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はらへったら読む・鍋焼きうどん

今日は十二月の日曜日、炬燵でテレビを見ながら午前を過ごし、お昼を迎えたので体が温まる「鍋焼きうどん」にすることにした。
ちょうど外からお昼のチャイムが鳴ったのと同じタイミングだった。

冷たい両手を擦り合わせながらエプロンを首に引っ掛け、背中はいつものようにボタンで留めずにキッチンへ飛び込んだ。
鍋焼きうどんといっても素うどんに極力近いけど、土鍋で作るから鍋焼きうどんと呼んでいる。

今日のお昼はひとりなので、百均のひとり用土鍋をひとつだけ食器棚から出し、器と蓋をさっと冷たい水で流して水切り籠へ置いた。
ガスコンロの下の観音開きを開け、白だしとみりんを取り出し、冷蔵庫からはめんつゆ瓶を取り出す。
ワークトップにそれぞれを並べて、十分な残量があることに安堵した。
手早く水切り籠から土鍋をガスコンロに置き、計量カップで浄水器からの水300CCを入れたのと同時に、右手を伸ばして小さい計量カップを準備。
小さい計量カップには、白だしを大さじ2、みりんを大さじ1入れ、大さじ3の目盛りになったことを確認し土鍋へ投入し、ウイスキーのようなスローな対流を確認した。
めんつゆは小さじ1なので小さい計量カップを経由させずに、直接土鍋へチョロっと色付けさせた。
ガスコンロ横にある塩の調味料入れからひとつまみの塩をつまんで土鍋へパッっと投げ込んで、指パッチンさせようとしたけど乾いた音だった。
レンジフードの弱スイッチを左手で押し込み、同時に右手でガスを点火させてから土鍋の蓋で汁を閉じ込めた。

冷蔵庫にある格安の三玉入うどんの袋の中から一玉を取り出し、抽斗から取り出したハサミで、うどんを傷付けないように薄い包装ビニールを開封するのに格闘した。
麺は食べるまで切ってはならないという私の厳守に基づき、うどん玉は丁寧に扱う。

土鍋が沸騰するまでは、ちょっとした具材の準備としよう。
外ではモズが鳴き、私の冷えた体をさらに冷たくさせようとしている。もうすぐ温かいうどんが出来上がるのだよ、モズさん。

冷蔵庫から長ネギ一本と、揚げ玉、生卵を取り出した。
長ネギは四十五度より浅い斜め切りで厚さ一センチを三つ切り出す。

まだ土鍋は沸騰しないので、洗えるものは洗って水切り籠へ納め、ワークトップをきれいに片づけた。

やがて土鍋の蓋の穴から、もう誰にも止められないような勢いで蒸気が吹き出し始めた。
俺をどうにかしてくれ~と言うように。

蓋を取ってから、うどん玉にへばり付いている薄い包装ビニールを剥がして、そっと滑らすように土鍋に投入。多分、土鍋もうどんが入ったことに気づいてないかもしれない。
長ネギ三つを一塁側に入れて、うどん達を蓋で閉じ込めた。
土鍋がクツクツと言い出した頃、蓋を開けて菜箸でうどんを軽くほぐし、うどんには申し訳ないが、二塁ベース付近に冷たい生卵を割り入れ蓋で閉じ込めた。
冷たいのは少しだけの我慢だ、うどんさん。
機嫌が悪くなったのか、土鍋がいっとき静かになってしまった。

うどんが元気になり、また誰にも止められないような勢いで蒸気が吹き出し始めた。
ガスの火を止めて蓋を取った。
アゲ玉は湿気対策として鍋に直接入れずに一旦小皿に受けてからなみなみと投入した。
球場全体に紙吹雪が舞うように。
あらかじめ鍋すけとお箸を置いた炬燵へミトンをふたつで、ガッチリ掴んで運んでいく。
ここで、ドリフターズみたいに転倒でもしたら大事件だ。

行儀よく正座してから、
いただきます!と声帯を使わずに、誰にも聞こえないように呟いた。
このうどん一玉いくらになるのだろうと考えながら、お釣りが来ないようにそろりと食べ始めたが、簡単な計算だけど美味しいので考えるのをやめた。
三塁側が空いているので、他に何か入れるものがあったのではないかと冷蔵庫の中を頭に描き、カレンダーの絵に視線を向けて少しだけ考えたが、カレンダーは教えてくれなかった。
かけうどんはゆで汁を使わないのに、なぜ鍋焼きうどんは煮た汁はそのまま食べるのか?
再び考えるのをやめて食に集中した。

火傷をしないように。
お釣りをもらわないように。
卵を潰さないように。
慎重に食べ進めた。

うどんのコシはないけど、溶けそうになったアゲ玉が浮かんだお汁はうまい。
試合は五回の表に入り、監督からの指示で半熟状になっている卵を潰してから七味をゴマが五個ぐらい入るように上手に振った。
指先に血流が戻り、体が温まってきたよ、モズさん。
ここからがうまいのだ。

●鍋焼きうどん(一人前)
安いうどん玉 1玉
長ネギ 好きなだけ
生卵 1個
アゲ玉 好きなだけ
水 300CC
白だし 大さじ2
みりん 大さじ1
塩 ひとつまみ
めんつゆ 小さじ1

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