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【禍話リライト】五回家族

 昨日の「禍話2024夏の納涼祭」は素晴らしかった。
 吉田さんの引き出しの広さに驚き、犬鳴トンネルの話の共通点の指摘に感心し、何より怪談のラリーだけで1時間持ったことに感動した。ぜひまたかぁなっきさんとの掛け合いを聞かせていただきたい。
 さて、今週は余寒さんの秀逸な三本立てだったので、先週のものから一点。

 親しくない学友の家の、理解できないルールは不気味だ。年齢が低いとその意図も汲み取れず暗い記憶だけ残ることになる。この話が単なる気味の悪い話に終わるか、もう関わらないでおこうと考えるかは聞き手次第だ。あなたはどうだろうか。

【五回家族】

 今はこのような慣習はないだろうが、昭和の頃は、同じ地区の子どもが休むと、給食のパンやデザートなどで傷みにくいものを持っていったものだ。
 そんな話をしていると、40代のAさんが、「そういえば昔はそうでしたが、それにまつわる気味が悪いというか、頭に?が浮かぶはなしがあるんです」と話し出した。

 Aさんが小学生の時、同じ地区に病弱な女の子が住んでいたという。体育の授業も良く見学をしているような子でBさんという名前だった。
 その家に、ちょこちょこパンを持って行っていたのだそうだ。
 夕暮れ、学校帰りにBさん宅へ寄る。チャイムを押すと、Bさんがパジャマ姿で出てくる。パンを渡す。「ありがとう」と言われる。
 その程度のやり取りだった。
 最初はずっとBさんが取りに来ていたのだが、ある時期からお母さんが出て来るようになった。
 大体同じ時間くらいに行くのだが、チャイムを押すとBさんの母親が出てきて、同じように「ありがとうね」と受け取る。
 しばらく、お母さんに渡し続けて季節は秋口に差し掛かった。
 すると、今度は、Bさんのお父さんに代わった。
 小学生が訪れる、学校帰りの時間だから4時か5時くらいだろう。『そんな時間に父親がいるものだろうか。今まではいなかったけど』、そう思うものの、他の家族の事情は気にせずに給食の残りを渡す。
 最初の日は、ガレージに車があったので『Bさんのお父さん、今日は仕事早かったのかな』程度に思っていたが、次に行っても、その次に行ってもお父さんが出てきた。Bさんの病状が良くないのか、お母さんが忙しいのか、あるいは二人ともいないのか、そんなことをぼんやりと考えながらその日もビニール袋に入った給食のパンを渡した。

 翌日、学校の雑談で友人にそのことを話した。
「Bさんのうちに持って行ったら、最初は本人が出てきたんだけど、次にお母さんが出てきて、次はお父さんが……。Bさんとこのお父さんって、普通に会社務めだったと思うけど。家にいるのかね」
 話相手の友人は、しばらく考えると、こう問うた。
「日にちって大体覚えてる?」
「えーっと、〇日と〇日と……」
 指折り数えてから、小さくうなずいた。
「5回ずつで、交代していないか?」
 嫌なことに気付く人はどこにでもいるものである。そして、その指摘は正しかった。Aさんは意外と日にちを覚えているたちだった。
「お前の言った日付で並べたら、家族、5回ずつで交代してるぞ。そして、次でお父さん5回目だ」
「Bさん、結構休んでるからなぁ」

 その日は、すぐ来た。
 先生に、Bさんの家へ持って行くように言われる。
 チャイムを押す前から、すりガラスの向こう、玄関の上がり框でお父さんが座っているのが分かった。それでも呼び鈴を押さないわけにはいかない。
「ピンポーン」
 チャイムが鳴るも、反応はない。しかし、すぐ数メートル先にはお父さんがいる。玄関の鍵が開いているのかと思って、引き戸に手をかけると、すんなりと開いた。
 お父さんは、無表情な顔で座っていた。
「こんにちは」
「こんにちは」
 声に感情はない。いつもは、少なからず込められているリアクションがあるのだが。
「これ、今日Bさんが休まれた分のパンです」
「これ以上は出迎えられないんだけどどうしたらいいかな?」
 会話がかみ合わない。
「じゃあ外に置いておくとか、ポストに入れるとか……」
「うちは3人家族だからね。これ以上は出迎えられないんだけどね。どうしたらいいかな」
「それはちょっと僕には。えーと、家に帰ってお父さんとかお母さんとか先生に相談してみます」
「もう、これ以上は出迎えられないんだよ」
 話を途中で遮って「失礼します!」と帰ってきた。
 家で、両親に事細かに相談するも、「何言ってんだその人は」と返ってくるのみで、結局どういうことかは分からないままだった。
「5回で交代で、これ以上人がいないって、訳が分からない」
「ひょっとしたら、娘さんが病気がちで奥さんともうまくいかず虫の居所が良くなくて、元気なあんたに当たってしまった、そういうことなんじゃないの? 可哀想と思わなきゃ」
 父と母のそれぞれの意見は、そんな感じだったので無理矢理納得した。

 しばらくして、またBさんが休んだ。
 嫌だったが、担任には相談しなかったのでそのまま持って行くように言われた。断れないし、怖いので、5回ルールを発見した友達とは別の友人と一緒にパンを持って行った。
 道すがら、内心『誰も出なきゃ、どっか扉の前にでも立てかけときゃいいんだよな』と納得させる。
 着くと、玄関が開いていた。
 事情を知らない友人は、「夏でもないに扉開いてるぞ、不用心だな」とのぞき込む。
「気持ち悪いのがあるぜ」
 言われるがままに視線をやると、そこには粘土人形が置いてあった。前回Bさんのお父さんが座っていた場所だ。出来は相当に下手くそで、人の形に見えりゃいいんだろと投げやりに作ったものに見えた。
「へったくそな、図画工作だなオイ」
 のんきな友達はそういって粘土細工をのぞき込んでいる。
『気持ち悪い、気持ち悪い。絶対良くない』
 加えて、奥に明らかに人の気配がある。しかし、こちらをうかがっているものの出てくる様子はないので、そのまま人形の横にパンを添えて、「行こう行こう行こう」と友人を引っ張ってBさん宅を出たという。

「それからも病弱なBさんはちょくちょく休んだんですか?」
 話し終えた現在のAさんに聞く。
「休んだよ」
「どうしたんですか?」
「俺が行くしかないから行ってたんだけど、そのよくわからない奇妙な人形ヒトガタみたいなものも5回ずつ変わっていました」
「きっついですね」
「卒業式は出てきてたけど、中学は別のところに行ったから、その後どうなったかわからない」

 この話は、人怖なのか、他の奇妙な出来事なのかジャンルは不明だ。
 ただ、何故市販の人形ではだめだったのか、他に意図があったのかなど分からないことばかりだ。
                          〈了〉 
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出典
禍話フロムビヨンド 第3夜(2024年7月13日配信)
10:10〜 

※FEAR飯による著作権フリー&無料配信の怖い話ツイキャス「禍話」にて上記日時に配信されたものを、リライトしたものです。
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