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残穢考

おすすめドラマ・映画情報を交換する友達の間で「残穢(ざんえ)」というホラー映画は怖すぎるから見ない方がいい、という話題が出た。

実は私もその小説の方は読んだことあるのだが、個人的にはあまり感じるところはなかった。が、そもそもその手のホラー好きではないから多分見ない。と思ったところから、それよりもリアルな残穢として想起したのは、ちょっと前にニュースになったこのはなし。

林野庁が50年前に遺棄した猛毒の除草剤約26トンが、全国15道県42市町村にコンクリ詰で埋められていて、そのうち3825キロが屋久島北部の町有地に埋まっている。屋久島町が大雨や台風通過による漏洩を危惧して撤去を希望、すくなくとも正しい埋没地を示して人が立ち入らないようにするロープの設置などを求めた。

屋久島は大好きな場所です。わたしは屋久杉に森の食事を教わった。

あの美しい深い森なんてことをという怒り以上に、このような声が報道に乗るのに50年の時が必要だったということに、暗澹たる気持ちになった。

他の41の町でも、ほとんどの住民はすぐ隣に埋められた猛毒の塊のことを何も知らずに暮らしているのだろう。

「臭いものには蓋」な日本の行政らしい。

また、連想したのは、私が子供の頃、瀬戸内の豊島(てしま)で産業廃棄物の問題が取り沙汰された時期があって、中学校の担任の先生(確かコバヤシって名前だった)がその解決運動に取り組んでいたことだ。

普段は呑気な雰囲気の先生だったけど、何かの際にその話に触れたらすっごく熱く語られ、中学生だった私は、正直にいうとちょっと引いたのだ。が、今思えば、異様な「ふつう」に知らん顔をせず、市井(しせい)の人として怒り行動していたコバヤシ先生は偉い人だった。その後の経緯が気になって調べたら、いろんな記事が出てきた。まとめると、

昭和50年代後半から平成2年にかけて、県が業者に廃棄物投棄を許可してきた。豊島住民が訴訟をおこし、平成12年に調停が成立して県が判断の間違いを謝罪。29年6月(2017年)までに、14年間90万トンを700億円以上かけて処理した。(興味ある方は、こちらご参照ください)

なんと、足掛け30年のお片付けだったのだ。

50年モノの毒物問題も、屋久島の声明を機会に、全国15道県42市町村の場所が少なくとも正しく開示されることを期待したい。

この国土を引き継ぐ私たちは、その前世代からの負の遺産を知らないままに蝕まれるより、どんなに時間がかかろうとも事実と向かい合い、解決を考え続けられるほうがいいと思う。

当時のなりゆきに責任をもてるお偉方の大半はすでに草葉の陰だろうけれど、それこそ世代を超えた残穢処理をしていかねばならないのである。

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