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使えないやつでいい

「使えないやつだな」と面と向かって言われたことが一度だけあります。

選挙権を得てすぐの学生時代の頃のことでした。友達の友達くらいの薄い知り合いの男性から「今度の選挙でXX党に入れてよ」と言われて、「それは人に指示されることじゃないんで自分で選びます」と断ったんですね。そしたらその言葉がポンと出てきて、びっくりを通り越して、こんな人いるんだなって、むしろ、感心しました。学歴バリアがあると滅多にそういう目には遭わないのですが「若い女の子だからみくびられる」とはこういうことかと思って、こりゃあ不愉快だなと。

かたや、面と向かってではないけれど(多分心の中で言ったな、こいつ。)と思った経験は数知れずあります。その一例を話します。

あるとき、社外からやってきた新任マネージャーのAさんが、社員割引販売(半額ぐらいで買えるけど転売禁止で件数制限もあった)を自分の友人に融通するのを「代わりにやっといてくんない?」とカジュアルに頼んできました。私がチームで一番若い部下だったので。

「それ私用ですよね。自分でやってください」とバサっと断ったら、Aさんは、えっ!という意外そうな顔でキョトキョトして、隣の1つ上のB君に「じゃあ、Bくん、やって」と。彼は「は、はい。」って、不本意そうながら、即引き受けてました。

結局、そのAさんは案の定仕事ができなくて1年以内にクビになったし、Bくんはのちに「上司にこういう嫌がらせを言ったら数十万円の昇給とともに転属させる」というダーティな社内政治取引(というにはスモールすぎるが)に応じたことが噂になり辞職しました。やっぱりねって感じでした。

何が言いたいかというと、ある古い価値観に照らせば目上の指令に思考停止して従うことがサラリーマンの美徳だったのかもしれませんが、ポジションパワーに順応すぎると言うのは馬鹿だってこと。

さらに言えば、人の役に立つのはいいことにしても、誰の役に立つかってことは自分で選ぶべき。場合によっては期待に応えなくていい、いや、理不尽なことを期待されたらむしろ失望させたほうがよいってことです。

ザ・嫌われる勇気。

会社システムが社員の生涯の面倒を見られなくなったと言うことが悲観的に語られる昨今ですが、私に言わせれば、それはより自由な世界になるということ。本来、自律的な人間はその方が生きやすいはずなのです。

「人の役に立ちたい」というのは、多分、健全な人なら誰しも多かれ少なかれ思うことです。自分以外の誰かの役に立ち、喜ばれ、ありがとうと言われたら快感。(実際には自分さえ良ければいいって人もいるけど、その考え方は大体うまくいかない。ソシオパスでもなければ、長い人生のどこかで息切れするとか自分の掘った穴に落ちるとかするケースが多いです。)

特にこれから社会人になるという若い人は、日々それを問われます。あなたの強みは何ですか。どんな仕事をして役に立ちたいですかと。

だけど私は、若い人は自分が人の役に立つか立たないかとか、考えすぎなくてもいいと思うのです。

仕事というのは相手あってのことなので、最初のうちは何を期待されているかを捉えてそれを超えていかねばなりません。そんな中で、大きな善をなす組織の一員となったはずなのに、直属の上司や先輩から解せないことを求められるというのはちょいちょいあります。そういう時、言っていることがおかしいと感じたらその疑問を呑みこむ前に、口に出して訊いてみたほうがいいです。若いと言われようが、青いと言われようが。

まあ、言い方は大事です。今の私だったら、Aさんみたいなすっとこどっこいに対してすら、もうちょっと優しいかわし方をすると思います。

ただ、軽微な毒でも繰り返し飲んでいると、思考を蝕みます。外資系企業には、いろんな人が転職してきましたが、例えば、日本の企業に10年以上もいた人が初めての転職で外資系企業に来るとき、まあ大半がうまくいかないんですね。だけど、その激変を乗り越えるタイプの人たちというのを見ると、日々の糧を得るために与えられた仕事をしっかりこなしながらも、納得できないものは飲まないという峻別がうまくできる(つまり、そういう鍛錬をしてきた)という共通点があったように思います。言い換えれば、自律的でない人は生き残れない。

若い頃、時に「ピュアだから心配」とか「直球だね」とか言われても(上の人がそういう時、それが褒め言葉ではないことは私は百も承知していました。でも私は、彼らに「使える子だね」と言われたくて仕事してるわけではないと明確にわかっていたので)聞き流してきました。そのスタンスを貫いてきたので今の私があります。その割に16年の組織人生活というのは長く続いたと思う。外資系でよかったともいうけどね。

このnote、結構若い人も読んでくださっています。企業研修の講師として登壇する時には絶対に話せないベクトルだし、こういうアドバイスをする大人はあまりいないでしょうけど、ニューノーマルの時代に知っとくと良い視点だと思うことがあって、書くことにしました。

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