なかなか解けない。目だけが開く、視野の隅にある時計は無情に時を刻み続ける。
 心だけが焦り、体中から油汗が滴るのが分かる。
 すると、部屋の隅にある閉じたふすまの向こうから男性の声が聞こえた。
「ケンジだけでも助かりませんか?」
 声は父のものだったという。相槌を打ちながら同じことを言う母の声も聞こえた。ケンジというのは、2歳下の弟の名前だ。
「ダメですか、男の子ですし、ケンジだけでも……」
 誰かに両親がお願いしているようだ。
 言い方から類推するに、ケンジは生かして、私は要らないというようにも取れる。
 30分ほどしたら、金縛りは解けた。と同時に、父母の声も消えた。
 そのまま駆け寄って襖を開けるが、そこは荷物が積みあがった押し入れで、もちろん誰の姿もなかった。
 しばらくすると、弟の部屋から「ぎぃゃ~!」と叫び声が聞こえた。
 駆けつけると、布団の上にうずくまったケンジが「俺もすごい長い時間体が動かなくて……あれが金縛りってやつかな。怖ぇよー姉貴」と汗だくのままつぶやいた。

「あれから、何となく両親と折り合いが悪くなっちゃってさ、勝手な話なんだけど。祖父母としか話しなくなっちゃんたんだよね」
 場が少し沈む。それまで開陳された話の中では、実体験ということもあって現実味が違う。
「勝手な思い込みかも知れないんだけど、それから両親も気まずそうなんだよね。今日にいたるまで。ずっと」
 Aさんは、リアルな家庭事情を含んだ嫌な話を聞いちゃったなと思いながら、その場はお開きとなった。

 家に帰って、夜にクラスメイトの親友Cと電話をしていた。Cは、クラス委員長でさっさと帰宅していたので、ミニ怪談会にはもちろん参加していない。
「今日俺さぁ、何となく怖い話の流れになっちゃってさぁ、Bちゃんからこんな話聞いちゃったよ」
と、Aさんが聞いた話を開陳する。
「えぇっ!」
 Cさんは、大声で驚いた。
 確かに怖い話ではあるが、そんなに大声を出すような話だろうか。
「Cよ、そんなに驚くような話じゃないだろ」
 Aさんが言うと、Cさんがこう捲し立てた。
「え! おまえ、それ本当にBがそう言ったのか? 冗談で彼女はそういったんじゃないのか」
「何で、何で?」
 Cさんの声が震えているのが、電話越しでも分かる。
「僕さ、Bちゃんの家の近所で幼馴染だから知ってるんだけど、彼女の両親、幼稚園の頃に交通事故に遭って二人とも死んでるんだよ。以来、祖父母に育てられてたんだ」
 Aさんは、思わず電話を切ってしまったが、慌てて掛け直す。
「ごめん、怖くて思わず切っちゃった」
「切るなよ! 何だよ、お前に何か起きたのかと心配したよ」
 気まずい沈黙が、二人の間に流れる。
「何度も行ったことがあるから知ってるけど、彼女の両親は、中学の頃にいたとしても写真だよ。『気まずそう』って何だ」
 ぼそりとCは口にした。

 Aさんは、「かぁなっきさん、無暗に怖い話なんかするもんじゃないですよ」と話を締めた。
                       〈了〉

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出典

元祖!禍話 第十三夜(2022年7月23日配信)

3:50〜

https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/739476149

※本記事は、猟奇ユニットFEAR飯による著作権フリー&無料配信の怖い話ツイキャス「禍話」にて上記日時に配信されたものを、リライトしたものです。

下記も大いに参考にさせていただいています。

禍話 簡易まとめWiki
https://wikiwiki.jp/magabanasi

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