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【禍話リライト】雨の体育館

 怪異は時々思っても見ないところに爪跡を残す。
 記憶を失っていても、何かの痕跡があることも。
 これはそういう話。

【雨の体育館】

 体育館に関する学校の怪異は結構あり、禍話でも過去に取り上げられたものもある。リライトしたものもあるのでよければどうぞ(下記)。


 Aくんの中学校には、「雨の金曜日には体育館は使うな」という暗黙のルールがあった。新聞部で怖い噂を集めていた時にバスケ部の友人Bに聞いたのだという。聞いたときは「それ本当?」と返したものの、Bは真面目な顔で頷いた。
 中学校には、全校集会で使うような大きな体育館とは別に、小さな体育館が少し離れた場所にあった。確かに、雨の金曜日にはどの運動部もその小さな第2体育館か校舎内で部活動をしていることに気が付いた。Bくんに噂を聞いて、雨の日に注意するようにしたら、確かにルールは守られているように感じた。
「じゃあ、何が出るの?」
 しばらくしてからB君に聞くも、
「それはとても恐ろしいモノで、我々はおそれているのです」
ーーと直訳のような返事が来たので閉口したという。
「血だらけの女の子とか、大会に出る前に事故死した選手の無念の霊とか……」
「そういうんじゃないけど、とても嫌な目に遭う、と言われているんだ」
 そういう、雲をつかむような話をされた。

 しばらく経ったある金曜の夕刻、新聞部で議論が白熱したことがあった。何とか皆の要望が折り合いをつけることができ、いつもよりも少しだけ帰りの時間が遅くなったのだという。
 新聞部の他の連中は自転車通学で、Aくんは徒歩通学だった。
 皆と別れて、校門へと歩を向けたときに、雨が降っていることに気が付いた。ちょうど校門へのルートの途中に体育館がある。
『雨の日、金曜日、体育館って、何かあったような気が……』
 時間が経っているがゆえに忘れてしまっていたものの、キーワードだけはぼんやりとひっかかってきた。
 考えているうちに、体育館の中から「キュッキュッ」というシューズがニス張りの床を駆ける音が聞こえてきた。とともに、ボールを衝く音、周りからかけられる「集中してー」「1年、そこ違うぞ」などの声も。
『あれ、金曜に雨が降ったら大きい方の体育館は使わないんじゃなかったっけか。Bはそう言ってたけど使ってんじゃん』
 改めて、体育館を観察した。
 すると、館内が真っ暗なことに気が付いた。雨の日の夕暮れ時なのに、中から光が全く漏れてこない。
 一瞬、遮光カーテンか何かをすべての窓に降ろしているのではないかとも思ったものの、よく観察しても一筋の光も見えない。
 これはおかしい。
 近づくと、音も無くなった。
 どう考えても、バスケかバレーかは分からないが、どこかの部活が練習している音に聞こえた。急に音が無くなったので、面食らってしまったが、体育館の横面の下部に通気のための窓がしつらえてあり、その引き戸の一つだけが開いていた。中は真っ暗だ。
 覗いてみると、暗いながらも人の気配は感じられない。もし、聞こえた音通り活動していたとして、そんなに早くに撤収できるとは思えない。
 暗がりに目を凝らしていると、ネットや跳び箱などを仕舞う体育館倉庫の方で気配があった。視線をそちらに向けると、開いた扉の向こう、狭い部屋の中にみっちみちに人が詰め込まれているのが見えた。
「うわっ! 怖い怖い怖い!」
 叫んで、脱兎のごとく家へと帰った。
 濡れながら家へと戻ると、母親が声をかけてきた。
「お帰り、遅かったわね。今日は友達と遊んできたの?」
 Aくんの家はそれほど門限に厳しいわけではなかったから、問い詰める風ではない。しかし、部活で議論が白熱したのの、走って帰ってきたので感覚としてはいつも通りの時間だ。途中寄り道もしていない。リビングの時計を見上げると、2時間ぐらい遅い。辻褄が合わない。怖くなったので「う、うん」と生返事をして、洗面所へと向かった。
 考え事をしながら、うがい手洗いをしていたので、母親に「えらいね」と褒められたくらいだったという。
 その後の夕食も、全然喉を通らない。
「ちょっと変よ。大丈夫なの?」と母親に心配されたという。

 それから1週間後の土曜日のこと、その日は新聞部の打ち上げがあった。前回の激論を経て、部内の結束を高めるような趣旨だったという。
 場所は、学校近くの大型の喫茶店。地方チェーンで中学生でも気軽に入ることができ、ポイントカードなどを配っているような店だった。
 Aくんは、新聞部でも経理のようなことをしており、こういう時は皆のお金を集めて払う係になっていたという。代わりに、ポイントカードにハンコを押してもらえる特権(というほどのものでもないが)も与えられていた。
 その日も安い料理を腹いっぱいに食べ、いつものように皆のお金を集めて、会計をしにレジへ行き、財布からカードを出すと、ポイントが思っているよりもついていた。「えっ!」と思ってよく見ると、前回大量にポイントが付けられていた日付が、先週の雨の金曜の日付だった。ハンコの横に、店員がボールペンで日にちを書き込んでいる。
 全く記憶はないが、何人かと来店してAくんが皆の分を集めて支払い、ポイントが付けられていたようだ。
 結局500円くらい浮いたそうだが、以降その喫茶店へと足を運ぶことはなかった。なぜなら、記憶なしにポイントをもらった日に一緒に来ていたヤツらが来ているかもしれないから。
 後から、あの日晩御飯が喉を通らなかったのは、喫茶店で2時間も食事をしていたからだと気付いたものの、怖さが薄まることはなかったという。
                            〈了〉
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出典
禍話インフィニティ 第十五夜(2023年10月14日配信)
20:20〜

※FEAR飯による著作権フリー&無料配信の怖い話ツイキャス「禍話」にて上記日時に配信されたものを、リライトしたものです。
下記も大いに参考にさせていただいています。

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