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【禍話リライト】彼岸花送り

 花を贈るときは、その花言葉にも気を付けたい。送りたい意図と違った花を選んでしまっては、伝えたいことも伝わらない。

【彼岸花送り】

 Aさんの幼馴染のBさんは、旦那さんと離婚することになった。
 出来心から浮気をしてしまい、それがもととなり二人の住まいを追い出されて別れて暮らすことになったのだ。もちろん、一人暮らし用の小さなアパートを借りた。
 それまでは専業主婦だったが、仕事を見つけた。彼女がそもそもの原因で自業自得だが、十分に反省もしているので、Aさんは支えたいと頻繁に連絡を取っていたという。

 しばらくして簡単な手土産を持って、新居祝いに訪れた。
 しかし、ずいぶんと顔色が悪い。もちろん、離婚直後なのだからテンションは低いだろうが、それにしても数秒前に急所をどこかへぶつけたかのような血の気の引きようだ。
 聞くと、嫌がらせを受けているのだという。「旦那さんは、顔が広かったので、どこかからつながってそういうことをしているのかも」と顔を曇らせる。それほど遠くではないが、生活圏は重ならないように注意して住むところは探したはずだ。
 嫌がらせは、具体的には、彼岸花を渡されるのだという。

 引っ越しの挨拶を済ませたその日、家に戻るとチャイムが鳴った。扉を開けると子供がいた。顔に見覚えはない。つまり、近所に住んでいる子供ではない。
 その子供が、「あげまーす」と新聞に包まれた花を渡した。
 彼岸花だった。
 不吉だと思った。
 Bさん曰く、このアパートと駅の間にある河川敷にいくらでも咲いているのだという。

 しばらくして、夜中にチャイムが鳴り、扉を開けると新聞に包まれた彼岸花が置いてあることもあったのだという。
「気持ち悪いんだわ」
 顔色の悪い原因をそう説明した。
「たぶん、旦那さんじゃなくて、近所の悪ガキに目を浸けられたんじゃない?」
 思ったことを述べる。
「そうかなぁ」
「花はまだあるの?」
「いや、花は捨てたけど、新聞は残っているよ」
 ごみをまとめてあるところから持ってきた新聞を見ると、新聞の一番外側、新聞名が大きく書かれている一面が含まれるところだ。日付が古くて、五年ほど前のものだという。
 それが少し気持ち悪い。
 何枚かある、どの新聞も同じ日付なのだ。
 もちろん、そういうこともあるだろう。たまたま手元にあった新聞がその日付のものばかりということもあると考えられる。
「今度来たら、写真に撮って触らずに警察に相談したら?証拠にして」
 そうAさんはアドバイスした。
「分かった。そうしてみる」

 数日たって、BさんからLINEが来た。
「いま、チャイムの後に花が置かれていたから写真に撮った」
 しかし、画像は新聞紙だけだ。
「花は捨てたの?」
とコメントすると、
「花も映ってるじゃん(笑)」
と返ってきた。
 怖くなった。

 そのやり取りの間に思い出した。
 Aさんは、Bさん宅を訪れた帰り、彼女の言う駅までの河川敷の横を通って帰ったのだが、彼岸花は一本も咲いていなかったのだという。
 考えてみると、季節的におかしい気もする。
 それからBさんとの連絡を控えるようになったのだという。


 ちなみに、彼岸花の花言葉は、
『情熱』『独立』『再会』『あきらめ』『転生』『悲しい思い出』
なのだそうだ。
 そう考えると、もしかすると花の送り主は独立を支えたかったのかもしれない。
 彼岸花が見えないことの理由にはならないが。
                        〈了〉

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出典

元祖!禍話 第十九夜(2022年9月10日配信)

29:08〜

https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/744058541

※本記事は、猟奇ユニットFEAR飯による著作権フリー&無料配信の怖い話ツイキャス「禍話」にて上記日時に配信されたものを、リライトしたものです。

下記も大いに参考にさせていただいています。

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