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【禍話リライト】こっくり譚「しにたくなかった」

 ❝視える❞という人に聞くと、霊の中には人間そっくりで見分けがつかないものもいるという。また、中には特定の記憶がバッサリ抜けてしまうという話もある。
 2週続けてのこっくり譚のリライトに他意はなく、単に一番面白いと思ったためだ。今回は、きっかけこそ「こっくりさん」だが……という話。

【こっくり譚「しにたくなかった」】
 高校生のTくんが自宅の自室に戻ってきて、ベッドに腰を下ろした。今日は学校でも家庭の用事でもさんざんに振り回されてクタクタだった。
 せわしない一日を振り返りつつぼんやり休んでいると、扉の音に続いて階段を上がってくる音がする。妹のBの足音だ。
 普段はそのまま夕食まで没交渉なのだが、その日は珍しく、小さなノックの後に扉が開けられた。
「ただいまー」
「お帰り」
「お父さんとお母さんどうしたの?」
「なんか二人で出かけてて、晩飯は、冷食か何かを食べろってさ」
「そうなんだ。へー」
 いつもは、自室にこもってしまうのに、こんなやり取りも珍しい。何か言いたいことがあるのかと思って中学生の妹に水を向けてみる。
「何なに、どうしたの?」
「今日、学校でこっくりさんをしたんだよね」
「えぇ! 今どき!?」
 平成も後半のことで、社会的にこっくりさんという文化は廃れてしまっていたものの、深夜のテレビで友人が見たので「やってみよう」ということになったらしい。
 夕刻の教室で、見よう見まねでやってみると、10円玉が動き出したのだという。こっくりさんは降霊術なので、必ずしも毎回話の通じる相手が来るとは限らない。
「それで、悪いこっくりさんが来たんだと思う」
「どんな風に?」
「何を聞いても、『わたしはしにたくなかった』もしくは『しにたくなかった』としか返ってこないんだ」
 確かにそれは不気味だ。名前を聞いても、それは自殺したということですかと尋ねても、すべて答えは「わたしはしにたくなかった」で会話が成り立たない。
 それを繰り返すばかりで、深く後悔している様子がうかがえたのだという。
「『お帰りください』といっても『わたしはしにたくなかった』というばかりで、帰ってもらうの大変だったんだ。だけど気持ち悪くて」
「それは確かに気味が悪いわ」
「いたずらにしても、他のみんなもドン引きだったから特定の誰かがってことはないと思うんだ」
 そんなやり取りをした。
 きっと、そんなことがあったからBは自室に顔を出したのだと納得をした。その後、二人で冷蔵庫のものを適当に食べたのちに、それぞれ風呂に入った。

 すると真夜中、12時を過ぎたころに再度ノックがあった。扉が開いて、パジャマ姿の妹が、血色の悪い顔で部屋に入ってくる。
「どうした、大丈夫か?」
「さっき寝てたら、起こされてさ」
 友人からの電話でもあったのかと問うと、首を横に振る。
「揺さぶられて、兄貴と私しかこの家にいないから、兄貴かなと思って目を開けたら、私と同じくらいの見たことのない女の子がいて、私の体を揺らしながら『しにたくなかった、しにたくなかった』って繰り返すの。それを振りほどいて、この部屋に来たんだ。何だろう。怖い」
 話を聞くうちにTさんは気が付いた。帰ってきた時に口にしていたこっくりさんの記憶がまるごと抜け落ちている。急に寝ていたらお化けが出たと言っているのだ。学校での出来事との因果関係が語られていない。
 パニックになっている可能性も否定できないが、真っ青な顔をして震えている様子を見ると心配になる。
「悪いけど、私の部屋見てきてくれない」
「そうだな、今、ここに逃げてきたんだもんな。分かった。見てきてやるから逃げやすいように、階段のところに居ろ」
 そういって、部屋にあったおもちゃに毛が生えたようなバットを持って妹の部屋へと乗り込んだ。扉を開けて電気をつけると、妹のベッドの上の布団がちょうど人ひとり分膨らんでいる。おそるおそるバットの先で小突くと、布団は力なくへたってしまった。中に人がいたのに、うまく抜け出し型だけ残ったような形だ。
 恐る恐る、クローゼットの中やベランダなどを見ても誰もいない。確かに膨らんでいる布団は怖かったが、結論としては誰もいなかったので、待たせてある階段の踊り場へと戻った。しかし、待っているはずの妹がいない。
「おーい。もう大丈夫だぞ、誰もいないから」
 大声で呼びかけるも反応はない。家中電気をつけて見て回る。一階の表玄関もチェーンがかかっており、裏口も二重のロックがされていて、外には出ていない様子だ。「怖くて隠れているのか」とあちこち探すも、見つからない。
 両親もいないため途方に暮れて、ポケットから携帯電話を出した。母親の携帯へと掛けるためだ。すると、その瞬間に着信があった。
 母からだった。
 タイミングがいいなと思って、出る。
「ああ、どうしたの?」
「Bちゃんね、今やっと意識が戻ったのよ!」
 そこでやっと思い出した。
 冒頭でTさんがいろいろあって疲れたのは、妹のBが学校で友達と何かをしていて卒倒し、意識不明で病院に運び込まれたからだった。慌てて両親とともに病院へ向かった。父母はつきっきりで看病していたため、家にいなかったのだ。
 そのことを思い出して背筋が冷えた。
 なぜそのことに気が付かなかったのか・・・・・・・・・・・・・・・・・
 夕刻から今までの一連の出来事は、いったい何だったのか。

 恐ろしくなったTさんは、慌てて電話を切り、自転車を飛ばして少し離れた市民病院へと向かった。体裁としては意識を取り戻した妹の様子を見るためだが、訳の分からないことのあった自宅に一秒たりともいたくなかったのが本音だ。
「いや、意識を取り戻したから急いで来なくてもよかったのに」
と母に言われたものの、「いや、ほら、ね」とあいまいにごまかした。
 Bちゃんの脳波などは正常だったが、意識を失う前に何をしていたのかは「みんなと何かをしていたのはおぼろげに覚えているんだけど」と言うのみで、思い出せなかったのだという。Tさんはその言葉を途中で遮り、
「いや~よかった。お兄ちゃんは心配で心配で思わず家から自転車で駆け付けたよ」
 そう言いながらも、内心は非常に怖かった。

 本当なら、自室に返ってきた妹が顔をのぞかせた時点で「大丈夫か!」と驚かなければならないのだが、Tさんの頭の中からすっぽりと妹が入院しているという記憶が抜けてしまっていたのだ。そのことに気付いた時の恐怖は筆舌に尽くしがたい、とTさんは話を締めた。

                      〈了〉

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出典

元祖!禍話 第十五夜(2022年8月6日配信)

26:30〜

https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/741002789

※本記事は、猟奇ユニットFEAR飯による著作権フリー&無料配信の怖い話ツイキャス「禍話」にて上記日時に配信されたものを、リライトしたものです。

下記も大いに参考にさせていただいています。

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