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【禍話リライト】闇鍋の子

 今の若人は闇鍋などするのだろうか。
 過去、学生時代に何度か企画したが、リスクが楽しみを越えてしまうとボツになってしまった。結局うち一度は闇たこ焼き(具にいろんなものを入れる)大会になって、それはそれで今はよい思い出となったといえる。しかし、結局一度も実現しなかった。かぁなっきさんも人生で闇鍋の体験はないそうだ。
 これは、そんな闇鍋にまつわる怪談。

【闇鍋の子】

 『鍋に入れるものを悩み周りに気を使って意外に普通な鍋ができる』、『食べられないものを入れてしまって普段温厚な人が激ギレする』など、かぁなっきさんが闇鍋談義を聞いていた折、うち一人の男性が「そうだよな、ただの鍋になるよな」と暗い顔で言う。
「どうしたの?」
「俺、中学の頃、闇鍋をした記憶があったんだけど、前後の記憶が全くないんだよ」

 幼いころの記憶があやふやなのは分からないでもないが、中学生の記憶が定まらないのはなかなか珍しい。聞けば、同級生Aの家でしたことは確実なのだという。
 鍋は、普通の夕食、しいて言うならしゃぶしゃぶくらいのものだった。
 真っ暗な中、箸を動かしていると、トンッと肩が当たった。
「すみません」
「ごめんなさい」
 その時に、『あれっ?』と思ったのだという。悪ガキ仲間同士、野郎ばかりで食べていたと思ったのに、ぶつかった相手の感触や声が女の子だったというのだ。
「記憶はそれだけなんですけど」
 最近になって、鍋を行った家の同級生Aと会う機会があったので聞いてみた。
「いや~、Aんで闇鍋ってしたことあったっけ? もしかしたら俺の記憶違いかもしれないけど」
「あ~、闇鍋って言えば闇鍋だな」
と返された。
「何でお前ん家でしたんだっけ、誰かの悪ふざけかなんかだっけか」
 落ち着いて考えると、中学生で闇鍋というのは少し早いような気もする。それは、鍋の準備や用具、材料や開催場所もなかなか揃えにくいからだ。しかも、いろんなものがネットでそろうような時代の話でもない。だから重ねて問う。
「誰発信だっけ?」
「いやいや、あれはな、部屋を真っ暗にしないと妹が参加できないからな」
「おお、そうか」
 その時はあいまいな返事をして、家に帰ったのだが、思い返すとだんだん怖くなってきた。『真っ暗にしないと、というのはどういう意味だ』
 だから、その時に一緒にいたであろう別の友人Bに電話で聞いた。すると、そいつは全然鍋の記憶などない。
「闇鍋なんてやってないよ、バカなんじゃない、中学生でできるか? ああいうのは大学生ぐらいからするもんだろ」
「そうか。それはすまん。ところでAって妹いたっけ」
「いね~よ。いや、いた、いたわ。いたけど……」
「わかった、ゴメン」
 そう言ってすぐに切ってしまった。
 しかし、あの時、右肩に当たった感触や声などは絶対に思い違いなどではないという。前後の記憶がないから、どのような経緯で参加することになったのかそのあたりのことが全く分からない。

 あるいは、例えばBのようなその時の別の参加者は、前後の記憶どころか闇鍋の記憶さえも忘れてしまっているのかもしれない。話者の方は肩が当たったから・・・・・・・・鍋の記憶だけ覚えていた(消えずにいた)のかもしれない。
                         〈了〉

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出典

禍話アンリミテッド 第二夜(2023年1月14日配信)

24:55〜

禍話アンリミテッド 第二夜

※本記事誰も隠れておらず、FEAR飯による著作権フリー&無料配信の怖い話ツイキャス「禍話」にて上記日時に配信されたものを、リライトしたものです。

下記も大いに参考にさせていただいています。


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