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はらへったら読む・豚汁

今日はお天道様が顔を出すこともなく、時折モズが激しく鳴く寒い一日だ。
個人的な記念日だとか、誰かが訪問してくるとか、政府から国民への重大発表があるわけではなく、「♪北風小僧の寒太郎」の歌が風のように流れてきてもよさそうなのんびりした冬日である。

今晩は豚汁<ぶたじる>にする。決めた!

昔、母ちゃんが“ぶたじる”と言っていたから、それをふきこまれた私はいまだに“ぶたじる”と言っている。当時の子どもたちは、食事に豚汁が出ようが出まいが、学校の悪ふざけ中でも“ボボ・ブタジル”とアホのように連呼していた。Bobo Brazilという有名な黒人プロレスラーがジャイアント馬場と闘う試合がテレビで放映され、ボボ・ブタジルが子どもたちの間で流行語になった。
今になってはBobo Brazilをテレビで見ることもなく、少年の心が消えかけてきているので、ボボ・ブタジルと発する回数が減ってきた。
大人になったら“とん汁”という言葉を聞いたり、テレビでも“とん汁”と言っていたり、“ぶたじる”が少数派であることを知ったが、ぶたじるの響きが好きだ。

エプロンを首に引っ掛け、背中はいつものようにボタンで留めずにキッチンへ飛び込んだ。

野菜から準備しよう。
大根は薄いいちょう切り、人参は薄い半月切り、長ねぎは斜めに薄切り、全部をザルボウルに。冷凍庫から冷凍ごぼうのさかがきも取り出し、その上に適量ササッっと乗せた。
あく抜き不要の四角いこんにゃくは、スプーンでランダムにもぎ取って世界にひとつしか存在しない形象に変えた。
豚バラは150gほどを食べやすい大きさに調理用はさみで切った。

中型の鍋を五徳に置き、レンジフードの弱スイッチを左手で押し込み、同時に右手でガスを点火。
鍋を数分空焼きしたので、ごま油を熱してから豚バラ肉を投入すると、肉と油が最大限に意気込みをアピールするかの如く雑多な騒めきを放った。
それと同時にごま油と豚肉のいい匂いがご近所に訪問しそうな様子になってきている。
豚バラは部分的にカリカリ状態になるように時間をかけて炒め、次にザルボウルの野菜を全部とこんにゃくも投入。
鍋は一旦おとなしくなったが、すぐに元の雑多な騒めきとなったので、木べらで炒めてあげたら落ち着いてきた。

浄水器からの水を600mlほど入れ、Pal*Systemの和風だしの素を1スティック入れる。
S&Bの生姜チューブから5cmほど絞り出した。たまにはリアル生姜を使うのもいいものだが、手軽さによって最近は生姜チューブの出番が続いている。
蓋を遠慮がちにして吹きこぼれに注意しなから沸騰を待った。

🥄🥄🥄

いよいよ、最後の工程。
冷蔵庫からフンドーキンのあわせみそを、シンク下から味噌こし、抽斗から小さいホイッパー(泡だて器)を取り出した。ホイッパーで味噌をキャッチしてから味噌こしの中で、ガリガリガリと回した。
いつもの味噌汁とは異なり具材が多いので味噌の量を多めにしなければならない。
もう一度、ホイッパーで味噌をキャッチしてから味噌こしの中に入れ、さらにガリガリガリと回した。
小皿に入れた味噌汁を味見して、味噌の量が最適であることと生姜が効いていることを確認し、よしと頷いた。
冷凍庫に冷凍アゲもあったので、適量投入して少しだけ火を入れてあげた。
豚汁は完成の域に到達したので、蓋をして夕飯まで閉じ込めるのだ。

🥄🥄🥄

今日のメインはアジの干物。
その豚汁は魚にベストマッチの汁物だ。
熱い豚汁を配膳した。

この本番で一刻も早く味見をするために配膳された豚汁を真っ先にすすった。
「ズズッ、ア゛―――、いいぞ」
味噌汁と豚肉がコラボすると、甘くて濃厚になり汁物なのにおかずの領域まで進出してくる自信ありげな振る舞い。鹿児島には豚味噌という郷土料理があるほど、豚と味噌は結ばれる運命にあったのか、はたまた元来鹿児島には豚味噌が存在し、そこから豚と味噌が生まれた神話のような事実があるのかもしれない。
しかし、それはウソだとアジの干物から漫画のような吹き出しが出た。
お箸で具を引き上げるとたくさんの豚バラがいっしょに上がってくるのは最高の一コマ。
このワンシーンを見るために豚汁を作ったようなものだ。
おっと、七味振るのを忘れていた。
七味を上手に振ってから横目でアジの干物から煙が上がるぐらい凝視しながら、改めてピリッとする豚汁をすすった。
まだ手つかずのアジの干物を視覚で楽しみながら豚汁を流し込む。
家族に七味をリレーしようとしたが、豚汁中でそれどころじゃなさそうだ。

ありがとう、不滅のレスラー「Bobo Brazil」
ごちそうさまでした、「ボボ・ブタジル」

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