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運営タイトルで企画者が斬られやすい理由、生き抜く方法をゲームプロデューサーの視点で読み解く(ゲーム in the ノンフィクション)

これは、あるプランナーの事実を元にしたフィクションである。

ゲーム業界では、運営型買い切り型のゲームが存在する。

運営型とは、オンラインゲームや原則無料のアプリゲームのことを指すことが多く、アップデートや運営などを行いながら収益を上げていくタイプのモデルのことだ。

ちなみに、ゲーム開発の現場では仕事の種類を超絶大きなくくりで区分すると、

企画/デザイン/プログラム

と別れることになるが、とりわけ「企画者(プランナー)」の立場は極めて不安定なポジション(採用されづらい、解雇されやすい、低賃金になりやすい)になりやすい。

今回はそんなプランナーについての側面について、なぜ不安定なのか、その生き方について触れてみたい。

※ちなみに安定な職種なんてものはこの世に存在しないが、長期的に食べていけるためのスキルが手元に残しやすい観点で見ると、当然ながら優劣は存在する。

〜〜〜〜〜

ある企画者の事例

ある開発の現場に一人の企画者がいた。

勤めている企業は大手ゲーム会社で勤務歴8年目。年齢は40で結婚もしている。

元は大手ゲーム会社のCS(カスタマーサポート)で2年活動し、その後にQA(デバッグチームのようなもの)に転向。その後、運営されているタイトルのプランナーとして参加。その後、バトルプランナーになった。

彼はとても真面目で、遅刻もせず、人当たりもいい。プロジェクト内での信頼度も高くてコミュニケーション能力も高い。関わっているプロジェクトリーダーからの評判もいいし、関係性も良好。

しかしながら彼はいつまで経っても契約社員の状態のままが継続しており、給与もなんと入社してから変わっていないことがわかったのだ。

いい人ほど使い捨てられる

なぜ彼の給与事情が分かったのかというと、私が評価査定をするポジションについたからだった。

私はある方から、新規で開発するためのオンラインゲームプロジェクトのプロデューサー兼管理者の依頼を請けおった。

そのプロジェクトを半年ほど進めた時、会社の恒例行事として査定評価(評価面談)をしなくてはならないということで、チームメンバー全員の査定を行うことになった。

人事部と連携して過去の査定表などをいただき閲覧していたとき、その彼の給与事情を知ったということである。

8年間給与のベースアップはなし。契約社員のまま。

実はこの体裁はそれほど珍しいことではなく、大手の出版社や大手ゲーム開発会社でもわりと風習として存在することは多い。

その代わり、成果配分や成果を出した時のインセンティブが多く配布されるという出来高性を採用している会社も少なくはないのである。

さらに付け加えると、それを選択できる会社もある。安定を求める代わりに小額を提案するか、ベースは低いが成果報酬型として契約するか、だ。

しかしこの契約社員状態を続けている彼の場合はどうにも事情が違うようだった。

インセンティブがないかの項目も見みてみたが一切ない。

???

そこで私は彼に思い切って面談の時に聞いてみた。

私:今までどんな評価を受けてきたのですか?と。

そうすると彼はこう伝えた。

企画「プロデューサーやディレクターが言うことをやってきました」

つづけて、

私:課題は目標設定は提示しましたか?

企画「いえ、特にそういったものは提示されませんでしたが、チームとして与えられた売り上げだけが存在していました」

私:何回か売り上げが達成されていますけど、その時インセンティブはもらいましたか?

企画「いえ、特にそういったものはないです。」

私:話を変えて、何かやりたいことや企画を提示したことはありますか?

企画「イベントの提案などをしたことはありますが、それぐらいです」

私:この職場は働きやすいですか?給与をもっと欲しいと思ったことはありますか?

企画「職場は働きやすいです。給与はもっと欲しいです」

私:給与交渉はしたことありますか?さすがに結婚されてこの給与はきついんじゃないかなとか思いますけど・・・

企画「交渉したことないです。そもそもやり方も分からないし、したらいけないのかと思って・・・」

私:どうやったら給与が上がるか仕組みを理解していますか?

企画「いや、知らないです」

この話から推測できるが、彼は典型的ないい人である。

もっと詳しく解説すると、会社にとって都合のいい人である。

いや、もちろんそれが悪いことではないし、そういう方がいてこそ成り立つものではある。

ただ・・・


そこで私は実際に、過去評価をつけた人とも話をしてみた。

すると「基本的に給与調整についての決定権はないのでやっていません」と言われた。

ではいったい誰が?

当然、最終決定権は社長である。

そのために評価は名ばかりで、チーム単位の売り上げ比重を査定に大きく反映し、売り上げが高ければ平均値でいい評価だけがつき、悪ければ評価が評価が下がるという、負けしかないサイコロをふらされていた。

その会社はどうなったのか?

予測はつくだろう。おなくなりになった。


給与の交渉、職務の価値を高めるのも上長の仕事の1つである

この事例はほんの一握りだったわけだが、昇格、給与アップ、インセンティブの仕事はプロジェクトだけではなく、その上長、人事、社長まで巻き込むことが通例である。

そうなるとどうなるのかは明白で、その会社の文化や環境、考え方や優先度で評価基準が決まってしまう。

もちろん成果が出ている時や、ルールに基づいてのベースアップ交渉はしやすいと思うが、実際のところ仕組みを把握している会社員はあまりにも少ないだけではなく、その基準を客観的に満たすために努力している人はほぼ皆無である。

それも当たり前。

そういう教育を日本人は受けていないからである。


ちなみにその会社の場合、昇格した人を紐解いてみると、社長とのコミュニケーションが豊富な人たちほど昇格していることが多く、それ以外の部分はほぼないがしろにされているような状態だった。

実はこういう事例、めちゃくちゃ多い。



企画者がないがしろにされやすい1つの例

話をもとに戻すが、私が過去関わったあるチームではゲーム企画者の採用枠は存在していないところも多かった。その中の1つに顕著な例があるが、プログラマ出身の社長が管理する会社だった。

企画を採用しない理由を聞くことができたので、聞いてみたが、話の節々から企画職をバカにしていたように思えたことだった。

過去を紐解くと、そのリーダーにはこういう苦い経験をしていた。

・企画は貢献度や実績、能力を客観的に判断しづらい。故に採用リスクが高い。

・窮地に立たされた時、単なる企画者は一人では何もできないことが多い。ゲームとしてアウトプットを出すにはデザインとプログラマを動かさなくてはいけないので相対的にコストも高くつきやすい(という経験をしていたそうだ)

・過去採用した企画者に無能が多すぎた。一方でデザイン出身、プログラム出身者の方がいいアイディアを出していて実際にそのままプロデューサーやディレクターになってもやり切れる人が多い環境にいたこと。

といった感じだった。

少々乱暴な感じだが、評価者やリーダー、過去の経験則がそうであればそうなりやすいのも事実だろう。バイアスがあるのも半分しょうがない。

こういう環境に企画者がいたとしても、評価は低くなりがちかもしれない。企画者の評価を上げるためには企画者が活躍している会社や環境にいくことが最善策である。


企画職で希少な人とはどういう人か?

企画職の内容は多岐にわたり明確な区分をすることも難しいが、抽象的な感覚を伝達する力が優れた人は大変希少だと言えることは間違いない。

あわせてアイディアを組み合わせ、生み出せる人、多角的な視点を持てる人もとても希少。

企画職は一見何でも屋としてみられがちでもあるが、ゲーム開発の現場では明確な区分をされることも多いが、その職務一本で食べていける人はほんの一握りだと想像している。

例えばだが企画の業務として、

アイディアを出して形まで持っていける人

自分で考えて手を動かせる人

与えられたことだけができる人

マーケティング的な観点が強い人

ゲームデザイン全体が考えられる人

ゲームの品質を管理できる人

進行マネジメントができる人

シナリオが描ける人

外部向けのパフォーマー

デザインや開発知識が豊富で企画が多岐にできる人などがいる。


一部他の職種じゃないのか?と思うこともあるが、実際にそれをやっているところもあるので一旦混ぜてしまっている。

すごくざっくりと分けてしまったが、

企画職とは、考えた仕様をドキュメント化し、想像するおもしろさを実現するためにプログラマやデザイナーに伝えて形にする人が本業なのではあるが、一番高度でかつ重要な部分である「考えた仕様をドキュメント化し、想像するおもしろさを実現するため」の部分は誰でもできるでしょ?

みたいに乱暴に見られることが実はとても多い。

ゲームに詳しい人ほどその重要性と難易度の高さ、それができる人はごく一部であるということは理解している。

ゆえに、そういう人材はとても希少かつ貴重なのだが、ビジネス思考だけの人はゲームに詳しくない人、(たまにゲーム設計が出来すぎる人)からは企画職なんて誰でもできるだろ、みたいな言われ方を実際されることがある。


企画職としていきたい場合、どういう立ち振る舞いをしようか?

この項目に関しては過去noteなどでもいろいろ書いているし、他の人も立ち回り方を書いているので参考にしてほしい。

かいつまんで描くとすれば、上でも少しヒントを触れているが、

◆1つめ

企画職が評価されやすい環境に身を置くこと、企画の重要性を分かっている方と一緒に仕事をすること。企画職が評価される作品に関わること。

あたりがわかりやすい。

それ以外では、

◆2つめ

企画としての専門性を磨くだけでなく、他の業務知識も知っておくこと。他の業務とは、ゲームを作り上げるために必要な知識。プラスとして、できれば売る知識としてマーケティングや宣伝などについても多少知っておくと便利だったりする。


◆3つめ

ゲームやサービス自体の何が面白いのか?何がうけるのかというゲームの仕組みをある程度理解を示すこと。そしてそれを実現するために必要な知識、フローなどを言語化、視覚化できる訓練をしておくこと。


運営タイトルで企画者が斬られやすい理由とは?

話がぶれまくったので最後に補足を付け足しておくと、運営タイトルはとにかく今や多額のランニングコストがかかる。

さらには運営型ゲームはユーザー数が維持できないと成り立たないわけだが、ここ最近はそのユーザー自体を継続して維持し続けることがかなり厳しいことになっている。

ゆえに、ランニングコストと呼ばれる人件費がとにかく高くのしかかることが問題になっているために、運営型ゲームが過去と比較してうなぎ上りで成功率が下がり、リスクが仮想通貨なみに爆上がりしている。

正直この流れは当面変わらなそうなので、運営型タイトルでの企画職単体として確保したままの運営維持をするにはかなりハードルが高い。

ゆえに企画者はできる限り企画の専門性を高めることはもちろんだが、多方面の知見を高めることや、他業務もできるぐらいのマルチプレイヤーの需要が上がっている事実を受け止めながら、今日も頑張るしかないのだろうと考えている。

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