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【4】おかしな話-3:真説こぶとり爺さん

 こぶとり爺さんのお話は皆さんご存知と思いますが、このタイトルおかしいぞと思ったことはありませんか。
 だってコブを取ったのは鬼であって爺さんではありませんから正確には「コブ取られ爺さん」なのではないでしょうか。
 私は、実はこのお話は間違って伝わっているのではないかと思うのです。
 本当のお話はこうだった。
 真説こぶとり爺さん、語り始めましょう。

 そもそも、こぶとり爺さんにコブなど付いてはいなかったのです。
 年だって実際はまだ20代後半くらいだったし、顔だってよく見ればそんなに悪くもなくむしろかわいいといってもよい顔立ちだったのです。
 けれど惜しいことに少し体形が肥満気味で、どっこいしょと言って座り、よっこらしょといって立上がるあたりが爺くさいといわれ、「小太り爺さん」とあだ名されてしまっていたのです。彼の本当の名前は伝わっておりませんが無いと不便なので、ここでは「小太郎」という名前だったということにしておきましょう。
 小太郎は両親は早くに亡くし、一人でおんぼろの家に住んでいて、木を切ったり畑を耕したりして暮らしていましたが、食べるだけでやっとの貧乏暮らし、泥だらけの汚い服を着て、しかも内気で恥ずかしがりで気の利いたこともしゃべれませんでしたから、女の子と口を利くなんてことができようわけもなく、独り暮らしはどこまでも続くだろうと本人も村人も誰もがそう思っていたのでした。
 そんな暮らしに転機が訪れたのはある雨の日に捨てられて泣いていた一匹の子犬を拾ったことがきっかけでした。小太郎はその子犬にポチという名前を付けてかわいがったので子犬は小太郎にすっかりなつきすくすくと育っていきました。
 そんな暮らしが一年ほど続いたある晩のことでした。裏の畑でポチがキャンキャン鳴いて小太郎を呼ぶのです。いつもはそんな風にうるさく吠えたりはしないのでどうしたのだろうと出て行ってみるとポチは何か訴えながら畑の隅を一生懸命掘り返しているのです。何だろうと鍬を持ってきた小太郎がそこを掘ってみるとカチンと音がして壷が出てきて中には大判小判がザクザク入っていたのでした。
 なんだこりゃと壷は家に運び込んだものの、見たことも聞いたこともないお宝にどうすればよいか思案もつかず、とりあえず壷を納戸にしまうだけしまって、次の朝、小太郎は壷から出した小判を2-3枚何となく懐に入れ、いつものように山に柴刈りに出たのです。
 すると突然山奥から見たこともないおかしな服装をした数人の男がばらばらと出てきて小太郎を取り囲んだのです。
 山賊かと震える小太郎を上から下までじろじろ眺めまわすと一人の男がこういったのです。
 「俺たちはライザック?というものだ。お前はずいぶんメタボだなあ。そんなだと心臓に負担がかかって早死にしてしまうぞ。」
 「それに、それじゃあ女の子にもてんだろう。」
 「悪いことは言わん、俺たちに任せろ、3週間でお前をモテモテにしてやる。俺たちは結果にコミットするんだ。」
 と、ここで今まで黙っていた一番貫禄のある男がしゃべっている男に何事かささやきます。「こいつ大丈夫か、金なんかなさそうだぞ!」
 慌てた男が聞きます。
 「あ、ところでお前、金はあるんだろうな?」
疑わし気に見る男に。
 「お金ならあります。」と小太郎が懐の小判を出すと、男たちはウオっとどよめいて皆笑顔になり、
 「見かけによらず金持ってんな、よし、それなら話が早い。すぐ来い。」
というわけで訳も分からぬまま山奥のアジトに連れていかれた小太郎は3週間低糖質で高蛋白な食べ物を与えられ、ライザック?のメンバーに鬼のようにしごかれ、地獄のような筋トレ特訓をみっちり受けさせられたのです。
 「よし、これでいい、帰っていいぞ。」
 ようやく解放され、こぎれいな服に着替えさせられて3週間ぶりにひょっこり村に帰ってきた小太郎をみて天狗にさらわれたかと思っていた村人たち、特に娘たちはびっくり仰天です。
 「あれ誰?」
 「小太郎さん?」
 「えっ嘘!」
 「かっこよくなってる!?」
 「どうしちゃったの?」
 「か〜わいい!」
 何しろ上半身裸になって、男たちに教えられたポーズをとって見せると、引き締まった腰、盛り上がる大胸筋と背筋、腹はシックスパックに割れて、腕には力こぶの逞しさ、もともと顔立ちは悪くなかったのですから、娘たちの熱視線はもう小太郎に釘付けです。
 しかもですよ、勇気を出した娘の一人が話しかけてみると
 「お金ならいくらでもある。」
のですから、これはもう大騒ぎになるのは理の当然というもの。
 激しい争奪戦が展開された挙句に、村一番の器量よしで気立てもよいお花ちゃんと結婚した小太郎は末永く幸せに暮らしましたとさ、ああ羨まし!
もちろんポチも大切にされて長生きしましたよ。
めでたしめでたし!
 おしまい
*タイトルの鬼の挿絵は私の盟友H画伯によるものです。有難うございました。



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