感想文「マリアに乾杯 / 雨宮天」

声優・雨宮天さんのEPシングル『雨宮天作品集1-導火線-』より、今回は「マリアに乾杯」を聴いて今見えてるコトについて。

前回:感想文「初紅葉 / 雨宮天」
まとめ:楽曲感想


百合を移した 白い首筋
薔薇でなぞった 赤い唇
むせるほど香り立つ色香

前奏

この前奏がたまらなく好き。

前奏のメロディーラインはゆったりで、「ヒーロー見参」の趣がある。
混沌とした戦場が一気に静まり返り、荒地の砂煙の中から影が浮かび上がりながらこの前奏が流れてそう。

かっこいいね。
そこに流れる歌詞も、只者ならぬ強者感があって。
強い、強すぎるよ…。

高校野球の応援歌っぽさもある前奏ですよね。
ゆったり静かなで揺るぎのない風格があって、仕事人的な選手の応援歌。

昭和歌謡といえば、「サウスポー」や「タッチ」、そしてこの曲に大きなインスパイアを与えている山本リンダさんが歌唱されている「狙いうち」と、野球の応援歌に用いられている楽曲が多いですよね。

この曲もそういったヒロイックな風貌がメロディーにあって、そういう系譜にありそうな曲ですよね。
前奏が終わってイントロ〜Aメロの華やかなブラスバンドの演奏が、甲子園のアルプススタンドから聞こえてくる様子が脳裏に浮かぶなあ。

前奏部分、学校や選手によって替え歌になってそう。
僕が球児に戻ったら、この曲を応援歌にお願いしたい。
(でも高校野球のスピード感なら前奏終了までに3球くらい投げ終わってそうだな)


EPを作っている中で「TRIGGER」ともう1曲アップテンポな曲が欲しいなとなったときに、まず出てきたのが『マジンガーZ』とか『(科学忍者隊)ガッチャマン』とか、昔のヒーローアニメのオープニング。すごく歌謡感があるし、みんなで盛り上がれるなと思ったんですけど、でも歌うのは私だからヒーロー的なイメージのある女性の方っていなかったのかなって考えたときに、それが山本リンダさんだったんですね。覚えやすいメロディーで、アップテンポで、しっかり迫力を持って歌っているのは山本リンダさんだ!となって。

(「声優グランプリ 2023年3月号」)

たしかに歌詞も、鳴っている音も「ガッチャマン」っぽい歌謡かもなあ。

リンダさんの曲をたくさん聴いてインプットして。そのうえでリンダさんを脳内に召喚して歌ってもらいつつ、私がリンダさんに歌わせたい歌詞を詰め込みながら作っていきました。

「声優アニメディア2023年3月号」

と雨宮さんがお話ししているように、かっこいい「山本リンダ語録」が並んでいますよね。

「私の瞳を見てごらん」とか「嫉妬も噂も好物よ」とか。
「私に抱かれに寄ってくる」とか。

なんだろうな、こう。
ヒロイックの中でも「カリスマ性」が強いタイプのヒーロー。
ダークヒーローなのかな。

「色気があって、自信満々だけど嫌味じゃないし、それがむしろ心地いい」みたいな印象があって。

頭の中でイメージした映像は「ルパン三世の峰不二子」。
まさに「自信満々で艶っぽくて、でも大胆不敵で嫌味のない人」って感じ。

聴いていると、そういう自信家の人に気持ちよく乗せられて頑張れちゃう感じがあるよなあと受け取っていて。

こういう「強い人の姿」を描いたような曲をこれまで雨宮さんの曲で何曲か聴いてきたけれど、今までにない気分の高揚を覚える曲だなあと感じていて。

雨宮さんの既存曲に「Queen no' cry」や「BLUE BLUES」という、ゴリゴリに強く前に進んでいく人の姿を想起させる曲がある。

落ち込んでいる時や朝通勤のまだ気分が上がりきっていない時、上述のニ曲を聴いた時の自分の状態異常イメージは「雨嘯」。
雨に濡れて覚える寒さやどんよりとした気分なんてお構いなしに、自分の気持ちに嘯いて強く前を向き歌う、みたいな。

一方で「マリアに乾杯」はそことは少し違くて。

落ち込んでいる時や朝通勤のまだ気分が上がりきっていない時に流れてくると気分を高揚させてくれそうな曲ではあるんだけれど、「気分の乗せ方」が違うというか、「掌の上で転がされていつの間にかその気にさせられる」、そんな感じ。
これあれだ、ルパンにさせられる曲だなあ。


歌謡曲の「マリア」といえば "いい女" の代名詞的なところがある。
健気で、何があっても穏やかな微笑みをたたえ包み込んでくれる。
そういう"いい女"。

でも時には、そんな心の綺麗なマリアの傷ついた内面にフォーカスした吉田拓郎の「裏町のマリア」みたいな曲もあって。
そういう「マリアらしくないマリア」な曲の方が僕は琴線に触れることが多いんだけれど、この曲のマリアはたぶん歌謡曲史上最強にカリスマ性のあるマリアなんじゃないだろうか。


キリスト教の聖母マリアは赤い衣服と、そして必ず青いマントを羽織って描く、という約束事がある。

『赤色』は血、生命を産む母の色。
『青色』は天の色、つまり海や空、包容力を指し示す。
つまり、この場合の『青色』は暖色の青だ。

繰り返される生命の営みを人間の手の届かない領域で青が包み込んでいる、聖母マリアの宗教画にはそういう「包容力」的な慈愛の意味合いが込められていたりもする。

僕らが曲の中で夢見がちな「マリア」はそういう、健気で、何があっても穏やかな微笑みをたたえ包み込んでくれる、そういう"いい女"。

でもこの歴代最強のマリアさんは

何もかも手に入れる私の瞳を見てごらん
誰もかも振り返る私の体を見てごらん

1A

嫉妬も噂も好物よ
放っておけないこの魅力
男も女も犬までも
私に抱かれに寄ってくる

1B

マリアのキッスをあげたなら
ほらいい子のワンちゃん出来上がり

2B

このマリアさん、「私が先導してやるからついてきな!」感あって、その人を慕い色々な人々が集っている情景がまざまざと浮かんできて。
こういうマリアも、好きだなあ。

私からあなたへとぶつけた視線は導火線
脈打つ鼓動 破裂しそうでしょ?
世界ごと 宇宙ごと 私の虜にしてあげる
この世の全部 飲み干すわ
乾杯 乾杯 乾杯 乾杯

1サビ

「包み込む」という歌詞こそ出てこないけれど、マリアの本質的なものである「包容」の因子は感じられる曲だなとも思っていて。
でも、「包み込む」をさらに超えて「虜にしてあげる」だもんね…(笑)

だからこそ、「俺たちにはこの人がついてる」と信頼できるような頼もしさがあって、そのエッセンスが聴く者の足取りを軽くさせるんだろうな。

刺激的でカリスマ性の塊だね、斬新なマリア像だ。
なんだろうね、こう書いてみるとマリア(ダークヒーローver.)感あるね。


「導火線」という言葉も絶妙に危険な香り付けの役割も果たしつつ、でもどこかレトロな雰囲気もあって、いい味してますよね。

雨宮さんの味付けにも「艶やか且つ大味」的な歌唱の印象を受けて。

山本リンダさんを意識したような息遣いや歌唱の模倣も感じられて、高いリスペクト心が窺えるなって。
そして何より、山本リンダさんの曲、好きなんだなあって、すごく伝わってくるのです。

個人的には先述した「放っておけないこの魅力」「ほらいい子のワンちゃん出来上がり」の味付けが好きだなあ。

そこに、2Aのこの部分。

大胆に繊細にあなたの心を鷲掴み
純情で妖艶な喉から手が出るいい女

2A

ここの、「大胆に」「繊細に」「純情で」「妖艶な」でそれぞれ声色を変え表情付けを工夫されているところ。
「声優 雨宮天」として積み重ねられてきたものの存在感を強く感じることができて、コロコロと変わる所に楽しさと同時にほんのりあたたかい気持ちになれたし、そのことについて雨宮さんがインタビューの中で、そういう細かいニュアンスの変化を付ける技術を「私の強み」という言葉で確固に語られていて、なんだか、こう、じんわり嬉しい気持ちになったのでした。

その「声優としての味付け」が、艶やかでふてぶてしい強烈なボーカルにトニックな味付けを施していて、杯が重なるのよ、この曲。

こんなん虜になってしまうって…。
どうしたってついていってしまうね…。

掌の上で転がされていつの間にかその気にさせられている、そんなの分かっていても、「そんなの知ったこっちゃねぇよ」って大胆不敵に進んでいけちゃうね。

この世の全部 飲み干すわ
乾杯 乾杯 乾杯 乾杯

■Next:「ぽつり、愛


雨宮天 1st EPシングル
「 雨宮天作品集1-導火線-」
3月22日発売

雨宮天 歌謡曲カバーライブイベント
「LAWSON presents 第四回 雨宮天 音楽で彩るリサイタル」
2023年 4月29日(祝・土) Zepp Nanba(大阪)
2023年 5月7日(日) Zepp DiverCity(東京)

雨宮天 1stカバーアルバム
「COVERS -Sora Amamiya favorite songs-」
発売中

雨宮天 2ndカバーアルバム
「COVERS II -Sora Amamiya favorite songs-」
2023年6月21日発売