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【禍話リライト】焼け跡の円陣

 何度か書いていることだが、怪談の醍醐味の一つは、つながることにあると思う。ネンネ式ほど明確ではないとしても、近い場所、同じ道具立て、隣接した時期で、ある怪談が別の物語を掘り起こすことがある。
 これは、余寒さんの「怪談手帖〈未満〉『こおろぎ』」に出てきた焼け跡から思い出して語られた話。

【焼け跡の円陣】

 Aさんがあるとき会社帰りに、疲れて帰路についていた。
 最寄りの駅から自宅のアパートへは、街灯がほとんどついていない道を通るのが最短だった。本当に薄暗い道で、電灯を点けない自転車が来たら事故るくらいだったという。その道のわきに、昔は建物があったのだが、火事で焼けてしまって今は空き地になっている場所があった。
 そこに近づくと、5、6人が円陣を組んでいた。
 夜も随分更けた時間の事、大会か何かの後の学生がそうしている可能性も否定はできないが、微動だにしない。
 疲れているから、そのことを認識するのに少し時間がかかった。
 気付いた後に、「何故?」という思いが頭を占める。
 しかし、その横数メートルの道を通らなければ、家には帰れない。
『怖いな』
 近づく歩みを緩めて、誰か通らないか待ってみる。この通りは、時々車が行き交うのだが、こういう状況の時に限って全然通らない。
 それでも、ゆっくりと、しかし確実に円陣は近づいてくる。
 何かの見間違えかと思って目を凝らすものの、やはり、円陣を組んでいるようにしか見えない。恰好はバラバラで、皆私服のようだった。統一の作業着や、スポーツの服ならまだ状況は飲み込めるのだが、そうではない。顔は円の内側に降ろしているので、見えず、性別も判然としない。
 さらに近づく。
 すると、遠くの方から、トラックがこちらに向けて走ってくるのが見えた。走るトラックがこれほどうれしかったことはないというのは、状況を思い出したAさんの言だが、ヘッドライトがこちらへ近づいてきた。
 そう思ったくらいに、円陣の方から「うぉお!」という声がした。
 円陣を組んでいるのだから、そういう発声はつきものだが、突然のことで心臓が飛び出そうになった。
 あわてて、そちらに目をやると、先ほどと同じ、円陣を組んで頭を下げた体制のままだ。
 普通は、気合を入れたらそのまま散会するか、持ち場へ向かうものだろう。
 恐怖に駆られて、トラックのタイミングでやり過ごそうと思ったその空き地を極力見ずに、全速力で走って自宅へと帰ったのだという。

 翌日。
 仕事は休みだったのだが、やはり真実を確かめたくて日が高くなってからその空き地へと向かった。
 結局怖くてほとんど眠ることができなかった。
 途中、眠気覚ましに自販機でコーヒーを買って向かう。
 鏡は見ていないが、眼は血走っていただろう。
 万一、まだ円陣を組んでいたら、それは新興宗教か何かなのだろうとも思える……。
 空き地が見えるところまで来ると、人の姿はなかった。
 しかし、もう少し近づくと、円陣の形に白線が引いてあったという。ちょうど、グラウンドに引く白線と同じようなもので、フリーハンドで描いたのか、それほどきれいなものではなかったという。場所も、ちょうどその辺りだったので、その上に立って円陣を組んでいたのだと推察はされた。焼け跡の、黒い地面に白い線は、明るい日中でも異様さが際立っていた。
 それから、Aさんは通勤にその道を使うことはなくなった。
 線を引くためのラインカーなどはどこから持ってきたのだろうか。
 また、結局その人たちは何だったのだろうか。今も分からないままだという。

                   〈了〉

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出典

禍話アンリミテッド 第二十二夜(2023年6月17日配信)

20:35〜

※しかし、は、FEAR飯による著作権フリー&無料配信の怖い話ツイキャス「禍話」にて上記日時に配信されたものを、リライトしたものです。

下記も大いに参考にさせていただいています。

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