新米大学教授の感想日記

実務家教員1年生 本、映画、ドラマなどの覚え書き

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最近の記事

いまさらですが、NewJeans「Supernatural」(2024)が心地いい

 ついにこの感想文も、禁断のK-POPに触れることになるとは。このような「流行もの」は感度の鈍さがバレるので避けようと思ってきたのだが、書きたくなってしまった。私の完敗である。  思えば、私のK-POPとの最初の接点は、S.E.S.という3人組女性アイドルの取材だった。ウィキぺディアによれば、1997年デビューとある。おそらくデビューしたてだったと思うので、結構早かった。都内のスタジオで歌ってもらったが、SMエンタテインメントもその頃は小さな会社で、確かノーギャラだった。ウ

    • レオス・カラックス「アネット」(2021)140分

       変な映画だった。とてもとても変な映画だった。でも、読後感は悪くない。というか、消化に手間取っている。これは良い映画だったのだろうか?と自問自答している。ということは、良い映画だったのだろう。きっと。  とにかくアダム・ドライバーが異常だ。この役者は、なんでも演じてくれる。本作品では、ネイティブ・アメリカンかと思うような黒髪と筋肉に圧倒される。歌はどうかと思う場面もあったが、残りが上手な中で異様さが際立っている。顔もでかい。いつか舞台で見てみたいと思った。  ミュージカル

      • カーティス・ハンソン「L.A.コンフィデンシャル」(1994)138分

        「チャイナタウン」のエンディングにショックを受け、ボーゼンとしていたらアマプラで勝手に始まったのが本作品である。公開当時は、もう社会人になっていたが、セクシーなキム・ベイジンガー映画という記憶しかなかった。  偶然(なのか?)にも、この2作品には共通点が多い。どちらもロス市警が絡んでいること。大きなスキャンダルが隠されていること。複雑な環境に置かれた魅力的なヒロインがいること。男女の絡みが写真で証明されること、女優が殴られるシーンがあること。そして制作スタッフの性犯罪が問題

        • ロマン・ポランスキー「チャイナタウン」(1974)131分

          「シド・フィールドの脚本術」で絶賛されている作品である。本書では「脚本の冒頭10ページが、勝負を決める!」。いわゆる「ファースト・テン」の重要性が繰り返し述べられている。脚本1ページ=映像1分とすると、映画なら冒頭の10分ということになる。「チャイナタウン」脚本は、その成功例として紹介されている。  ど頭の変な写真に、泣いている男の声がかぶるという強烈なオープニングである。しかし、シド・フィールドが激賞している「誰かを殺して逃げ切るには、金持ちになることだ」というセリフが含

          クリント・イーストウッド「許されざる者」(1992)131分

           幼少時にアメリカに住んでいた時、カウボーイの絵本が大好きだった。カウボーイの生活ぶりを描いたものだったと思うが、昼は牛を追い、夜は焚き火をして野宿する。カウボーイハットは日除けでもあり、川で水を汲むのにも使う。その絵本のイラストがカッコ良すぎて、カウボーイハットも買ってもらった。と言っても、人前でかぶる機会はあまりなかったと思う。  この映画は、クリント・イーストウッドの作った「最後の西部劇」と言われている。冒頭のドン引きのショットから、アメリカの広大な荒野の質感がじわじ

          クリント・イーストウッド「許されざる者」(1992)131分

          ジム・ジャームッシュ「ストレンジャー・ザン・パラダイス」(1984)89分

           この映画の最大の見どころは、映像に「編集」が加えられていないことだろう。全てのショットは、1台のカメラでノーカット撮影され、終わると黒味(ブラック)が入る。音声は別扱いで、時にショットや黒味をまたぐ「編集」が施されている。  編集が加わらない映像というと、「映画の父」リュミエール兄弟のシネマトグラフが思い浮かぶ。有名な「工場の出口」「ラ・シオタ駅の列車到着」「水をかけられた散水夫」も編集はされず、まるで1895年頃の風景スケッチのように見える。しかし、リュミエール社の日本

          ジム・ジャームッシュ「ストレンジャー・ザン・パラダイス」(1984)89分

          ヴィム・ヴェンダース「パリ、テキサス」(1984)147分

           冒頭の、テキサスと思しき荒涼とした山と砂漠の空撮から圧倒される。ライ・クーダーの乾いたギターが、荒涼感をさらに増す。そのエコーの効いたギターが鳴らない時、今度は逆にその静寂がまた荒涼を感じさせる。21世紀の今見返すと、この映画は「ホワイトプア」に着目した先駆的作品だったのだと気づかざるを得ない。  ナスターシャ・キンスキーが美しく描かれた映画のはずだが、肝心のキンスキーはなかなか出てこない。冴えないテキサスを放浪する男と、ロスで事業に成功した弟夫婦、そしてその弟夫婦が面倒

          ヴィム・ヴェンダース「パリ、テキサス」(1984)147分

          アルフレッド・ヒッチコック「断崖」(1941)99分

           蓮實重彦先生の「ショットとは何か」が面白い。その「実践編」に、「防禦と無防備のエロス〜『断崖』の分析」という章が出てくる。そのイキイキとした描写を読んでしまったら、映画そのものを確認したくなるのは当然のことだろう。  なにしろ上の写真にある列車で主人公2人が初めて出会うオープニングシーンの描写が、10ページ以上にわたって続くのだ。ヒッチコックはまさにこの写真の構図でカメラ撮影をしているのだが「この映像は本来不自然なはずなのに・・・」と蓮實先生は再三指摘する。  確かに上

          アルフレッド・ヒッチコック「断崖」(1941)99分

          グレタ・ガーウィグ「レディ・バード」(2017)94分

           映画を見ている途中で「待てよ、この映画は前に見たんじゃ?」と気づくことがある。この映画もどうやらそのようで、主人公が走っている車のドアを開けるシーンで「あらら」と思った。  最初に見たときは、「田舎で反抗的だった生意気娘が、都会に出て故郷と親の有難さに気づく」的な、よくあるプロットと見切ってしまったようである。この監督が6年後に「バービー」を撮り、しかも、あの美男子は今をときめくティモシー・シャラメではないの。自分の目が節穴だと感じるのは、今に始まったことではないのだが。。

          グレタ・ガーウィグ「レディ・バード」(2017)94分

          ロマン・ポランスキー「戦場のピアニスト」(2002)150分

           さて、ポランスキー(1933〜)である。2024年現在、性犯罪者として複数の被害者から告発されている。2020年セザール賞で最優秀監督賞を「ジャキューズ(私は告発する)」で受賞した時、会場の女性俳優が女性司会者が退場したという話も記憶に新しい。まずは「ピアニスト」の感想から始めたい。  この話はホロコーストを生き抜いた、実在するユダヤ系ポーランド人ピアニスト=ウワディスワフ・シュピルマン(1911〜2000)の体験記をもとに作られている。ワルシャワで平和に暮らしていたユダ

          ロマン・ポランスキー「戦場のピアニスト」(2002)150分

          ジャン=リュック・ゴダール「勝手にしやがれ」(1960)90分

           言わずと知れたヌーヴェル・ヴァーグの金字塔とされる作品である。今回は「ジャンプ・カット」を普及させたという点でも注目してみた。YouTube「シネマサロン」で竹内伸治さんが「『勝手にしやがれ』を若い人が見て、普通の映画だという。でも、それはゴダール後に慣れているからで、当時のゴダールの革新性は変わらない」と力説していたことも気になっていた。さて。。。  まず、90分という尺は素晴らしい。何がいいって、100分の講義時間で見せることができる。そして、26歳のジャン=ポール・

          ジャン=リュック・ゴダール「勝手にしやがれ」(1960)90分

          「葬送のフリーレン」が止まらない理由

           この作品を見るのは2度目である。初めて見た時も、見返している今も、取り憑かれたようにず〜っと見続けてしまう。なぜなのだろう。このnoteでは、ネタバレをできるだけ避けているが、今回はそうもいかず  #ネタバレ を宣言する。  主人公のフリーレンは、エルフといわれる寿命1000年超(2000年とも)のヒトである。第1話はフリーレンと勇者ヒンメルら4人が10年の旅のすえに魔王を退治し、凱旋するところから始まる。魔族に脅かされてきた人類にとって、魔王退治は「平和な時代」の幕開け

          「葬送のフリーレン」が止まらない理由

          クリスチャン・カリオン「パリ タクシー」(2022)

           タクシーが苦手だ。大昔にニューヨークで白タクに引っかかったせいもある。「Nineteen」と交渉したはずが「Ninety」だったという古典的なオチ。フィレンツェではお札を払ってモタモタしていたら、釣りをよこさず逃げられた。大阪でも二重払いして、運転手に急発進で逃げられた。加えて、20年数前バルセロナでタクシーの釣りを1セント単位で確認して、運転手の失笑を買ったのもトラウマだ(今年、バルセロナで「お釣りはいらない」と言えてよかった、あー小せえ)。  という訳で、事前に精算が終

          クリスチャン・カリオン「パリ タクシー」(2022)

          クリストファー・ノーラン「ダンケルク」(2017)106分

           いわゆるクロス・カッティング(パラレル編集)の教科書的作品と聞き、見ることにした。アカデミー賞で編集賞、録音賞、音響編集賞も受賞したそうで、前評判は「セリフに頼らない音響サスペンス」。  映画のオープニングは素晴らしい。無音の中を数人の若い兵士が平和に歩いている。空からはおびただしい数のビラが、紙吹雪のように舞っている。まるで非現実的なメルヘンチックな雰囲気のなか、ビラに書かれている文字を見ると「お前たちは包囲されている」。観客は「戦争映画」であることを再確認し、来たる「

          クリストファー・ノーラン「ダンケルク」(2017)106分

          中野晃太「Retake」(2023)110分

           1977年から続いている「ぴあフィルムフェスティバル(PFF)」の2023年グランプリ作品である。今年から日本航空の国際線でPFF作品が見られるようになって、久々に鑑賞した(というか、国際線のハリウッド映画、異常に減ってないか?)。  私は高校野球で金属バットを使うのが好きではない。若い人が道具を使ってプロ並みに見せるなんて、それこそアマチュアの良さの放棄だと考えてしまうのだ。 同じように学生さんが映像編集ソフトにハマり、テロップや映像加工に凝っているのを見ると、正直がっ

          中野晃太「Retake」(2023)110分

          森田芳光「家族ゲーム」(1983)106分

           おっかしいなあ。こんな映画だったかなあ。と、あくびを噛み殺しながら思いました。伊丹十三は相変わらずやりすぎのくさい演技でウザい。松田優作は格好良すぎてつかみどころがない。宮川一朗太の存在感のなさったら。由紀さおりは、どうして由紀+さおり?職員室で一瞬映った清水健太郎の存在理由がわからない。阿木燿子はなに得?と、大昔に思った同じギモンが、またまた懐かしく吹き出した。  すべては、一直線に並ぶ食事シーンに尽きるのだろう。このシーンの繰り返しにのみ意味があるのだろう。終わり。

          森田芳光「家族ゲーム」(1983)106分