見出し画像

【禍話リライト】電車の足元

 満員電車は心を殺さないと乗り切れない。
 都会で毎日この洗礼を受けている人はよほどのタフさがないと大変だろう。
 満員電車につきものなのが痴漢だが、今や男性が女性にするだけではなく、さらにエスカレートして切りつけや薬品をかけるなどその他のバリエーションも増えているそうだ。
 そして満員電車は通勤電車だけではなく、沿線でのイベントやダイヤの乱れなどでも発生する。これは、そんな突発的な満員電車での話。

【電車の足元】

 今から数年前Aさんが高校生の頃、学校からの帰りに電車に乗ると、ものすごく混んでいた。
 いつもの電車で、過去にこれほど混んでいたことはない。
『今日、成人式のようなイベントごとでもあったかな? あるいは有名タレントでも来たとか』
 内心いぶかしがりながらも、何とか人の間に滑り込んだ。
 どの車両も人がパンパンで、あまり奥の方に流されると自分の降りたい駅で降りられなくなりそうなほどだった。
『きっついな』
 思いながら、何とかドアの近くに陣取ることができた。
 少し安心していると、不意に足元を小動物が通る感覚がした。
『あれっ』と思うものの、周りは人だらけで足元など自由に見えない。感触からは鼠よりは大きく、猫ほどのサイズと感じられた。
 すき間から見る感じでは、そのような生き物は見当たらない。
 また、周りの人間もそれに反応しているわけではない。
 ビニール製の傘袋か何かを誰かが引きずったのが当たったのか、そう理性的に考えようとしたが、雨も降っておらず傘を持っている人もいない。
 降りる駅まで、見通しのきかない車内で注意を払っていたが、結局分からずじまいだった。

 目的の駅に到着し、もみくちゃにされるように何とか降りることができた。その時に、人の足の間を見てみたが、それでも見当たらない。
『おかしいな』
 そう思いながら、改札口に向かいかけると一度閉まりかけたドアが開いて、中年のサラリーマンが降りてきた。
 もちろん知らない人なので、相手にせず背を向ける。
 すると、その人が「ちょっとちょっと」と声をかけてきた。
「何ですか?」
 かなりいぶかしがりながら答えると、サラリーマンは数歩こちらに近づいて、「あの……、誰かに話しちゃだめだよ」と言った。
 そのまま、背を向けて、次の電車に乗るためにホームの方へ歩いて行ったのだという。
 気持ちが悪いので、そのまま急いで改札へ向かうと、違うクラスだが利用駅が同じで知っているBさんという女の子がいた。
「今日、車両込んでたね」
「そうだね、俺が知らないだけでイベントか何かあんの?」
「イケメンが来るという話は聞いてないねぇ」
 他愛もない会話を続けていると、Bが、こう言う。
「変なんだけどさぁ……、足元に動物か何かいたような気がして」
 内心『あっ』と思ったが「俺も」と言わず、「へぇ~」と流しておいた。理由は特にない。サラリーマンの忠告を遵守しようと思ったわけではなく、本当に何となくだ。
 そのまま道が分かれるところまで来て、手を振って別れた。

 2週間ほどして久しぶりにBに出会うと松葉杖をついていた。右足にギブスをしていて、全治一か月だという。件の満員電車の時に駅で会った後、交通事故に遭ったのだそうだ。

 これだけの話だが、やはり電車のサラリーマンの忠告が気になる。A君がBさんのひとことに同意していたらどんなことが起こっていたのか。
                        〈了〉

──────────

出典

禍話アンリミテッド 第三夜(2023年1月21日配信)

9:42〜

禍話アンリミテッド 第3夜

※本記事誰も隠れておらず、FEAR飯による著作権フリー&無料配信の怖い話ツイキャス「禍話」にて上記日時に配信されたものを、リライトしたものです。

下記も大いに参考にさせていただいています。

 ★You Tube等の読み上げについては公式見解に準じます。よろしくお願いいたします。

よろしければサポートのほどお願いいたします。いただいたサポートは怪談の取材費や資料購入費に当てさせていただきます。よろしくお願いいたします。