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恋人と見たい映画。『アバウト・タイム』から見る人生の幸福論。

彼女できた。そしたら、まず初めにすることは?ハグですか?長電話ですか?キスですか?映画デートですか?色んな、初めてを経験する2人。
そんな、2人におすすめな、恋人が、初めてお家デートで見るべき映画。
『アバウト・タイム〜愛おしい時間について〜』から見る人生の幸福論を書いてみる。

「ねぇねぇ、今からなにする?」
「うーん、ごろごろ?」
「えー!それは、もうちょっと時間が経ってからー!てか、今ですらごろごろじゃん」
「バレた?」

2人の出会いは必然でもなく、偶然だった。
運命なんて、洒落たもんじゃなくて、ただの偶然。
と、世間からはそう言われてもおかしくない、2人は、高校からの同級生。とかでもなく。あまりにもお酒を飲みたくなった2人が、たまたま、クラフトビールバーのカウンターの席の、隣同士だった。
神様、それって運命って呼ぶんじゃないの?って、たまに思うこともある。

「そういえばさ、Amazonプライム入ってるって言ってたよね」
「うん。なんか映画でも見る?」
「見よー!あたしは邦画派」
「俺は、洋画派。」
「知ってる。あたしとあなたはいつもあべこべ」
「唯一、合うのは、ビールが好きってことぐらい」

2人は、発泡酒の缶を手に取る。恋人ができたのは、5年ぶり。毎日つまらない仕事と、意を決して、した一人暮らしという、家事ノルマに追い込まれながら、幸せなんて、7畳一間に収まると思ってたアラサーな、自分に舞い降りた、偶然という奇跡。

「これにしよ!」
「アバウト・タイム?」
「見たことある?」
「ないよ。洋画とか、ハリポタしか見たことない」
「マジで、ジョーズは?」
「恐竜のやつだっけ?」
「いや、サメのやつ」
「あー!あっ。そうそう。」
「今のボケだよね?」
「それにしよ!なんか、面白そう」

映画の冒頭、彼女は、食い入るように、画面を見つめる。この男の人、見たことある。なんてこと言ってたけど、自分は、外国の俳優に疎いし、そもそも、洋画をハリポタしか見たことないと言い張る彼女が、知ってるわけないじゃんと思いながら、ビールを飲む。
隣にいる、彼女を眺めながら、飲むビール。この瞬間、たまらなく好きだ。

「タイムリープって便利だよね」
「そしたら、きっと、大学時代からやり直すよ」
「なんで?」
「もっと、ちゃんと就職活動する。」
「そしたら、あたしと出会えなくなるかもよ。」
「じゃ、この映画みたいに、また、タイムリープして、なんとか見つけだす。」

戻りたい過去なんて、山ほどある。
この映画みたいに、初めて、好きな人と過ごす夜。緊張して、勃たなかったとか、思い出したくないし、大失敗だらけの人生。
1度、友人の友人が、起業するから、一緒に来ないかと誘われたことがある。
あぁ、人生を変える可能性。なんて、甘い響きに酔ってしまった日。出せなかった退職届と、変わらない毎日。
そんな、嫌気が、あの店へと足を運んだ。
そこに、偶然、君が座ってた。

「それ、苦くないですか?」
「人生の味って感じで好き。」
「なにそれ」
「だから、嫌いじゃない」
「一口くれませんか?」
「えっ、あぁ、いいけど」
「前からね、話しかけたいなって思ってたんです。」
「えっ、そうなの?」
「そー。友達と結構来てて。いっつもカウンターで1人で飲んでたから」
「友達いないんだよ俺」
「だから、1人で来たら、カウンターで飲めるなぁって」
「なにそれ、かわいい」
「へへへ。」

思い出す、初めての瞬間。
よくよく、考えてみると、彼女は出会う前から、自分のことを知っていた。
きっと、タイムリープして、戻ってみても、僕じゃなくて、彼女が見つけだすんだろ。
自分にはない、そんな行動力。
あたしは臆病だから、やるだけやってみるの。それが、彼女の口癖だった。
それって、臆病じゃないじゃん。って言うと。臆病だよと、笑いながら言う。そんな彼女の、ほんの少しの勇気は、僕らの今日を変えていく。

「結婚したい?」
「もちろん、あたしはしたいよ。」
「だよな。」
「なに、映画に感化されてプロポーズですか?」
「いや、聞いてみただけ。」
「なにそれー!あっ、あたしはティファニーの指輪がいいな。」
「高いってあれ。」
「なんで、値段知ってんの?」
「えっ……いや、なんか友達が言ってた気がする。」
「ふーん。」

婚約指輪 相場 なんていう、検索履歴だけは、彼女に見られたくない。なんてこと思いながら、適当にごまかす。
恵まれている。方なんだろう。周りの友人は、奨学金の返済。安すぎる給料。いろんな壁が人生に立ちはだかる。彼女も、毎日、ギリギリの生活の中で、一杯の生きがいを捻出する。
彼女が望む、エンゲージリング、を購入できるぐらいの、貯金額。
責任という、重たさと、自由という、可能性が、ふわりと消えていく。

「こないだね、なんで、旦那さんと結婚したの?ってお姉ちゃんに聞いたんだ」
「決めてはなんだったの?」
「なんか、この人となら、明日、地球が滅んでもいいかなって」
「どういうこと?」
「そっ、どういうことって思ったけどね。最後に過ごすなら、この人とがいいって話」
「なら、俺も、最後の瞬間は君と過ごしたい」

映画は、あまりにあっさりとした結末を迎える。
普通の日々を、普通に生きるということは、あまりにも尊い。
昔、付き合ってた彼女は癌が再発して、入院しているというのを聞いたとき、きっともう会うこともないのだろうけど、あまりに神様は残酷な試練ばかり、彼女に与えると思った。

風呂に、入りたくないとぐずりだす彼女に愛おしさと、あの検索履歴を思い出す。

「明日、帰るの少し遅くなるかも」

その一言の意味は、もう少し、そうだな、君の誕生日の日に分かればいいかなと思う。

「この映画さ好きだったわあたし」
「俺もかなり好き」
「なんか、今この瞬間だけがあたしたちのものなんだね」
「おっ詩人ですな」

変わらないほど、愛おしい。
そんな幸福の毎日を、少しずつ延長していこう。
未来は案外悪くないみたいだ。
そう、過去の自分に教えてやりたい気持ちと、今までの自分にありがとうと伝えたい。
あの日、やけになった自分にありがとうと。

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