【禍話リライト】おとまりの夜
今週は、「猟奇人」「怪談帖(セカンドシーズン未満)」「忌魅恐neo(未満)」と大作揃いの上、それぞれ独自の尖った切り口だったので、短い時間でのテキスト化をあきらめて9日の導入怪談を。
人は、何か不思議なことがあっても合理的な解釈を求めてしまう。人として、それが当たり前の反応なのだが、(だから「なにか不思議な体験ありませんか?」と聞いてもなかなか芳しい答えが返ってこない)これは、微妙にずれてしまった時の怖さの話。
【おとまりの夜】
40代のサラリーマンのAさんは、仕事からの帰りが結構遅かった。23時、24時頃になることもある。一人暮らしの部屋へ帰って、一杯ひっかけて寝る。そんな毎日を過ごしていたという。
ある初夏の晩、缶チューハイのプルタブを開けて、見るとはなしにニュースをつけていると、網戸の外から音が入ってきた。
「わ~~い」
10人以上の子どもが、ふざけあっているような声だ。
声は、外で遊んでいるようなものではなく、少し反響しているような調子で騒いでいる。合間に大人の女性がそれを「ダメですよ」とたしなめるような声も聞こえた。
だから、Aさんは近所の保育園でお泊まりが行われているのだろうと考えた。近くの住宅地の中に、少し大きい園があるのだ。
「今日は、そんなイベントがあるんだ」
感情としては、疲れてはいたものの神経を逆なでするものではなく、微笑ましいなと思う程度だった。きっと、夜中に起きた児童のテンションが上がって、皆を巻き込んで大騒ぎになったのだろうーーそんな風な想像を働かせたのだという。だから、一緒に寝ている先生がたしなめているのだと。
「保育園の先生も大変だなあ。純真な子供たちの面倒を見るのも一苦労だ」
そう独り言をつぶやいて、『俺にもあんな時代があったな』と残りのチューハイを開けた。
翌日も平日だったので仕事だった。
Aさんは、少しでも目先の興味を満たすために駅から自宅マンションまでの帰り道を色々変えていた。いつも同じ道を通ると嫌になる自身の性格にも起因するものだという。
すると、昨日声が聞こえたと思しき保育園の前を通りかかった。
『昨日は大変だったろうな』
そんなまるきり他人事の感想を抱いてそちらを見ると、掲示板があった。
そこには、
「当園では、お泊まり保育は実施しておりません」
ーーと大書されていた。日付は春先のもので、今から三月ほど前のものだ。思わず足を止めて「わざわざ!?」と声を出してしまったという。
おそらく、近所から苦情が寄せられたのだと推察された。確かに、この近辺で大勢の子どもが夜中にいるような場所(室内)は、ここくらいしか考えられない。だからこそ苦情が寄せられるのだろう。
そこで、ぼんやりと周りを眺めて少し背筋が寒くなった。周りの一軒家の保育園に面した側だけ、雨戸が閉められていることに気付いたのだ。台風が来るわけでもないのに。
その時は、この辺は防犯意識が高くてそういう風習なのかな、と自身を納得させたが、100メートルも進むと普通の住宅街のように、雨戸をしていない家ばかりになったという。空調などどうしているのだろうか。
きっとAさんの家には風向きか何かの関係で届いたのだろうが、その声は全く神経を逆なでするものではなく、微笑ましいものだったと言う。
「怖いのは、怖かったですけどね」
Aさんはそう話を終えた。
近所は、古くからの住宅街で大きな建物はない。先に述べたように保育園も一つしかないくらいで、小学校などはわざわざ遠くの学校まで体育館を借りに行っている状況なのだという。
では、あの声はどこから聞こえたのだろうか。
〈了〉
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出典
禍話インフィニティ 第十一夜(2023年9月9日配信)
7:58〜
※FEAR飯による著作権フリー&無料配信の怖い話ツイキャス「禍話」にて上記日時に配信されたものを、リライトしたものです。
下記も大いに参考にさせていただいています。
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