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 思い出が生まれる瞬間に、出会ったことがあります。
 数年前の夏。夕方にさしかかった時分。ミスドに中学生の2人連れ。
 男子と女子が双方向かい合い、スマホをお互いいじっています。
 女子は白藍色の浴衣姿。
 ほうほう、これは夏祭りデートではありませんか。
 ある一定の年齢を超えると、夏祭りデートの中学生を見ただけでニヤニヤする体質になるのです。大人にはなっといた方が得。
 2人の前にはポンデ・リングとオールドファッション、フレンチクルーラーが2つ。
 ニヤニヤカフェオレを飲んでいるわたくしに気づかず、スマホの画面をひたすら見て……ません!
 スマホの画面を見る姿勢のまま、チラッチラチラッチラ相手を盗み見ています。
 ちょっと君たち初デートか!
 わたくしの脳内で、ホワイトベリーのあの曲が流れ出します。
 ジッタリンジンと申し上げたらわかるかもしれない。それもわからない方は、そういうカンジの曲が流行ったんだと思ってください。
「ヨシダも来てるんやって」
「ふーん」
 チラッチラッ。
「あ、タナカも来てるんやって」
「ふーん、ナカニシもやって」
 チラッチラッ。
 ダダダダ、ダダダダーン! ダダダダ、ダダダダーン!
 あ、すみません。ドラム音はわたくしの心に流れるイントロです。
 お互いに緊張して話題が出てこなくなっている! 初々しい!
 相手をチラチラ盗み見ながら、友人の夏祭り参加情報を言うばかりです。
 ドーナツにも手をつけられません。ひたすらチラチラ。わたくしときめき。
 と、ここで気づきました。
 2人の選んだドーナツ、全部こぼれなくてチョコやトッピングがないメニュー……。
 女子は「浴衣が汚れないように」、でしょうが……。
 まさか! 男子も向かい合わせに座るのに「浴衣が汚れないように」を頼んだの!?
 すっとマイクを手に取る脳内。
 慌てた声が響く店内。
「花火もう始まるって!」
 かぶりつくドーナツ。 思い出が生まれる。

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