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現場で使える!リーダーズインテグレーション【PMの道具箱 #8】

みなさん、こんにちは!

プロジェクトが結成してからしばらくすると、「リーダーとメンバーとの会話が少なく、いつもリーダーだけが忙しそうにしている」「進捗の遅れや課題が発生していても、メンバーから適切なタイミングで情報共有されない」などの悩みを持つ方は多いのではないでしょうか。

今回は、そんなチームの雰囲気を一瞬で変えられる「リーダーズインテグレーション」というチームビルディングの手法を説明します。チームの信頼関係に悩んでいるなら、ぜひ読み進めてみてください。もしかしたら、今のあなたにピッタリな内容かもしれません!


信頼関係が構築されていないことによる問題

お互いまだ良く知らないプロジェクトの初期段階では、リーダーとメンバーの距離感が大きい状態です。特に年齢差や性別が違うと、より距離を感じると思います。もちろん、どのプロジェクトでもありえることです。ただ、この時期にメンバーとの信頼関係が構築できていないと、プロジェクトが進んでから問題が発生しやすくなります。

プロジェクト中盤になって、こんなことを思ったりしませんか?それは信頼関係を構築できていないサインかもしれません。

  • 遅れているタスクをリカバリしたいけど、強く言いにくいなぁ・・・。

  • このタイミングでエスカレーション?もっと早く報告してくれれば・・・。

  • すぐにやって欲しいタスクが後回しにされている・・・。

  • チームの負荷は高いけど、成果が上がっていない気がする・・・。


リーダーズインテグレーションとは

リーダーズインテグレーションでは、メンバーの心理的安全性を保ちつつ、聞きづらいことをリーダーにぶつけます。それにリーダーが回答することで、相互理解を深め、チームの結束力を高めるワークショップです。
この方法は、まだ相互理解ができていない段階において、リーダー・メンバー間の信頼関係を構築することに特化した手法です。メンバーとの心理的距離感を解消するきっかけが欲しいリーダーの方に最適です。

どうです? やってみたいとは思いませんか?


リーダーズインテグレーションの進め方

リーダーズインテグレーションの基本的な流れは以下の通りです。

  • 実施タイミング
    リーダーの交代やプロジェクトのキックオフ時に実施すると良いです。
    まだ、お互いを良く知らない時期(1か月以内)に実施しましょう。

  • 参加者
    新しくプロジェクトに参加するリーダー(PM、PLなど)とメンバーの構成になります。人数は10名~15名前後が理想です。それを超える場合は、10名~15名前後のグループに分けて実施してください。リーダー1名に対して、メンバー複数名の構成としてください。

  • 時間
    参加人数が10人くらいであれば1時間、15名であれば1.5時間を目安にしてください。30分ほど時間に余裕を持たせると、進み具合に応じて時間調整しやすいです。ただしトータル2時間を超えないようにしてください。

  • 場所
    オンラインでも可能ですが、表情や仕草を読み取り難いため、対面をお勧めします。リーダー、メンバーの入退室があるため、会議室を事前に予約しておいてください。飲食できる会議室が良いです。

  • 準備

    • 付箋(4色あると良いです)。

    • ペン・マジックなど書くもの。

    • お菓子(飴、チョコ)・飲み物(参加者がリラックスするため)。

    • ファシリテーターの選任。

💡Tips!:ファシリテーターの選任について
ファシリテーターを選定する基準は以下の通りです。
コミュニケーション能力
・明確でわかりやすい言葉で説明、記載できる。
・参加者の意見を引き出すことができる。
・場の雰囲気を盛り上げることができる。
ファシリテータの経験
組織開発やチームビルディングに関する知識や経験がある。
・参加者の反応を見ながら、プログラムを柔軟に変更できる。
中立的な立場
リーダー、メンバーの意見に偏らず、中立な立場を保てる。
・リーダーとメンバーが安心して意見を交換できる雰囲気作りができる。

💡Tips!:ファシリテーターが意識すること
リーダーズインテグレーションでは、ファシリテーターの役割がとても大切です。以下を意識して進めてください。
・発言しやすいように、場の雰囲気を調整してください。
・尖った質問は丸みを帯びた質問に変更してください。
・メンバーの発言の匿名性が保たれているか確認してください。
・発現のグルーピングや重複を上手くまとめてください。
・各ステップの時間を進捗状況に応じて調整してください。

それでは、各ステップごとに詳しく説明していきます。

STEP1:リーダーによる自己紹介とチーム目標の説明

会議室には全員(リーダー、メンバー、ファシリテーター)がいる状態から開始します。5分前くらいに入室してもらい、お菓子を取ってもらいます(遠慮して取らない人がいます。その場合は配ってください)。この時間を利用して、ファシリテーターは軽く挨拶しておいてください。

リーダーからメンバーに向けての自己紹介と、プロジェクトで達成したいこと・進め方について説明します。緊張している参加者もいるので、場の雰囲気を和ませるためにも、ファシリテーターが軽くアイスブレイクをしながら開始してください。

1. リーダーからの自己紹介
1~2分くらいを目安に、趣味や好きなこと・物などを紹介してください。マイナスイメージになりやすい嫌いなこと・物は話さないでください。
必ず話してほしいのが、今回の仕事に関連する職務経歴です。経験がなければ、そのことを正直に話してください。それによって、メンバーからの支援を受けやすくなります。

2. プロジェクトで達成したいこと・進め方の説明
プロジェクト序盤であれば、プロジェクト計画書に沿って説明するのがやりやすいです。リーダー交代時であれば、「前リーダーとの進め方の違い」を必ず説明してください。説明を省略して新しい進め方を推し進めてしまうと、メンバーとの関係を悪化させる原因になります。

ファシリテーターは、メンバーから質問を受け付けても問題ありません。ただし、激しい質疑応答にならないように気を付けてください。

この時点で、メンバーの中にリーダーに対しての第一印象が作り上げられます。例えば、「性格が合いそう」「目を伏せながら説明しているので、恥ずかしがり屋?」「体ががっしりしていて威圧感が凄い」など。ここで挙げた第一印象と、この後にあるリーダーからのお話とのギャップが記憶に残りやすくなります。また、ここでメンバーは、自分の役割やプロジェクトの難易度をぼんやりと知ることになります。

3. リーダー退室
リーダーは会議室から退出し、次の入室まで休憩を取ります。

STEP2:メンバーからリーダーに向けての発言

会議室にはメンバー、ファシリテーターがいる状態で開始します。

メンバーからリーダーに向けて「知っていること」「知りたいこと」「知っておいて欲しいこと」「プロジェクトに貢献できること」を挙げてもらいます。発言を付箋に記録していきますが、原則として無記名としてください。また、テーマによって付箋の色を分けて記載すると、グルーピングしやすくなります。

発言が出にくい場面でもあるので、ファシリテーターは例を出しながらメンバーからの発言を促してください。また、リーダーへの補足説明を意識して、発言のグルーピングや重複する発言をまとめておいてください。

1. リーダーについて知っていること
メンバーそれぞれがリーダーについて知っていることを挙げます。リーダーと初対面の人もいると思います。その場合は第一印象を挙げてください。悪い印象を与えるような発言については、ファシリテータが角が立たない表現に修正、または補足を加えてください。

💡メンバーからの発言の例
 ・近寄りがたい雰囲気があって声を掛け難そう。※第一印象
 ・几帳面そう。※第一印象
 ・毎週家族のために料理を作っている。※知っていること
 ・仕事に対してストイック。 ※知っていること

2. リーダーについて知りたいこと
リーダーについて知りたいことを挙げます。今後一緒に仕事をする上でコミュニケーションしやすくするために聞いておきたいことを挙げます。

💡メンバーからの発言の例
 ・どのようなところにイライラポイントがありますか。
 ・プロジェクトを進めるうえで重要だと思うことは何でしょうか。
 ・自分を動物に例えると何ですか。また、その理由を教えてください。
 ・コミュニケーションで困ったことはありますか。

3. リーダーに知っておいて欲しいこと
仕事をしていく上でリーダーに知っておいて欲しいことを挙げます。ここで挙げた内容が計画(体制、スケジュール、担当など)に反映されることもあります。遠慮せず発言していきましょう。

💡メンバーからの発言の例
 ・早口で話されると聞き取れないので、ゆっくり話して欲しいです。
 ・XXの業務を長年担当してきたので、多少自信があります!
 ・雑談が好きなので、今まで朝会のアイスブレイク担当でした。
 ・子供が熱を出して、突然お休み・早退することがあります。

4. プロジェクトに貢献できること
技術、知識でプロジェクトに貢献できることを挙げていきます。
どんな細かいことで良いので、書いてみてください。意外な知識がプロジェクトの助けになる可能性があります!

💡例えば
 ・VBAでマクロを作ったことがあります。
 ・家が現場に近いため、急な現場出社でも対応可能です。
 ・飲み会をよく企画していたので、イベントごとは頼ってください。
 ・JMeterで性能試験をしたことがあります。

5. メンバー退室、リーダー入室
メンバーは会議室を退出し、次の入室まで休憩を取ります。
入れ替わりで、リーダーが入室します。

💡Tips!:匿名性について
発言記録を無記名にする理由は「リーダーに面と向かって言いにくいことを意見交換するため」です。そのため「リーダーに知っておいて欲しいこと」「プロジェクトに貢献できること」では、記名した方が良い場合もあります。内容と発言者の意向を踏まえ、記名・無記名を使い分けてください。

STEP3:リーダーからメンバーに向けての発言

会議室にはリーダー、ファシリテーターがいる状態で開始します。会議室には、メンバー発言を記した付箋が残されています。

1. 回答準備
リーダーはメンバーからの発言を確認し、回答を準備してください。発言が多い場合、ファシリテーターは質問を要約して説明するなどしてフォローしてください。
リーダーが準備をする際、メモを取るのはNGです。回答内容を考えておくにとどめてください。メモがあると、回答する時にメモを読むだけになってしまい、表情が読み取りにくくなるためです。

2. メンバー入室
リーダーが準備を終えたらメンバーに入室してもらいます。
全員が入室した後、ファシリテーターは場の緊張を解すために全員にねぎらいの言葉を掛けつつ、リーダーによる回答を促してください。

3. リーダーによる回答
メンバーから出た「知っていること」「知りたいこと」「知っておいて欲しいこと」「プロジェクトに貢献できること」にリーダーが回答します。
メンバーの前でリーダーが直接回答することで、リーダーの表情や声から人となりが非常に伝わります(凄く怖いと思っていたが、実はお茶目だった・・・など)。第一印象とのギャップが楽しい時間です。リーダーが回答をするにつれて、少しずつリーダーとの距離感が近づいていくことを感じられることが多いです。

ファシリテーターは時間を意識しつつ、質疑応答を交えながらリーダーとメンバーが意見交換できる場を作ってください。

STEP4:クロージング

会議室には全員(リーダー、メンバー、ファシリテーター)がいる状態です。

フリートークに近い形で、それぞれの感想を言います。まだ話すのが苦手なメンバーがいるかもしれません。その場合はファシリテーターが上手く会話をリードしてあげてください。

1. リーダーからメンバーへ感想を言う
メンバーに対する参加への感謝と、感想を伝えます。

2. メンバーからリーダーへ感想を言う
メンバーからリーダーに感想を伝えます。

3. 終了・解散
ファシリテーターは、意見交換が落ち着いたところを見計らい、感謝の意を示しつつ、会議を終了させてください。

リーダーからの自己開示で信頼関係が築かれつつあり、お互いに意見を言いやすい環境になっているかと思います。「ぶっちゃけ」論が飛び交い始めたら、「リーダーズインテグレーション」は大成功です! 


成功のポイント

  • ハレーションが起きないようにファシリテーターが質問内容や会話をリードしてください。
    メンバーから尖った発言が出ることがあります。そのような発言は相手を不快にさせ、人間関係を悪化させる可能性があります。ファシリテーターは、適宜発言の補足や修正を行ってください。特に異性リーダーの場合、年齢差がある場合には注意が必要です。

  • メンバーの不利益にならないよう匿名性は守ってください。
    メンバーからの意見をファシリテーターが “匿名性を意識して” 付箋に記載してください。例えば、メンバーには無料で使えるオンラインホワイトボードツールであるMiroに記載してもらい、その内容をファシリテーターが付箋に転記することで発言の匿名性を保つことができます。

  •  ステップごとに時間を区切ってください。
    長時間続けるとリーダー、メンバーの集中力が途切れてしまいます。ファシリテーターは時間が大幅に超過しないようタイムキープしてください。特にSTEP2に時間を取られやすいので注意してください。
    タイムテーブルの例を提示します。タイムテーブル上は全体で1時間5分として25分をバッファとすると、進行状況に応じた柔軟な進め方が可能です。参加人数が多い場合は、事前に考えて来てもらう(例えば、「知りたいこと」「知っておいて欲しいこと」)などして時間短縮を試みてください。

おわりに

今回は、リーダーズインテグレーションについてご紹介しました。
筆者は、メンバーとの年齢差があり意見が言いにくい現場でこの手法を導入しました。その結果、メンバーからリーダーに、リーダーからメンバーに気軽に意見が言い合えるチームを作ることができました。
リーダーとメンバーの信頼を構築することで、プロジェクトの成功確率を上げることが可能です。ぜひ、現場で実践してみてください。

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