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『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』

前回ニューヨークについて書いたので、私が好きな映画でニューヨークが舞台となっているものをひとつ紹介。

“Extremely Loud, Incredibly Close”

好きな映画を挙げるときに、この映画のタイトルを口にすると大抵聞き返される。原題も邦題も長いこの映画は、9.11に係る話である。
とはいえ9.11の様子が直接的描かれているシーンは殆どなく、
ストーリーとしては9.11で父親を亡くした少年が、ある秘密を探し求めながら人と関わり、父親の死を乗り越えていく物語である。
父親役にトム・ハンクス、母親役にサンドラ・ブロックという豪華キャストの中、少年役はクイズ番組でたまたまプロデューサーの目に留まった演技経験ゼロのトーマス・ホーンということで、当時それなりに話題となっていたと記憶している。

9.11 アメリカ同時多発テロ事件。

あの時リアルタイムで観たテレビの映像を、未だに忘れることはできない。
世界が変わってしまうとさえ思えた。

しかし映画の主人公である少年オスカーの世界は、唯一の友だちでもある父親がいないという事実以外は何も変わらずに過ぎていく。
ただ彼にとって父親の存在はあまりにも大きすぎて、「別れ」ができず心に穴が空いたままになってしまったのだ。

オスカーはアスペルガー症候群を抱える少年で、特定のことに拘り、それに反することができず、
感情が昂ぶると自分でそれを抑えることができない。人とコミュニケーションを取るのが苦手で、友達もいない。
父親との世界が彼の世界そのものだった。

そしてある日、父親のクローゼットの花瓶の中から、ひとつの鍵を見つける。
遺体さえ見つからない父親の痕跡を探すように、
鍵の秘密を求めオスカーはいろんな人を訪ねていく。

オスカーの成長もこの映画の魅力だけれど、母親であるリズの存在も非常に大きなものとなっている。
彼女は夫を亡くした悲しみを抱きながらも、
静かに息子の行動を見守っていく。
何をしているのか、どこに行くのか、息子に気づかれぬよう、静かに。

9.11ではたくさんの人が亡くなって、たくさんの人が大切な人を失った。
人々は様々なかたちで悲しみを受け入れ、乗り越えていく。
オスカーがたどり着いた秘密の正体は父親のメッセージではなかったけれど、
たくさんの人と関わることで彼の世界を拡げることができたのだと思う。
そしてそれは、父親が望んでいたことであり、これからオスカーが生きていく上で必要なことでもある。

ものすごくうるさくて、ありえないほど近い。

オスカーを取り巻く世界は
たくさんの音にあふれ、いつも彼のすぐ近くに在る。


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