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【禍話リライト】編集を有効にする

 肝試しや心霊スポット探検へ複数人で行っても、おかしなことが起こるのが一人だけの時がある。それは、チャネルが合ったり、特別なところを見たり、何かに触れたり。
 これはそういう話。

【編集を有効にする】

 一時、怪文書ばかり集めた本がコンビニをにぎわしたことがあるが、一定の様式というかパターンが存在する。怖いモノは確かにあるが、それほどバリエーションが豊富なものではない。
 これは、禍話レギュラーの甘味さんがらみで聞いた話だという。又聞きだから正確じゃないかもしれないーーそんな注意付きだ。

 山中にリゾートマンションを作りかけて中止になった廃墟があった。山からの眺望がウリ、そんな建物だったという。
 バブルの名残と言われ、工事中で中止になったため、歯抜けのように土台部分がむき出しのところや床張りが完了していない場所があり、夜、日が落ちてから行くとかなり危険だった。
 行く人は、「一部分だけ出来ていたりして、どうしてこんな段階で終えたのか」「資金が尽きて夜逃げしたんじゃないか」などと噂しあっていたという。

 Aさんが、Bさん、Cさんとこの廃墟に行ったとき、あちこちに紙切れが落ちていることが気になった。ワードか何か、文書作成ソフトで作ってプリントしたものをちぎって捨てたもののように見えた。
 いくつか手に取ってみたが、内容は断片すぎて分からなかった。
 ぐるっと回って、奥の方の部屋に入った時、壁に1枚の紙が貼ってあった。周囲4方をテープで貼りつけてあり、はっきりとした意思を感じたという。
 内容はいわゆる怪文書で、句読点がなく文字が連なっているものだった。何度か読もうとトライしてみたが、内容は、ほとんど分からない。
「何だこりゃ」
「気持ち悪いな。変な人が出入りしてるんじゃないか」
「帰ろうか」
「帰ろう帰ろう」
 誰ともなく、そんな提案をして部屋の出口に向かった時に、そこに一枚の紙切れが落ちていた。入ってきた時は確かに無かった記憶があるという。もちろん窓などはないし、どこかの壁にあったものが、風ではがれて飛ばされてきた可能性も十分にある。
 Bさんが先頭に立って、部屋を出ようとしてその紙を踏み、3人が存在に気付いた。そのままBさんが拾い上げて、懐中電灯で照らす。
 それは、矢印が書いてあり、何かの手順書のようなものだった。他の紙切れと同じような文字だったので、そのうちの一枚だったようだ。
 冒頭に、7というナンバリングがされ、「”編集を有効にする”をクリック」と書かれていた。エクセルやワードなどへの編集指示のようにも思える。この紙もご多分に漏れずちぎり取られたもので、編集の「編」の字の糸偏のところは欠けて見えなかったものの、他の怪文書とは違い内容が分かったのだという。
「何だこれ」
「こんな山奥の廃墟に、パソコンも何もないだろ。バカバカしい」
 そんな会話を交わすと、紙を拾ったBさん、続いてCさんが黙り込んでしまった。つられてAさんも何となく声を出すのがはばかられるようになった。
 そのまま、車に向かう。
 Aさんは内心『何で黙ってるんだ?』と思うものの、そのまま皆についていく。移動中の車中も無言だった。疑念はさらに募るものの問いただすというところまではいかない。
『変なこと言ったっけ? 別に何にもなかったしなぁ』
 思い返していると、遠くにコンビニの看板が見えた。車内は20分ほども会話がないままだったので、Aさんは、コンビニに寄ろうかと皆に声を掛けようと思いついた瞬間に、突然運転していたBが声を上げる。
「末っ子の七五三の時に、神社を変えたのが間違いだったんじゃなかったのかなぁ?」
「は?」
 AもCも理解ができない、が、その後のやり取りでとりあえずコンビニには寄ることになった。
 コンビニへの短い距離の中で、思い返すもBの言葉の意味は理解できない。ーーと思っていると、
『何枚も見た怪文書の内容が、意味は分からなかったものの子どもが何人もいる大家族についてのものだ』ということに思い当たった。
 だから、Bさんの「編集が有効になってしまった・・・・・・・・・・・・・」のではないかと気付いたという。
 つまり、紙を踏んづけた人だけ、文章が理解できるようになってしまったのではないかということだ。
 Bは、コンビニを出て、皆の自宅へ向かう途中もさっきまでの無言と一転してずっと同じことを言っている。
 曰く、
「神社の流派が違うからダメなのか」
「地域が違うのが問題なのか」
 AとCは近くに住んでいたので、送ってもらって、Bだけが車で去っていった。Aさんは、Cさんに問うた。
「怖かったな。何であの後黙ったんだよ」
「お前は、近くにいなかったから聞こえなかったろうけど、Bがずっとブツブツ言ってたのが恐ろしくて」
「そうなの!?」
 廃墟で見た紙の内容を擦り合わすと、大家族がいて、子どもが一人ずつ死んでしまったというようなところまでは一致した。
「アイツ(B)だけ、精神的に何か変なものもらっちゃったのか」
 Aさんの脳裏に再度『編集を有効にする』という言葉が浮かんだが、Cさんには言わないでおいた。

 Aさんが一人暮らしの自宅へ戻ると、メールが来ていた。
 Bさんからだ。
 開くと、短いメッセージに添付ファイルが付いていた。
「今日は最後の方、黙っててごめんな。変な空気になって」
 内容はいつも通りで、安心した。
 次に添付ファイルの画像を開くと、真っ暗だった。
 それほど昔の話ではないので、保存して、アプリで明るさを調整すると、どう見てもあの廃墟に行き直しているように見える。皆で一緒に入った時はBさんは写真を撮っていないからだ。
 つまり、AさんとCさんを送った後、もう一度Bさんはあそこに戻ったのだ。

 皆さんもくれぐれも廃墟で怪しい紙を拾ったりはしないでいただきたい。
                          〈了〉 
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出典
禍話フロムビヨンド 第7夜(2024年8月17日配信)
8:45〜 

※FEAR飯による著作権フリー&無料配信の怖い話ツイキャス「禍話」にて上記日時に配信されたものを、リライトしたものです。
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