Voy.12【これイチ】船にも階級制度!?アイスクラス
【これイチ】『北極海航路の教科書』シリーズ **第12航海*
北極海航路を商用利用する船舶であれば、是非とも獲得しておきたい「称号」がある。
「アイスクラス」だ。
そのまま日本語にすれば「氷階級」だが、氷海中を安全に、かつ環境に配慮した航行ができる性能を持つ船舶に与えられる船級証書ということになる。
アイスクラスは「クラス」なので、各船級協会が船舶所有者からの登録申請に基づき認証する船級の一部となっている。
ここで「各船級協会」と書いたのは、アイスクラスの「クラス分け」が、各船級協会の規則により様々であるからだ。基本的にそれぞれの船級協会は、会員が所有・運航する船舶が航行する主な海域における氷海の特徴等を考慮して、適切なルール作りを目指している。そのため、ある船級のある階級が、別の船級の階級とピタリと一致せず、微妙に異なる。
北極海航路をはじめ、氷海中を航行する船舶は、主な航行エリアや時期、船級の維持コスト等を考慮しながら、取得するべきアイスクラスを選定することが重要になるのだ。
現状、最も主要なアイスクラスの規則を設けている2種類のアイスクラス規則を紹介しておこう。
1.Finish-Swedish耐氷船階級(通称:FSアイスクラス)
フィンランドとスウェーデン政府が、バルト海での海氷状況・航行経験から規則として制定したアイスクラスである。
日本語では「耐氷船階級」とされており、その名の通り「海氷の荷重」や「氷海環境」に耐える能力を有する船舶の階級となる。
下の表は、
バルト海を想定した階級区分である為、最上級の「IA Super」であっても、基準となっている氷の「厚さ」は、わずか1.0mである。
北極海航路を年間通じて自力航行するには、FSアイスクラスの最上階級であっても性能としては不足している。しかしながら、砕氷船が氷を砕いてできたチャンネル(Brash Ice Channel)を、砕氷船の先導を伴いながら航行する場合には、海氷の条件次第では、冬季も航行することが可能となる。
2.極地氷海船階級(Polar Class)
各船級協会のアイスクラスは、前述の通り「クラス分け」の基準が統一されていない為、自船が所有するアイスクラスと、ある氷海沿岸国が要求するアイスクラス基準が合致しているかを瞬時に判断することが出来ず、航行の許可取得に不都合が生じる恐れがあった。
このため、国際海事機関(IMO)は、2002年に主に北極海を航行する船舶のアイスクラス規則に関する統一的なガイドラインを発行するに至った。
国際船級協会(IACS:International Association of Classification Societies)は、このIMOのガイドラインに沿った形で、2006年に極地氷海船階級(Polar Class)を制定した。
本アイスクラスは、基本的に一般商船に対する規則であり、砕氷船(他船の砕氷支援の為のみに運航される船舶のことを言う)は除外しているが、耐氷船階級を定める「FSアイスクラス」との大きな違いとして、北極海での通年航行も想定している階級もあることから、砕氷性能を有しなければ「Polar Class」を取得できないところにある。
上の表からもわかるように、北極海航路を年間を通じて航行する場合には、少なくとも「PC3」または「PC4」のアイスクラスを保有しておく必要があるだろう。
アイスクラス船の特徴
アイスクラスは、安全に氷海を航行するために設計された船舶に与えられる特別な階級であるから、当然「非アイスクラス」の船との違いがある。
アイスクラス船の特徴としては、以下のようなものがある。
船体の素材:低温でも強度が落ちない鋼材を使用
推進装置:プロペラ形状や強度
冷却海水取込口:氷を吸い込まないような形状、ヒーターの設置
凍結防止装置:燃料・水タンクおよび配管、消火栓の凍結防止
防寒装置:ヒーターやシェルターの設置
塗料:耐低温、耐摩耗
上記の他に、一般的な船舶との顕著な違いとしては、船体の形状の違いがある。
特に砕氷性能を有する船舶の場合、一般的な船とは全く異なった船首形状(船首:船の前進方向の先端)となる。
上の写真は「球状船首(バルバス・バウ)」と呼ばれる、現時点でもっとも一般的な船首形状を有する船舶である。
バルバス・バウの存在目的は、「造波抵抗を減らす」ことである(詳細は割愛)が、氷海中を航行する際には障害物となってしまう。
こちらの写真は、「PC3」階級を有する船舶の船首形状である。
スプーンの裏側のような形状をしていることがわかる。
もちろんこれは、砕氷するのに適した形状であり、この形状からわかるように「砕氷」とは、「氷に衝突して砕く」のではなく、「氷の上に乗っかって、船の重さで砕く(割る)」動作となるのだ。
バルバス・バウは、船舶が前進航行することで海氷が衝突すれば、船首部分がダメージを受ける可能性が高い。特に、自ら海氷を割りながら前進する「砕氷航行」をする船舶にとっては、造波抵抗の軽減というメリットを犠牲にしてまでも、この写真のような船首形状にしなければならない。
北極海航路の航行に限ったことではないが、海氷エリアを航行する船舶であれば、その運航形態に沿って適切なアイスクラスを取得することが求められる。
しかし、近年の北極海航路では、地球温暖化によって夏場になると完全なアイスフリーの航路が出現することから、この時期に限定した航海であれば、必ずしもアイスクラス船でなければ通航が出来ないという事ではない。
これまでも、アイスクラスを所有しない船舶が、夏場に北極海航路を航行した実績は数多くある。
「アイスクラス」という階級制度自体が無意味になってしまうほど温暖化が進行することが無いように、我々地球人は脱炭素化を実装しなければならない。
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