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猫のいる平和な日常

ちょうど一年前。12月7日。
ゴロゴロと喉を鳴らす2つの毛むくじゃらが我が家にやってきた。

「ここに住むってわかってるみたいです」

2つを連れてきた要にゃんこ亭のスタッフさんが言った。
要にゃんこ亭は池袋にある和風モダンの保護猫カフェだ。
沖縄の久米島で保護された猫たちが〝ずっとのお家〟とめぐり会うのを待っている。

ペットと暮らす。
この一年は私の人生において初めてだらけだった。

「あなたは誰?」という眼差し

俺は本来ペットを飼うことに抵抗がある人間だった。
一年半前に結婚したカミさんは「いつか猫を飼うのが夢だった」という人。
「飼うならば生体販売でなく保護猫に代表される行き場を探している個体を引き取ろう」というのは俺の方針だった。
ペットを飼いたくなかった理由は動物が嫌いだからじゃない。
むしろ虫だろうが魚類だろうが植物だろうが、生き物全般が好きだ。
だからこそ死別が怖い。絶対ペットロスになる。
あくまでカミさんの猫。「俺が飼ってるわけじゃない」。
好きにならないように、仕事のときと同じように徹底的にアセスメントをして体調管理に徹するつもりだった。
だってそれが、命を預かる責任だろ。
誤食や盗食に気を使い、常に清潔・常に適温。伊達に看護学校受験してない。
排泄物のコンディションもチェックして。この高さを飛べるってことは、間の位置に足場があればこっちまで遊びに行けるだろう。
なんて、家に帰ってきても介護やってんだか療育やってんだか、仕事のスイッチが入りっぱなしだった。

それが理由かはわからないけど、2つは俺にも懐くようになった。
そもそも要にゃんこ亭でやんちゃなソールくんにからまれて、悲鳴をあげていたメロンが可哀想で、俺の膝に避難させたのがなれそめだった。

空とすっかり大きくなったメロン

どうしてそんなに俺のことを無害なものとして眼差せるんだ。
深夜ラジオにド下ネタばかり投稿している食えてないスケベ物書きですよ。〝スケベ物書き〟と〝イナバ物置〟で韻が踏める!
人肌恋しいスケベの心を、人肌より温かい彼らはすっかり解かしてしまった。
腕に抱くと体温だけじゃなく鼓動を感じる。体の小さい動物ほど脈は速い。
一般的にゾウのような大きい動物は脈がゆっくりで長生きだ。体の大きさと鼓動の速さは反比例する傾向があり、寿命までに脈打つ回数がだいたい決まっているという説もあるようだ。
説の真偽はわからん。俺は高卒ヒキニートだったから頭はよくない。
俺が言いたいことは「頼むからそんなに急いで脈打たないで。生き急がないでずっと一緒にいてよ」。
好きにならないつもりだったのに、気づけばねこ検定3級に合格していました。

この一年、大きな病気や怪我はほとんどなかった。
寒くないようによく確認せずにフロアマットを敷いたら、2つたちのくしゃみが止まらず、どうやらマットの材質にアレルギー反応を起こして花粉症的にくしゃみしていたらしい。
あわててペット用のものに買い換えたら治まった。
耳ダニは外耳道から鼓膜にかけて先天的にユニークなヒダがあったようで、薬を流すのに工夫を要したり、その薬が乾燥するのに時間がかかったり。
治療は長くかかったが、2つとも頑張って通院してくれた。
ウイルス性の感染症で風邪症状が出たときは、2つがまだ幼かったこともあり解熱するまで生きた心地がしなかった。
2つたちの健康管理に躍起になる私と、仕事をきちんとやりたいカミさんの間には摩擦が起きやすかった。
ついにはフリーランスの師匠にさながら〝育児に協力的でないパートナーの不満を述べる〟様相になり、「雨琴さん、お母さんになってるな!」と言われた。

子猫の時期は短く、体も大きく丈夫になった。カミさんも在宅ワークになり2つたちを見る目も手厚くなった。
思い詰めて、正直言えば「猫なんて飼いたくなかった」と言ってしまいそうになるときもあった。
だって俺は幸せだけど、「お前ら幸せか? 幸せにできてるか?」と問いかけても答えは返ってこない。
でも猫って不思議だ。構おうとすると逃げるのに、落ちこんでいるとわざわざ顔をのぞき込みに来る。布団に伏せっていると上に乗ったり中に入ってきたり。
何もわかってないくせに、言葉もわからないくせに、何もかも見透かしているようで。

カミさんのことハグしてたら2つが我々の足にすり寄ってきた。
シーツを変えに行けば、まるで「お手伝いする!」と言わんばかりにシーツの端を押さえにくる。
仕事に行こうと着替えていたら、仕事鞄に体を通して「私も行く!」と言わんばかり。

長女マギーはお手伝いしたがる

洗濯物をたためば、勝手にくわえて運んでいく。
カミさんが「わしのパンツ!」と叫んだのでそちらを見やると、メロンがたたんだカミさんのパンツをくわえて歩いていた。
思えば俺がカミさんとケンカして一緒の布団で寝なかった日も、俺の枕元にけりぐるみとカミさんのパンツをお供えしてくれていた。
野郎、俺がスケベだってわかってやがるな!

馬鹿馬鹿しくて愛おしくてたまらないよ。
家の中に猫がいるだけで幸せだ。
何かの強がりで自分に言い聞かせているわけじゃない。
猫の寝顔を見たことある人ならわかると思うけれど、彼らってどうしてこんなに福々しい顔で眠るのだろう。左甚五郎が東照宮に掘っちゃったのも頷ける。

要にゃんこ亭の2号店、上板にゃんこ亭の店長さんがSNSで仰っていたけど「猫を飼ってる人ってみんなうちの子が世界で一番かわいいって思う現象」がある。
つけ加えて不思議なのは、だからと言って他所の猫を貶すようになるわけでもなく、人んちの猫もちゃんとかわいく思えて、はたしてどの猫が一番だ!? とギスギスしたりしない。
みんなかわいくてみんないいという平和な世界だ。

平和な世界であってほしい。
命あるものすべてに温かい家と食事があってほしい。
俺がした苦労なんて誰にもさせたくない。
シャーデンフロイデなんて笑って済ませられる範囲にしてくれ。
頼むからもう奪わないでくれよ。コロナも、空爆も。
小さな心臓が刻む鼓動は、体の熱は、無限に続くわけじゃないんだ。

人間だからとか動物だからとか知ったことか。
俺らハナから〝ただの心しか持たないやせた猫〟だよ。
我が家にはカミさんと俺と毛むくじゃらたち。4つの心臓がリズムを刻んでいる。
それが三十過ぎるまで結婚願望すらなかった俺が、アラフォーにして行き着いた家族の形。
この一年間、毎日が猫と暮らす初めてのx月y日だった。
そして今日が初めてむかえる二年目。
そう考えると初めてじゃない日なんて、一日もない。
今日を生きるのは初めてだ。

初めての里親2年目。こたつ狭くなったな。

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みなみんさん主催のアドベントカレンダーに参加するためにこの記事を書かせていただきました。
毎日いろんな方の投稿を楽しんでおりますが、そういや雨琴ってお前だれやねんって話ですね。
早速chocoZAPに会員登録するか迷っとるくらい主催のみなみんさんを私淑と仰ぎ、インスタをご覧の通りたい焼きハントに明け暮れる物書きです。振り付けのない踊りを踊ったりpodcastで喋ったりもしています。

明日は哉汰(ロジウム)さんのチルを模索した話ということです。
私も今日のうちにチルドリンク買っておこうかな。

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