上流人脈を盾にするワガママ放題の20代グラフィッカー。派閥、クーデターを企てる姫君に荒らされる現場の戦いをゲームプロデューサーの視点で書く(ゲームin the ノンフィクション)
これは、あるゲームプロデューサーの実体験を元にしたフィクションである。
ゲーム開発の現場。
その一つにアートやゲームUI(ユーザーインターフェース)、エフェクト、あとはアニメーション業務を担当するグラフィック部門という部分が存在する。
グラフィック部門は他部署よりも女性が比較的多い。
3Dやテクニカルアーティスト部門では、一昔前は比較的男性が多いように思えたが、ここ最近では女性の比率も増えており、女性の管理者、マネージャーともちらほら出会うようになってきた。
今回ご紹介するゲーム開発現場のノンフィクションでは、とあるプロデューサーが担当したチーム内に在籍する、女性グラフィックデザイナーX(20代後半)の事例。
世の中には「三人集まれば派閥が生まれる」なんて言葉もあるが、
少人数のグループが存在すると、その中で常に頭角を維持し続けたいというボス猿願望は誰しも起こり得る。
今回はそんなたった一人の若き優秀なグラフィックデザイナーXが巻き起こしたチーム全体の混乱について触れていく。
ちなみにグラフィッカーXの通称は姫。
腕は確かだが、わがまま放題ゆえに機嫌を損ねたらおしまいということからもそういう呼び名が通っていた。
しかしまたなんでもこんなに面倒な人が多いのだろう、この業界。。。
出会い
とあるプロデュサーはある会社の役員AとBから新規のプロジェクトを任されることとなった。
その会社は比較的大手ゆえにチームがいくつか存在し、人員も豊富。
すでにディレクターとリードプログラマー、グラフィック部門のリーダーが任命されていたために、彼らとともにまずは社内からメンバーアサインをする運びとなった。
ただしある条件がついていた。
グラフィッカーX(以後、姫)を含めた、このグラフィックメンバーを起用して欲しいということだ。別にそれはよくあることなので特に気にもしていない。
開発開始。
今回はすでにある作品のリメイクのようなものだったので、期限は2年。
最初は20名ぐらいでコンセプトを改めて決め直してすぐさまモック作成へと運ぶ。大きく分けて企画4、プログラム7、グラフィックパート9で密にMTGを行いながら細かく進捗を追って進めていく。
特にチームではおおきな混乱もなく、そろそろ人員増に向けて採用も並行していた頃だった。
派閥ができる
世の中には見えない派閥と目に見えた派閥が存在するが、この小さなチームにも小さな派閥が出来上がっていたことに気づいた。
役員Aから配属希望があったグラフィックグループのリストは一緒に仕事をした経験が豊富なために非常に仲が良い女性同士のチームだった。そしてその中心にいるのがわずか20代だが実力ある「グラフィッカーX(通称:姫)」である。
そこに新卒や中途を混ぜていくとどうなるのか?ということだが、グループが別れてしまうことがあるのだ。
通常、こういうことが起こらないためにも新しい人の採用には業務に関わる人のメンバーを面談に参加させることが多い。
ただ今回のケースは別で、新卒採用として企業が採用したメンバーの参加が義務付けられていたことや、中途アサインにはあらかじめ採用されていた外部の人を起用する決まりだった。
強いリーダーの求心力がない場合や、強い派閥や徒党が存在するとどうなるのか?
チームは1つにならずに分離する。お互いがお互いを交えたくなくなる。
既存の古株メンバーとは馬が合わないということはよく起こるが、今回もその事例に合致しまくっていた。それは技術的な部分とかもそうだし、会社の文化的な価値観の浸透レベルといった細かいところまで振りかざされていた。
グラフィッカーX(通称:姫)の影響力は思いの外大きく、グラフィック部門はリーダーを無視して完全に牛耳られていた形になっていた。
グラフィックリーダーの無力化
開発チームでは毎週の定例以外にも定期的な個別MTGを実施する。
ここで、ある情報を耳にする。
古株チームに対しての不満とも言えるクレームだ。と思いきや、その問題はほぼグラフィッカーX(通称:姫)に起因していた。
「グラフィッカーX(通称:姫)が重要なパートを握っているのはわかるが、仕事の進みが遅い。休みが多い。席にいる時間が少ないし、たまに他の仕事をしているようにも思える。」
そんな声が各チームからチラホラ聞こえてきた。
そんな中、やはりというべきか、新卒と中途側でアサインされたグラフィッカーたちからのストレスも相当なものだった。
新卒グラフィッカー
「グラフィックチームでハブられている。Xさんのタスクが降りてきていて、業務量がきつい。さらに何度もやり直しをさせられるのも辛い」
プロデューサー
「え?まじで? そっちの仕事もしてるんですか? 気付けなくて申し訳ありません。それは大問題ですね。グラフィックのリーダーさんには相談しましたか?」
新卒グラフィッカー
「はい。でもグラフィックリーダーはそこにはあまり干渉してくれなくて、私たちを見てくれるのはいいんですが、業務に対してはとくに何も改善されていないです」
プロデューサー
「・・・なるほど?ちょっとリーダーに聞いてみますね」
という言葉を聞き、すぐさま情報収集とテコ入れに取り掛かった。
すぐにグラフィックリーダーとMTGを設けて、話題を振った。
すると、どうやらグラフィックリーダーはそのことを知っていたようだった。さらに新卒グラフィッカーにも相談されていたことも知っていた。
プロデューサー
「え?なんでそれを早く伝えてくれなかったんですか? なんかグラフィッカー部門だけでなく、企画からも改善の依頼が出ていますけど?」
グラフィックリーダー
「そうなんすけど。注意しづらいんすよね。1回注意したことがあったんですけどすげー反発されて、それからグラフィッカーXも僕の指示を聞かなくなっちゃって」
プロデューサー
「いやいや、これ仕事じゃないすか。ちょっともう一度、自分の仕事は自分ですることと、誰かに仕事を降る時はグラフィックリーダー通して采配してもらえるように伝えてくれませんか? ダメだった時は僕がいいますので」
グラフィックリーダー
「いや〜、でもなぁ。わかりました。伝えます」
・・・・・しばらくして
プロデューサー
「どうでした?」
グラフィックリーダー
「いや〜、ちょっとしんどいすね。なんか、僕に対しての不満をすげー言われて、そのまま役員Aさんに上長チェンジのクレームまでいいれられたんすよ」
プロデューサー
「なんすかそれ。役員Aさん関係ないじゃないすか。役員Aさんには話ましたか?」
グラフィックリーダー
「はい、話ましたけど、役員Aさんからうまくやってよって言われて」
ダメダコリャ。
頭の中であのシーンが再現された。
シンプルにそう思った。
プロデューサー
「わかりました、ちょっと僕が直接話をするので、一旦グラフィック部門は2つに分けて、新卒の方と中途の方で業務を区分してもらえませんか?姫からの仕事が舞い込まないようにタスク管理とスケジュールを詰めてください。なんなら私がグラフィック部門のリーダーも兼任しますんで」
とだけ伝えて姫と1対1で話をすることになった。
上流人脈と正論を振りかざす暴君
例のグラフィッカーX(通称:姫)と1対1でプロデューサーはMTGを行った。
すると開口一番こう始まった。
グラフィッカーX(通称:姫)
「わたし、今の仕事に未来が見えないんですけど、部署異動させてもらえませんか?」
この言葉を聞いたときに相当なやり手だと直感した。なぜならば前提などを聞く前に自分が咎められることを理解しているからである。
正直こういう人は手に負えない。
プロデューサー
「え?どういうこと?まだプロジェクトが始まって半年ぐらいですし、まだ何も言ってないですけど・・・?」
グラフィッカーX(通称:姫)
「今やっていることって古いじゃないですか。私は役員Aさんと役員Bさん(このプロジェクトにはいない役員の名前まで持ち出してきた)がデザインデイレクターやってもいいっていうから配属したし、新しいことできるって聞いたからここにきたんですよ。でも、一向にそれができそうにないんですけど」
プロデューサー
「なるほど。でもそれって最初に説明されましたよね。何をやるのかって。それを了承して配属していただけたと思っていますが、違いましたか?」
グラフィッカーX(通称:姫)
「いえ、聞いてる話と違います。でもそれを我慢してやってるんです。この作品って過去のリメイクじゃないですか。隣のチームは新規だし、ヒットタイトルのIP(知的財産)だから評価が高くなるのがわかるんですけど、このプロジェクトってリリースされてもそんなに評価されないですよね?」
プロデューサー
「それは隣のタイトルと比べると売れないと思います。おっしゃることはよくわかりますが、これは会社でやっている仕事なので、少しはやり遂げていただくことはできませんか? 」
グラフィッカーX(通称:姫)
「何か条件をいただけませんか? じゃないと私頑張れませんし、できれば今すぐにでも異動したいです。だって私、ここにいた役員C(退職して他の会社で役員をしている人の名前)さんに誘われてるから。そっちでやっておいいかなって思って。このチームでやり続けてもこれ以上技術伸ばせそうにもないんで」
プロデューサー
「なかなかひどいこと言いますね。でもそれをよくしていくのもあなたの仕事の1つじゃないんですか? 周囲からもあなたに対しての不満が出ていますし、あなたも不満だらけならやめてもいいし、部署異動してもいいと思いますが、どうしますか? 私から話をしておきますし」
グラフィッカーX(通称:姫)
「だってグラフィックリーダーは何も言わないから私たちどうすればいいのかわからないんですよ。ちゃんと指示出してくれたらそこまでやりますけど」
めちゃくちゃやばい。
さすがにここまでの事例は他に例をみない。
でもこれがマジでまかり通っているのか?と思ったがどうみても現実だった。しかも最後はグラフィックリーダーの責任に転嫁している。相当なやり手である。
とりあえず最後の話を鵜呑みにして賭けに出た。
プロデューサー
「不満はわかりますが、今の仕事を放り出されると困るので、せめて残り半年の完成までご協力いただけませんか?
新しい技術に関してですが、あなただけではなくチームでも一部の時間を使って研究時間を確保できるようにします。使う使わないは自由です。
姫に関しては、現プロジェクトの進行と貢献度、新しい技術研修のデータを評価軸として、他部署異動後もスムーズにできるよう動きます。あとグラフィックリーダーですが、私が担当して依頼をするので、それでいかがでしょうか?」
というような形で一旦収めることができた。
傍若無人を振る舞っている姫君だが、前提としてかなり優れた2Dスキルの持ち主であり、過去手掛けた作品の評判が社内外含めて評価が高い。しかも仕事が早いのだ。実際そのプロデューサーもその技量はかなりのものだと認めていたところはある。
そして上司や権威者に好かれるような立ち振る舞いがとにかく上手い。故に会話の節々で上長、役員、幹部クラスの名前から私は評価されている、知り合いがいるということをアピールしてくる。
まぁ、現場の開発進行や、そのプロデューサーにとってはなんの意味もないが、ただこういう生き方をしているです、私すごいんです!ということを言いたいのだろうと思っている。
今回のプロジェクトに配属した理由も当初は姫君がメインデザインを手掛け、それに追随する形で作品をリメイクしていくという形ではあったが、その計画はそうそうに崩れていた。
プロジェクトリリースとその後
さてそのプロジェクトはどうなったのかというと、余裕で半年以上遅延したがリリースされた。
そして姫はどうなったのかというと、このプロジェクトからは途中で離脱し、上の会話で出てきた、退職して別会社で役員になった役員Cが立ち上げた会社に転職していったのだった。
シンプルに競業避止義務(「在職中の企業と競合に当たる企業・組織への転職」や、「競合する企業の設立」などの競業行為をしてはならないという義務のこと。)に抵触しそうな内容だったが、実際のところは当人の契約書までは知らないので定かではない。
ただ、当時はソーシャルゲーム全盛期だったこともあり、そういうことが余裕で行われていたことも事実だった。
姫が出て行ったことに対して皆内心ほっとしていたところはあった。実際姫が出て行った後には派閥はなくなったのだ。
グラフィックリーダーは相変わらず一部のメンバーのみをマネジメントしていて、実際にグラフィックリーダーはプロデューサーが兼任していた。
彼女が離脱するまでの軌跡
さて、実際彼女が出ていく過程に行われたことがいくつかあった。
当プロデューサーは1回目の個人面談の後からすぐに他部署へ姫の異動依頼を出していたのだが、どの部署も引き取ることを拒否していた。
そのことを姫は独自の情報網で仕入れてきては、部署異動ができないのは当プロデューサーの責任だと言い、徹底的にディスり、退職に追い込むためにクーデータまで起こそうとしていた。
が、その協力者は全然集まらなかっただけではなく、さすがに彼女の行動がエスカレートしすぎだと諌められていたようだった。
それからしばらく休むようになり仕事もだんだんとフェードアウト。その後に、過去在籍していた役員Cの会社へと転職していった。
彼女が急にトーンダウンしたことがあったのだが、その理由が1つあり、彼女を擁護していた役員Bが別会社に転籍したことも関係していたたと思われる。彼女が離脱したのは役員Bが転籍した直後だったからだ。
結果、そのプロジェクトはデザイン部門を別の担当にアサインし、チームで完成まで漕ぎ着けることになったことは、唯一の救いだった。
カムバックする姫君
実はその先がある。
姫が転職した会社が1年でたたむことになったため、なんと出戻ってきたのである。
その会社は出戻りOKの文化があるものの、同条件では戻さないというルールだけが存在するなんとも寛大な会社である。
そしてとてもいいタイミングで役員Bもグループ会社から戻ってきたばかりだった。
一体どういうホットラインを持っているのだろうか。
普通に出戻ってきてある部署に配属されていたことには正直狂気としか思えないほど身震いがするものだが、真の政治家とかこういう人のことを言うのだろうか。これが処世術だとするならば相当なものだと驚かされる。
再び彼女とプロデューサーがすれ違ったとき、彼女は目も合わせず、挨拶すらもしなかったことは言うまでもない。
さいごに
今回のエピソードに登場したプロデューサーは私のことである。
私はそのプロジェクトからは外れたため、その後に彼女がどうなったのかは知り合いを通じてしか知り得ないが、どうやら今も在籍しているそうだ。
実はこれに似た話が私が編集部時代にいたときも実在していて、そのときも女性だったが、とにかく外部の役員や上流クラスの機嫌取りがめちゃくちゃうまい人がいた。
仕事は驚くほどできないししないが、その外交手腕が卓越すぎてずっと編集部のデスクでい続けたという事例である。
ことあるごとに私を含めて新人を小馬鹿にしては「あんたなんかどこにいっても通用しない」が口ぐせだった。
そんな彼女が突如いなくなったのは幹部が入れ替わったときだった。これは今回の事例だけではなく多く当てはまる。
いずれにしても処世術がうまい人は多いが、それに振り回される人に年齢は関係ないということがわかる。
私たちはこういう人と出会ったときにどのように対処すればいいのだろうか?と常に悩む。
繰り返しながら火の粉が飛んでこないように出来る限り関わらないようにすることと、とにかく相談ラインはフルに活用して相談することをお勧めしたい。
自分が身を引くという選択肢もあるが、出会うたびにそれをやるのは得策ではないと思うからだ。とにかく使えるものは全部使え。向こうがその気ならば、こちらも全力で対応しないと潰れてしまうからだ。
私たちはただより良いものを作りたいという気持ちの方が大きいはずである。その創作意欲を無駄な交渉戦術や、人との干渉だけに費やしてはならない。
傍若無人や、憎まれっ子世に憚らぬ世界が来ることを切に願う。
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