チキンの休日
特に予定の無かったサンクスギビングは、ルームメイト達と過ごした
ルームメイトの一人のお父さんがお家に来て、ヴィーガン料理を作ってくれた
そのお父さんはサンクスギビングを娘と祝うために、フロリダからカリフォルニアまで来たのである
シェアハウスに住人のお父さんが来るなんて珍しい気がするけど、凄く素敵な人だった
チリからフロリダに引っ越してきて、自分の居場所を作った人
チリでは刺身を食べる時には、レモンを使うということを教えてくれた
別のルームメイトの人はボーイフレンドを連れてきていた
彼とは何度か会ったことがあり、酔ってる時に遊んだ文字を並べるゲームが異常に強かった
凄く落ち着いた人で、文字を並べるゲームが異常に強かった
ルームメイト3人と、お父さん、文字を並べるのが上手いボーイフレンドの6人で過ごした
テーブルに着いたのは6時をすぎた頃
3時ごろから、キッチンでトントンとまな板の音が鳴り出し、料理に参加しようかと思ったが、フロリダお父さんと娘が料理しているのを邪魔したく無かったので、最後にレッドオニオンを切るのと、空いた時間の皿洗いだけ手伝った
完成した料理をダイニングテーブルとキッチンに並べ、ビュッフェ形式で皿に装っていく
ビーツとほうれん草のサラダ、豆腐のソテー、コーンブレッド、マッシュルームのパエリア、マックアンドチーズ、デザートにはアイスクリームを乗せたサクサクのアップルパイ
ディナーの後でテーブルゲームをしようと誰かが言っていたけど、料理をたらふく食べて、ワインをたらふく飲んだので、少し休もうと部屋に戻ったら、思わず寝てしまった
サンクスギビングに何でターキー食べはるん?と例のお父さんに尋ねると、丁寧に解説してくれた
アメリカの植民時代、ネイティブアメリカンが、飢えて困っていたコロニストたちにターキーをあげたのが、感謝祭ことサンクスギビングの逸話なんだとか
初めて知った
とはいえ、それが事実なのかは誰も知らない
お父さんは、説明し終えた後で、皮肉っぽく肩をすぼめた
ただ、サンクスギビングは毎年訪れ、人々はターキーを毎年食べる
彼の静かな佇まいや、長く伸ばした髪を見て、何となくそうなのかな、と思っていたけど、文字を並べるのが上手いボーイフレンドは、ネイティブアメリカンのファミリーだということを教えてもらった
アイヌ文化に興味があるように、ネイティブアメリカン文化にも興味があるが、彼にその事を聴こうとは思わない
なぜなら、僕が日本人として何かを聴かれると、回答に困ることが多いから
僕はただ、次の文字並べゲームで彼に勝ちたい
あの静かに勝った後のドヤ顔が本当に鼻につく
結局のところ、お父さんに尋ねても、何に感謝する日なのか曖昧なままなので、僕の中ではチキンに感謝する日ということになった
ニューヨークに来た頃、僕は学校の日本人を集めて、サンクスギビングパーティーを行った
見様見真似、イミテーションのサンクスギビング
学校の先生がよく使っている撮影所を借りて人を集めた
七面鳥は売り切れていたので、ローストチキンで代用した
招待した同じ学校の友達に、料理やケーキを持ち寄ってきてもらって、お腹いっぱいになるまで飲んで食べた
準備をしたり、参加した人に気を遣うので手一杯だったが、パーティーは凄く楽しかった
誰かと仲良くなりたいというよりも、パーティーを自分で開くこと自体が目的だった
横で誰かがガヤガヤしていたら、程よく自分を紛らわすことができた
料理をしたり、もてなす側でいれば、自分に丁度いい距離感で人と接することができる
しばらくして、誰かをもてなしたいという欲望、それは自分の中にある、別の性格の裏返しでもあったことに気づいた
少し前の僕は、人を求めていると同時に、人に興味が無かった
ビーツとほうれん草のサラダ、豆腐のソテー、コーンブレッド、マッシュルームのパエリア、マックアンドチーズ、デザートにはアイスクリームを乗せたサクサクのアップルパイ
他人が出してくる皿を、素直に食べれる様になった
今年はノーマンロックウェルの絵の様なサンクスギビングを過ごせた
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