新米大学教員Yの日記

本、映画、ドラマなどの覚え書き

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最近の記事

陳舜臣著 『曹操 魏の曹一族』 中公文庫

『三国志』で有名な魏の曹操、字は孟徳(A.D.155-220)。 『三国志』に「治世の能臣、乱世の姦雄」、『後漢書』に「清平(平和時)の姦賊、乱世の英雄」と書かれ、東北大学の寺田隆信さんは「人生の大半を戦陣の緊張と危険のなかに過ごし、政治にも関わりながら、学問と詩作を廃することなく、他の諸芸にも曹操は多能であった。彼ほど多才な人物は、中国の長い歴史おいても稀れであったろう」と書く。  この曹操を、中国史の「物語の達人」陳舜臣が取り上げたのが本書である。今回久しぶりに読み返し

    • Wave Makers〜選挙の人々〜(2023)

       台湾映画というと台湾料理のように、優しいけれどエッジがあまり効いていないという印象を持っていた。「海角七号 君を想う、国境の南」も「台北の朝、僕は恋をする」も「KANO〜1931海の向こうの甲子園」も「恋人たちの食卓」も「モンガに散る」も、なんなら「非情城市」でさえも。懐かしいほんわかした優しさを感じさせる芸風だと思ってきた。しかし妻の仕事で台湾を1か月訪れ、台湾人の金銭的にシビアな一面に触れる機会もあり。「そんなわけないよね、21世紀の同時代人だもんね」と思っていたら、案

      • 中丸明著『聖母マリア伝承』文春新書

         この本が出た2000年頃、メディアで中丸明さんをよく見かけた気がする。なんの記事だったか思い出せないのだが、とにかくスペインに詳しくて、スペイン愛を語る人という印象がある。この本もその系譜にあるもので、冒頭の「セビリアの復活祭」の描写から圧倒される。 「まだほとんど暗闇といってもいい夜明けの街を、眠れぬままにさまよい歩いていると、一団の影が、音もなくひっそりと、まるで亡霊のように通りすぎてゆく・・・。と、おごそかなその沈黙のかたまりから、そっと手拍子(パルマーダ)を打つ音

        • 寺田隆信著『物語 中国の歴史』中公新書

           イタリア史と並んで、記録が残っている歴史といえばやはり中国史である。藤沢さんの「イタリア史」と比べると、寺田さんの「中国史」は物語というより史実紹介に近い。とはいえ、中国5000年(超?)の歴史を新書(290ページ)に収めようというのだから、それは仕方ないのかもしれない。それに、中国史「物語」の書き手といえば、陳舜臣という巨峰がいる。  なにより秦の始皇帝から、清の宣統帝溥儀まで2200年にわたって続いた「皇帝政治」には圧倒される。寺田さんは「中国の文明とその在り方を基本

        陳舜臣著 『曹操 魏の曹一族』 中公文庫

          藤沢道郎著『物語 イタリアの歴史Ⅱ』中公新書

           久しぶりに読書を再開した。もともと嫌いではなかったはずなのだが、気力の衰えから、しばらく遠ざかっていたのだ。しかし通勤時間が長くなったのを機会に、復活することにした。記念すべき復活第1号は「物語 イタリアの歴史Ⅱ」。「物語 イタリアの歴史Ⅰ」も読んだはずだが、藤沢道郎さんの文章は平易で優しくて読みやすい。  この本の縦糸となるのが、ローマのテーヴェレ川に接するカステル・サンタンジェロ(聖天使城)。今でこそ、大天使ミカエルのブロンズ像がそのてっぺんに聳え立つが、もとは五賢帝

          藤沢道郎著『物語 イタリアの歴史Ⅱ』中公新書