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THE・END. 大失敗するプロジェクト(ゲーム in the ノンフィクション)

これは、あるゲームプロデューサーが実際に関わった事実を元にしたフィクションである。

ゲーム開発の現場。そこには複数の部署がまたがり、分業や流れ作業が進行する。

よく起こるトラブルの事例としては、特定部分の開発が遅れてしまい、サービス全体の完成が遅延すること。

その原因の1つがゲームのコア部分、コア設計が仕上がらない、確定しないということである。

たとえばアクションゲームであれば、プレイヤーが操作するアクションの設計。

RPGであればバトルの設計などだ。

しかしながらこの「コア設計」。しっかりとチーム内でどういう点がゴールなのか、共通認識を持っておかないと、変なテコ入れをしてしまって何も解決しないばかりか、返って混乱とコストだけがかさんでしまう最悪の事態が起こる。

今回はそんなケースを紹介したい。

〜〜

ある新規ゲーム制作の部署。

そのプロジェクトは外部のIP(知的財産)を活用したRPGを開発していた。原作にある通り、一人の主人公が装備を収集し、切り替え、モンスターと戦っていく設定をベースにしたものだ。

原作があるとやることは明確ゆえ、開発は一見順調に見えた。

しかしながら肝心のバトル部分のコンセプトや操作感覚がアルファ版のレビューでダメ出しをくらってしまい、一人のプレイヤーに厳選せずにパーティ制にするべきか、装備品のバリエーションを増やすべきかも含めて検討する必要があると指示を受けた。

この時点でかなり求められていることが曖昧極まりないところに迷い込んだことは想像に難くない。

汗にもならない脂汗をかきながら、しばらく悩み込んだ。悩み、悩み、ひたすら悩みながら、半年以上スクラップ&ビルド&調整を繰り返した。

まとまらないのだ。

プロデューサー、ディレクター、プランナー、デザインリーダー、クライアントプログラマは、日々バトルを調整してはモック開発を深夜まで繰り返すも、レビューをするたびに何か違うと突き返され、チーム全体で落胆する地獄のサイクルを繰り返していた。

そのうち、企画側からは「もうこの設定のままでいいんじゃないか?」「上層部の意見をつっぱねてもいいんじゃないのか」「リリースすれば理解してもらえるのでは?」「上層部を説得できないPは無能なんじゃないか?そろそろ降板の時期では?」なんて不満やストレスがだんだん募り、どんよりとした雰囲気が日に日に濃厚になっているのが目に見えていた。

本リリース期限は2年間というリミット。

引くに引けない状態だ。

本来ならプロジェクトスタートから半年というのは、量産体制に入っていないと到底間に合わない。実際問題、デザイン、サーバーエンジニアはすでに採用されているものの、常に待ちの状態が続いていた。

いや、実際には細かい他の業務を優先して先行していたものの、肝心のバトルが固まらない限り、データの持ち方、装備品の点数、デザインコンセプトまで影響を与えてしまうために確定設計が組めない。

ある定例会議の場で

遅延は明白。

バトルの承認が得られていない。というよりもチーム内でも手応えを感じない。

ただし、他社にも劣らないRPGを作るためにはボリュームや必要なゲームモードはマストだと洗い出されている。

キャラクター数もあらかじめ著作物に合わせてボリュームが必要な状態。

「ボトルネック」バトル仕様の確定と明白だった。

本来ならばここで一度予定を見直すか、あえておじゃんにするかの英断が必要である。実際問題こういうプロジェクトが立て直されること、うまくいくことはほぼ経験上存在しない。

つまりこの時点で本プロジェクトは大炎上確定案件が確定している。実際問題、勘のいい人はリアルに離職、部署移動を行うものもいるぐらいである。

しかしながらプロデューサーはなんとか着地させるのが仕事でもある。ゆえに撤退という選択肢はない・・・と当時は思い込んでいた。

そこで、プロデューサーは痺れを切らしてチームに伝えた。

「バトル確定はまだ時間がかかる。すでに把握しているボリューム部分、デザインとステージ設計、システムUIだけは優先して進めてほしい」

「え?大丈夫なんすか?」

そんな声も実際に出たが、プロデューサーは

「なんとかする」

そう伝えるしかなかった。


この時、誰もが薄々感じていたはずだろう。

「このまま進めても、ほぼひっくり返るだろう。私たちはこの無駄な作業のを進めていいものなのか? しかし進めないと仕事事態がなくなってしまう。」と。

しかしそれ以上口にしたものは誰もいなかった。


ボトルネックを無視したら起こり得ること

たとえばRPGでバトルの設計、バトルデザインが決まっていないままに、システムUIを作るとどうなるだろうか?デザインデータを量産体制にはいるとどうなるだろうか?

ありえない。

例えば一人のキャラクターだけが戦うバトルだったものに対し、いきなり4人パーティにして戦えというオーダーが入ったらどうなるだろうか?

装備品を強化、切り替えてプレイするシステムだったものが、キャラクターの数を増やしてキャラクターを収集、編成、切り替えて楽しむシステムに変更されたらどうなるだろうか?

作るものが全く異なる上に、ゲームデザインやレベルデザインも大きく代わる。

それだけではなく、デザインアセットで用意するものも代わる。モンスターの特徴なども影響を与える。マップデザインにも影響を与えてくる。

もちろんUI設計も異なってくる。

この辺りを無視した状態で実際に開発が進行されてしまったのが、このRPGプロジェクトの事例だ。

そしてこうなった。

パーティでプレイするRPGへと。



ボツになったRPG

結果的にこのプロジェクトは、1年という開発が行われてボツになった。当然、IP(知的財産)を所有する版権元に対しても深く頭を下げることにもなった。

しかしボツになるまでに起きたことがまさに地獄絵図でもあった。

あの会議の後に何が行われたのかというと、

その1。

デザイナーは、伝えられた通り「一人のキャラクターがバトルを行い、装備を収集、強化、切り替えてプレイする」という未確定の仕様をベースにデザイン作業に移った。結果、装備品が量産された。

その2。

バトルプランナーは豊富な装備品の管理、モンスター設定を調整するために膨大な装備品のデータと数字、スキル、モーションのバリエーションを丁寧に作り、デザイナーとエフェクト、プログラマに依頼をした。

その3。

サーバー側は与えられた仕様でデータベースを構築。


ある程度完成されたアセットデータが大量に出来上がったものの、ほしい素材はほとんど足りなかった。

まずはキャラクターモデルのバリエーション。

キャラクターのモーション。

シナリオ。

冒険するためのマップデータ。街などのデータ。


見当違いのものを量産した結果、軌道修正するにも足りないものが多すぎた。当然UIもほぼ作り直し。データベースも作り直し。

プロジェクトメンバーは修正するのはやぶさかではないとは言ってくれたものの、プロデューサー自身は申し訳ない気持ちでいっぱいだったろう。それは見た目からも一目瞭然だった。

そもそもチームは当初の予定通り、一人のプレイヤーが装備を切り替えながら戦うRPGを作るという前提で進めていたので、愚直にその仕様にあわせた開発を行ってくれていた。

しかしながらサービス全体としては個々が奮闘した結果として、サービスとしては適応しないアセットのみが量産されてしまう結果となってしまった。

その後、このチーム事態は解散し、それぞれ別の部署へと移っていった。プロデューサー以外。


お気づきの通り、この無能なプロデューサーは私のことである。上の内容はほぼ事実に基づいた経験であり、大変な失敗をしてしまったことを猛省している。

今もあの頃のメンバーを思うと胸が痛くなるし、後悔ばかりしかない。もっと早く「アイディアが出せる、着地する案を持つものにお願いできなかったのか?」。上層部に対して「引き返すべきではないか?」など。

一言言えたらよかったのかもしれないが、そんなことを言おうものならたちまち自分の居場所を失う恐怖も忘れられない。

どうすることが正解なのか?

当時の自分を正当化するつもりは毛頭ないが、あれから私は数多くのプロジェクトを見ることになり、数多くの立て直しをさせてもらえることになった経験から言えることが1つある。

ゲームは商業的に完成させること、仕上げること、リリースできることがかなり奇跡である。

会社の人から見たらふざけんなと言われるかもしれないが、実際問題、ベテランの開発者でも大ヒットメーカーでも仕上がらない作品はは多くあるのだと学んだ。

そもそも自分のような開発経験の若輩者が必ず仕上げられること事態がおこがましいことなのかもしれない。だからこそ、皆の力を1つに集結させる努力を死に物狂いでやること。自分が持てる力を最大限毎回絞り出すこと。

先人の知恵を借りること、参考にすること。愚直にヒヤリングすること。

チームを頼ること。

残念ながら、過去の失敗の経験と後悔は消えない。だからこそ、同じように悔しい思いをしないように、悔しい思いを一人でもさせないように、これからも最大限、仕上がること、仕上がるサポートをすること、長期的に継続できること。

楽しく仕事できること、表現者を一人でも増やせるように今日も開発をする。


いただいたサポート費は還元できるように使わせていただきます! 引き続き読んでいただけるような記事を書いていきたいと思います。