短編集『神様の罠』を読んで、芦沢央の「投了図」レビュー
ある日、街に嫌がらせの張り紙が張られていた。
その字が夫の字と似ている。
もし嫌がらせをした人が夫だったら、そんな人とこれからも変わらずに暮らしていけるのだろうか。
腹の底で何かがぞろりと蠢く。
『神様の罠』は6人の人気作家がミステリーを持ち寄った短編集です。
それぞれ作家の個性が出ており、ファンである作家の作品を楽しむのはもちろん、新たな作家との出会いがあるのも短編集の醍醐味です。
私は以前から芦沢央のファンなので、今回は6人の内の1人、芦沢央の作品「投了図」について紹介します。
「投了図」 芦沢央
舞台はコロナ禍。
緊急事態宣言が解除されたとはいえ、
未だに感染リスクがある状況。
そんなある日、主人公が住む街で将棋の大会を開催することに。全国ニュースに取り上げられるほど大きいイベントで、街は活気づく。
しかし、イベント会場に嫌がらせの張り紙が。
〈棋将戦を中止しろ。ウイルスを集めるな!〉
たしかに全国から人が集まるイベントをコロナ禍で決行するのは感染リスクがあり、不満を抱く者がいるのも理解できる。
かと言って、匿名の嫌がらせは気味が悪い。
一体誰が?そして不可解なのが、
張り紙の文字が夫の字とそっくりなのだ。
腹の底で何かがぞろりと蠢く。
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芦沢央さんの「投了図」は、街に嫌がらせをしたのが自分の夫かもしれない。と不安に思う主人公が少しずつ真実に近づいていくミステリーです。
嫌がらせの張り紙を貼った人間が街内の誰かだったら気が滅入る。それがもしも夫だったら?
考えるだけでゾッとするテーマ。
この作品の魅力は、コロナ禍の異常事態を上手く盛り込んでおり、この出来事がまるで他人事のようには思えないところです。
コロナの影響で客が少ない中、追い討ちをかけるように緊急事態宣言や時短営業が発令される。さらには解除されても、店を開けているだけで周りからの冷たい目を向けられることも。
厳しい状況が続いていることに追い討ちをかけて、街に嫌がらせをされて、犯人が分からないまま、気にしないようにしても、考えないようにしても、2ヶ月が経っても心のモヤモヤが晴れない主人公。
犯人が分かった時、その目的が分かった時、すごくやるせない気持ちになる。とても切ないミステリーです。
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また、「投了図」はタイトル通り
将棋がベースとなって話が進みます。
"タイトル戦"、"投了についての解説"、"将棋ファンの夫"など、将棋に関するワードが盛り沢山。
芦沢央は将棋好きということで広く知られており、『神の悪手』という将棋に特化したミステリー短編集を出しているほどです。
そんな芦沢央の大きな魅力が、将棋に馴染みがない方でも問題なく楽しめる文章になっているところです。
将棋というテーマは読者を選んでしまうと思ってしまいますが、そこはさすがの芦沢央。いつも上手にまとめて、将棋に詳しくない方でも退屈しない内容に仕上げてきます。
もちろん、「投了図」も将棋に詳しくない方でもミステリーを楽しめます。
将棋ファンはもちろん、将棋に詳しくない方にもオススメできる作品。もしかすると、本作がきっかけで将棋にハマる方もいるかもしれません。
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コロナ禍の生活を盛り込んで書かれた
将棋×ミステリーの短編、「投了図」
構成も文章もテーマも、全てが圧巻。今作を読んでさらに芦沢央のことが好きになりました。いつか芦沢央についてファン同士で熱く語り合ってみたいです。
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