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実務家教員に転職する話 ①

 この春、30年以上勤めた前職から実務家教員に転職するにあたって、一番多かった質問が「なぜ、おまえが大学教授になれたのか?」というものだった。
と言われても、相手もあることだし「さあ、なぜでしょうね」と答えるしかなかったのだけれど。でも「なぜ、大学教授への道が開けたのか?」なら、少しは答えられそうな気がする。その経緯を思い返してみる。

 始まりは2018年の人事異動だった。実はその直前に上司から「地味な昇進」をにおわされていた。でも、情けないことに当時の私は(今でも)人事のことがよくわかっていなかった。もし上司が私の昇進を人事部に打診したとしても、人事部は数多くの昇進候補者の中からさらに選ばなければならない。特に、最近の人事部にとって最優先は、若手や女性の優秀な人材の抜擢であって、私のようなロートルの「地味な昇進」はあまり考慮されないのが実情だ。
 ふたを開けてみれば、私の「地味な昇進」は1年後に延期され、同じ職場の後輩が新しい上司に昇進する人事が発表された。これは、なかなかこたえた。その日、私は自撮りをして、サラリーマンとして「敗北」した自分の姿を記録に残すことにした。

 あの日から「何かを始めなければならない」と考えるようになった。当時の職場は「現場」の最前線で、私にとって楽しくてやりがいのあるところだったけれど、50代半ばとなり後輩が上司ともなれば、もはやここに長くはいられまい。その「異動の日」に備えて、何か会社以外の「自分を評価できる基準」を得ておく必要があると考えたのである。

 仕事で仲良くしていた早稲田大学教授に相談すると、同業他社の社員が「大学院進学」を相談してきたという。「あなたも自分が第一線で続けてきた仕事を、学問的に見直してみてはどうですか?」。それは、面白そうだと思った。それに修士が取れれば、新たな可能性が開けるかもしれない。でも、当時は漠然とそう考えていただけで「転職」はまったく念頭になかった。

 どうせ挑戦するなら、ダメ元で東京大学を受けてみよう。半ば本気、半ばシャレで、受験勉強を始めてみることにした。


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