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【禍話リライト】深夜の爪切り

 「夜中に爪を切ってはいけない」という俗信がある。昔は明かりの質が悪かったので、手元不如意の状況でけがのもととなるような要因を作らないという教えなのだという説がある。

【深夜の爪切り】

 Aさんが中学生のころ、お盆に祖母の家に行った時のこと。

 夜中に蚊に起こされた。どうやら窓からの風で蚊取り線香の煙が流され、その間隙をついて数カ所かまれてしまったようだ。電気をつけて肌に噛み跡をつけた犯人を撃退した。

 目がさえてしまって布団の上でぼんやりしていると、どこからかパチンパチンと乾いた音がする。時計を見るとすでに深夜の一時を回っており、朝早い祖父母のものとは思われない。

 廊下に出ると、寝室であてがわれた客間以外どこからも明かりは漏れていない。耳を澄ますと、音源は居間のようだ。

「こんな時間に、誰か爪を切っているのか?」

 そう思い、居間へ足を向けたが、明らかに音がしている時間が長い。長いというのは、どれだけ念入りに切っても人は両手両足しかないのだから限りがあるだろうと思うのに、音が止まないのだ。

 耳を傾けていると、熱に浮かされたような気分になってきた。当人曰く、風呂にのぼせたような感覚だという。

 あいかわらず、音は続いている。

 自分でもよくわからないが、引き寄せられるように居間の引き戸の前にいた。そして、何のためらいもなく戸を開ける。すると、そこではAさんの祖母でない老婆が、自分でない子供の爪を切っていたのだという。

 その時は、知らない人がいること自体は不思議に思わずに、むしろ爪切り音が長く続くことの方が不思議だったのだというが、居間の奥に視線をやると爪を切ってもらっている子以外にも知らない子供が三人ほどいた。

 状況を鑑みるにおかしいのだが、その時は「なるほど三人もいれば、それくらいの時間はかかるか」と得心がいって、布団が延べられた部屋に戻り、眠ってしまった。

 翌朝、目が覚めて思い出し、恐ろしくなった。怖々と向かった居間には爪が落ちていたり、人がいたような痕跡はなかった。「気持ち悪いな」と思いつつ、祖母に勧められるまま朝食の席に着く。

 うわの空で、出された田舎料理を食べ進め、デザート代わりに出されたヤクルトのような容器の飲み物を飲もうとして気が付いた。蓋代わりの銀紙がなかなか取れずに気づいたのだそうだが、数日の間切っていなかった両手の爪が、きれいに切られていた。

                             〈了〉

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出典

シン・禍話 第四十二夜 (2022年1月15日配信)

41:44〜


※本記事は、猟奇ユニットFEAR飯による著作権フリー&無料配信の怖い話ツイキャス「禍話」にて上記日時に配信されたものを、リライトしたものです。

https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/717219708

41:44〜

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