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対岸の火事から派生した神の一声で、多くのプロジェクトが消しとんだ経験をプロデューサー視点で描く(ゲーム in the ノンフィクション)

本記事はあるゲームプロデューサーが体験したことを元にしたフィクションである。

昨今のゲーム業界。

法人レベルのプロジェクトの多くは外部会社の協力を得て制作されている。すべて社内のメンバーだけで終わらせるプロジェクトは珍しく、大なり小なりでも何かしら外部の方、外部のパートナーの力を借りて出来上がっているる。

しかしながら、社員以外の関わり、契約に関して、プロジェクトが悪い方に傾いたり、社内の決算前などが絡んでくると、「外部取引」は急に停止、保留、または契約破棄、ということもある。

特に外資系においてはかなり多い頻度で起きやすい。

よほどの取引先との関係値ができていたとしても、絶対的権力によって寸断されることがある。

今回は、ある対岸の火事をきっかけにして、鶴の一声で外部パートナー契約がすべて打ち切られてしまい、道半ばのプロダクトが消しとんだ事例をご紹介する。

一応看破するためのアイディアも記載をしておくが、どうしようもない神(社長や会長)の声には逆えないのであくまで気休めレベルで記載しておく。


ゲーム開発の現場より

とある日本法人のプロデューサーは、外資系本社からプロダクトの依頼を受けていた。

それは海外に拠点を置く本社とのパートナー会社と、日本法人のメンバーと連携して、グローバル向けに3DのオンラインRPGを制作してほしいというものだった。

もうこの時点でかなり難易度が高いことは承知していたが、とりあえず話を聞いて、開発会社と日本スタッフをオンラインでつなぎながら開発に着手することとした。

ただ問題が1点あったのだ。

外部の開発会社はプログラマはいるがデザイナーが不在だったこと。いたはいたが2Dのみで3Dがいなかったのだ。

とりあえず日本側のプロデューサーは3Dができる人を社内から工面しようと努力はしたが、当時そのときには急ぎの重点プロジェクトにほぼ人員が取られていたためにアサインできなかった。

期限も2年後までにと決められていたので、当プロデューサーは3D部分をまるっと受けてもらえる外部の会社を探し、そこに依頼することにした。それに対しては会社側も了承をしてくれた。

開発は順調に進むものと思えた。

対岸プロジェクトが燃え上がる

開始から半年。

基礎プロダクトとコンセプトが固まって進行ができていたため、開発は一見順調に思えた。しかし、同社内で不穏な動きが目立ち始める。

別の部署ではあるが、外部に依頼した新規プロジェクトが軒並み大炎上をじゃじめていたのだった。それも1つや2つではなく、10タイトル以上である。

これはどういうことかというと、スマホ全盛期の時代。

ある程度キャッシュがあった同社や事前の仕込みということで会社は各プロデューサーに予算を渡し、新規サービス開発を準備するように通達されていたのだった。

通常社内で開発人員が工面できればそこでアサインして進めるわけだが、当時はバブルに湧いていたので社内もやることが一杯。人手は常に足りない。

そうなると、忙しい各マネージャー陣は外部に任せられるところに委任をするようになる。しかしながらできる会社には当然仕事が集中してしまう。

そうするとどうなるのか?

外部の会社もいっぱいいっぱいになるために人を採用するが、圧倒的にエースが足りない。もちろん各方面からも依頼はあったに違いない。

みんな忙しい。

するとどうなるのか? だいたい想像はつくだろう。

大炎上の連鎖が起き始める

まさに三国志で孔明と周瑜が企てた計の如く、ものの見事に物凄い勢いで新規プロジェクトが燃え始めたのであった。

しかも2〜3本は数億円タイトルをかけているものがあり、それがリリースされたばかりでオオコケ。これは大問題だと本社がざわつき始めた。

しかも、タイミング悪いことで本社の決算期だった。

ある1つタイトルのリリースをきっかけに、各プロジェクトの進捗確認が本社主導で精査されはじめた。決算期にあわせて費用、売り上げ見込みの再算出のためである。

するとあれよあれよとクオリティ審査、PL審査でひっかかってしまい、費用のかけすぎ等が問題視され始めた。

結果、特定ラインの売り上げが見込めそうにないもの、リリースできないものは即刻クローズし、売れ筋タイトルに人を回すように指示が出された。

と同時に、外部取引のプロジェクトを全て一旦停止せよという大号令が発令された。

対岸の火事が飛び火した

結果どうなったのか。

まったく違う部署にも飛び火してしまい、もちろんそのプロデューサータイトルのプロジェクトにも火の粉が降りかかった。会社としては出所は同じなので当然と言えば当然だが、ほぼ独立採算制を取っていたのも形ばかりだった。

独立採算制は本来、売り上げ計画と費用は単体で切り離されるものである。しかしながら、それは見た目上のものだけであり、本社からすれば失敗は一括りにされやすい。

結果として外部委任は一旦停止。予算も凍結。当たり前だがプロジェクトは中止だ。

これには流石に肝が冷えた。

稟議と契約書が意味をなさない時、人は信じるものを失う

このとき当プロデューサーのプロジェクトは、すでに外部委託を日本のデザイン会社に委任していただけではなく、オリジナルのシナリオも出版社に対して依頼をしていた。

中止が決まった後も、何度も継続を懇願し、現状のプロダクトのシミュレーションをしき直し、黒字化する計画はどこかなどを事細かく資料にしてプレゼンをしたものの、再開はされずに幕を閉じた。

日本法人の社長にも相談し、各マネージャー陣や財務と経理にも相談したがどうしようもないという感じだった。

それだけならばまだしもだが、そこまでかかった費用は既存プロジェクトの売り上げから支払うことになってしまったため、既存プロジェクトも赤字。

結果チーム内評価も下がることとなってしまった。

社内のルールが意味をなさないとき、人は信じるものを失う。これは同時に生きる気力を失うに十分な破壊力を持つ。

どうするべきだったのか?

このプロジェクトに配属されていたプロデューサーは私のことである。

しかしながらこういう事例が起きた場合の対策は何かあったのだろうか?というと正直ない。実は2回ほど同じようなことを食らってしまっていたが、今までは軽傷では済んでいたからだ。

とはいえ、そのときが起きるたびに上長は皆やめていった。

自分はそれに関しては我関せず、いや、そうはならないだろうという勝手な思い込みをしていたが、実際にそうなってしまったということだ。

そのために各種防衛策を行なって再三の注意を払いながら外堀を埋めていた。かなり早急に予算稟議を行い、日本法人側で決済稟議まで通していたのだが、本社のある人の一声でその約束が白紙になったことはあまりにもショックだった。

その後は各社に対してお詫びに回ったことは言うまでもない。

その後、私はしばらく体調を崩して床に伏せてしまい、当時いたマネージャー人もことごとく会社を去っていた。


抗えない状態を避けるための工夫はあるか?

ときにゲーム開発のような巨額プロジェクトは自分のチームだけではなく会社の状況や決算タイミングで形成が大きく変わることはよくある。

そのときに被害が直撃しないためにも気をつけておくべきことがいくつかあるので書いておく。

❶本社の同行から目を離さない

まず年度末や決算付近では会社の動向、本社の同行から目を話してはいけない。私が関わっていた経験のある会社では、だいたい年末、3月頃にビッグイシューが発生することが共通して発生していたので、その前後は何が起きても困らないように立ち回りを十分に気をつけていた。

本社の業績や動向も要チェックで、本国の法律、ルール、社会情勢などにも目を開いておくことが超重要だ。

とりわけ昨今では中国のゲーム禁止ルールなどは世界に対してとてつもない影響をもたらす。

❷声がでかいマネージャークラスの動向から目を離してはならない

鼻息の荒い上長クラスに食い込んでいるプロデューサー、マネージャー陣の中には現場が知らない情報を知っていることが多い。

その中で時折憤っていることや、不満を爆発させている時などは情報を耳にしておいて損はない。

仮に上記のようなことが起こりそうな情報が流れてくる場合もあるので、それも含めてコミュニケーションなどは密に取りたい。もしくは噂好きの人を通して情報は収集しておきたい。

❸外部を守るためにも契約はしっかりと巻いておく。

契約書は自分たちが不履行をした時にも外部が守られるためにも大いに役立つ。

通常自分たちを守るために契約を巻くことも多いが、仮にこちら側が不履行をして相手が訴えた場合に相手が勝てることは多い。そういう点でも契約は必ず巻いておくことが重要である。

通常の商慣習では契約不履行をした場合、その会社との取引がなくなるわけだが、仮に支払いだけは最低限守られていれば次の取引チャンスをいただけることもある。

現場同士の信頼が深い場合はなおさらで、本国のいかずちが落ちたことを許してもらえる、理解いただける懐の深い会社は日本は意外と多い。

私自身も大変なご迷惑をおかけした会社やクリエイターさんは数多いが、先輩方も同様に多い。これがまかり通るのは本来よくないわけではあるが、過去実際にそういう事があったことは真実でもある。

さいごに

積み重ねた梯子を外されることは本来あってはならないが、これが意図した特定の個人が行うこと、政治、派閥関係で行われることも数多く見てきた。

ゲームクリエイターなるもの、制作に集中することが真の幸せではあるが、実際上層部や一部の人はそういう戦いや暴風雨からチームを守るために尽力している人も数多くいることを伝えたい。

実はそれが人事、総務、財務、経理、法務担当であることも多く、クリエイティブができる人が力を発揮できるよう、バックヤード側では皆様を精力的に支えてくれていることもまた事実なのである。

人生とはどんなことが起こるかわからない。信じる支えがなくなると精神が不安定にもなる。本来であればそれはあってはならないが、そうなったとしても抜け道や希望を再度持てることもある。

修羅場をくぐった人間は数多くいるのがこの業界の先輩たちでもある。困った時は遠慮なく相談してほしいし、頼って欲しい。

いただいたサポート費は還元できるように使わせていただきます! 引き続き読んでいただけるような記事を書いていきたいと思います。