感想文「初紅葉 / 雨宮天」

声優・雨宮天さんのEPシングル『雨宮天作品集1-導火線-』より、今回は「初紅葉」を聴いて今見えてるコトについて。

前回:感想文「都会逃避行 / 雨宮天」
まとめ:楽曲感想


今回EPに収録された個性的な楽曲の中でも、特に特異な存在感を放っている楽曲、「初紅葉」。

これまで度々、イベントやラジオ・インタビューで「天城越え」や「津軽海峡・冬景色」「夜桜お七」といった演歌を小中学生の頃からカラオケで歌唱し親しんできたことをお話をされていた雨宮さん。

私は小中学生の頃から石川さゆりさんの「津軽海峡・冬景色」や「天城越え」、坂本冬美さんの「夜桜お七」なんかを、八神純子さんの「みずいろの雨」のような歌謡曲と一緒にカラオケで歌っていて。第2回「リサイタル」でも八代亜紀さんの「雨の慕情」をカバーしていますし、好きなんですよ、演歌。

雨宮天が全収録曲を自ら作詞作曲!歌謡曲への愛と情熱に満ちた「雨宮天作品集1 -導火線-」完成

実際に、14年に行われた「TRYangle harmony presentsトライアングルステージ ~STEP~ in日本青年館」では「津軽海峡・冬景色」を、2019年に行われた「第二回 音楽で彩るリサイタル」では「雨の慕情」を、時にコブシを効かせ力強く時に情緒的に熱唱されていて、高い歌唱力と共に楽曲への愛やリスペクトを強く感じられる時間が届けられたのでした。

さらにそこに、『声優』としての技を融合させ、キャラクターソングとして「津軽観光ごり推し記」(作:TVアニメ「パンチライン」 / 役 成木野みかたん)や「わたし音頭(作:TVアニメ「この素晴らしい世界に祝福を! 2」 / 役:アクア)など、時に「演歌調のキャラソン」も歌いこなし、我々からすればその「演歌ガチ感」は既知のところなのでした。


そんな雨宮さんが、遂に自らの力で作ってしまったという演歌曲。
「演歌曲も含まれる」という発表時から、心待ちにしていた楽曲だったのでした。

これはボツ提案というか、入らなくてもいいから1回試しに演歌を作ってみるかとなって。私は演歌も好きなんですけれど、そもそも演歌って作ったことないし、作れるかどうかもまったくわからないし、やるだけやってみよう!みたいな気持ちで作ってみたんですね。で、いろいろ演歌を聴いて、作ってみたら、演歌できちゃったなと思って(笑)。

(「声優グランプリ 2023年3月号」)

雨宮さんがこだわったらもうガチの凄いものが届けられるのは既にわかりきっていたことなんだけれど、イントロからガチの演歌が流れてきて、思わず笑ってしまいましたね。

イントロで着物の姿の雨宮さんがゆっくりお辞儀する、っていう存在しない記憶が脳内再生された。

やっぱり演歌といったら着物ですからね!レコーディングの日も「紅葉柄の着物とか着て歌いたいですよね」みたいな妄想を語っていました(笑)

(「声優グランプリ 2023年3月号」)


見たい、見たい、見たい〜〜〜〜!


「石川さゆりさんや坂本冬美さんに歌ってほしい」というイメージを持ちながら、『年上の人への初恋の未練』を歌ったという本曲。

雨宮さんの書かれた詞が「悲哀」や「寂寥感」に溢れていて切ないんですよね…。

染めるだけ染めて
青かったこころ

1B

「青かったこころ」が想起させるのは、まだ葉が青葉だった頃、初夏。
この季節の季語に、「青葉雨」という季語があります。

【青葉雨】
木々の青葉に降りかかる雨。
青には幼く未熟の意があり、春萌出た新芽は緑の濃さを増し、やがて青葉の時を迎えます。
その青葉を濡らして降る雨が「青葉雨」。
(また、木々の青葉からしたたり落ちる水滴を時雨に見たてたのが「青時雨」。この頃のことを「青梅雨」とも言い、この頃吹く風のことを「青葉風」とも言うそうな。)

楽曲のタイトルにもなっている「初紅葉」。
この季語が用いられるのは、仲秋の頃で、現在の暦では9月から10月初旬の頃にあたります。

青葉雨の存在を感じるのは季節的な話ではなく、たっぷり幸せを育む愛を受けながら、この少女は青い日々を過ごしてきたんじゃないかなって。

時に太陽に照らされ、時に雨に濡れながらも時は流れていく。
相手と過ごす時間がまだ若い少女に募り、少女は慕情を募らせていく。
青かった心があたたかく熱を帯び、紅潮させていく。

赤く染まった様子は、少女の頬の紅潮にも感じられて、初々しいですね。
だからこそ、その後の展開が切なくて。

その頃には、慕情を募らせた相手の心はもう少女を離れていたんだろうな。
きっとそのことを、少女は理解っていて。

この1B、まだ未熟で弱い恨み節のようなフレーズの後、間奏を挟まずにサビへ流れていくのが好きなんですよね。
感情が止め処なく傾れ込んでいくように感じられて。


燃えたままで 凍えるだけ
散らせて 初紅葉
燃えたままで 凍えるだけ
散らせて 初紅葉

1サビ

初紅葉を『歳上の人への初恋の未練』に見立てて、「染めるだけ染めて青かったころ」「燃えたままで凍えるだけ」と自分では散れない悲哀に喩えるの見事で感服なんですよね…、とても好きな詞です。

同じ場所で 凍えるだけ
散らせて 初紅葉
同じ場所で 凍えるだけ
散らせて 初紅葉

2サビ

初紅葉が散ることができるのは、晩秋から初冬。
自ら散ることができずに、風に揺られ、燃えるだけ。

秋になって気温が下がり日照時間が少なくなると、光合成をする働きが衰える。
そのまま葉をつけていると表面から熱や水分が奪われやすくなり、かえって弱ってしまうため、樹木は一般に冬を迎える頃に葉を落とす。

なかなか連絡がつかなくなり、会う機会が失われ。
それでも今この瞬間、自ら散らせない慕情。
あなたに会うことができないまま、時の流れを待ち、心の温度が奪われ忘れいくのを待つしかない、そんな抒情詩が眼に浮かぶのです。

結露が指を 濡らすたびに
赤らびる私の頬を
もみじだと微笑んだ
目尻が恋しい

2A

この2Aの歌詞、相手の容姿や相手と共に過ごした日々をしっかりと想起させ
てくれますよね。

消えずにくっきりと思い出している様子が、色褪せ消すことのできない慕情のように感じられて。

相手とは、昨年の晩秋から初冬も一緒に過ごしていたんじゃないかな。

「もみじ」、昨年の自分の赤らみと、今の自分の散らすことのできない思い。
時を経て露わになった「紅潮」の対比が切なく、美しい詞だなあと。
そんな思いをリスナーに想起させる、非常にいい装置にこの2Aはなっているように感じるのです。


ところで、写真は助数詞「葉」を用いて、1葉とも2葉とも数えます。

もともとは木の葉を数え、手のひらに乗せられる程度の大きさのものを数えて用いられていた助数詞のようです。
(一見、「枚」と同じように使われているかのように見えますが、「枚」は平面的であればありとあらゆるサイズのものを数えることができるのに対し、「葉」は木の葉のように小さなものだけを数えるそうです。)

また、「葉」で数えられるものは、手にとって眺めていたいような、本人にとって思い入れのあるもの、ノスタルジックな感情をそそられるものであることが多いとされています。
例えば、「1葉の写真」は、「1枚の写真」と言うよりも、昔を思い出させるような大切なスナップであることを意味したり、「葉書1葉」と言えば、「葉書1枚」よりもずっと価値のある、大切な人などからの便りを示唆するとか。

「散れない葉 = 捨てられない写真」だとすると、手元に写真だけが残ったんじゃないかな。


年上の人への初恋の未練を歌った曲なので、こぶしを効かせすぎると恨み節が強くなってしまって(笑)。バランスを意識しながら歌うようにしました。

(「声優グランプリ 2023年3月号」)

全体的に雨宮さんの歌唱は悲哀的で、説得力もあり、まるで自分もそのような思い出を抱えてきたかのように、胸を切なく締め付けてくるなと感じます。

そんな中でも、異質な想いを感じる箇所があって。
それが、相手への想いがコブシとしてじんわりと効いた、ラスサビの歌唱。

「想い」、「思い」。

「想い」には「相手」がそこにいて、「思い」には相手がそこにいない。
このラスサビの歌唱のコブシ。
僕には相手への恨み節というよりは、「思い出でもいいから」という切実な心模様に見えていて、それにすがるしかない、というような深い悲哀を感じるんですよね。

あなたがいなくなったのに変わらず流れ続ける、この時間こそが残酷だと思う。
明日からも私は目を覚まして、あなたとの日々を思い出し、楽しさと、そしてしばらくは悲しさを胸にわたらすでしょう。
そんな、慕情を散らすことのできない日々への悲哀。


本当に綺麗な詞とメロディーで大好きなんですよね、「初紅葉」。
散り重なる落ち葉のように繰り返しになるんだけれど、初紅葉を『歳上の人への初恋の未練』に見立てて、「染めるだけ染めて青かったころ」「燃えたままで凍えるだけ」と自分では散れない悲哀に喩えたこの歌、見事で感服です、大好きです。

秋には「飽き」という掛け言葉があり、古来から別れの歌も多く詠まれてきた。
「初紅葉」、秋という季節の歌だけれど、「飽き」という掛け言葉も意識した曲だったりするのかなって、ふと。

自分に飽き離れていったあなたを思い、散らしようのない慕情を詠んだ歌。
哀しくなるくらい、愛しく綺麗な歌。

■Next:「マリアに乾杯


雨宮天 1st EPシングル
「 雨宮天作品集1-導火線-」
3月22日発売

雨宮天 カバーアルバム
「COVERS -Sora Amamiya favorite songs-」
発売中

雨宮天 歌謡曲カバーライブイベント
「LAWSON presents 第四回 雨宮天 音楽で彩るリサイタル」
2023年 4月29日(祝・土) Zepp Nanba(大阪)
2023年 5月7日(日) Zepp DiverCity(東京)