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キャリアパスを振り返る

会社員
吉村優一

はじめに

 キャリア経験について書く機会をいただいたが、私自身(36歳)が今後のキャリアに明確なビジョンを描けているわけではない。キャリアは多様化しており、いろんな可能性を想像して楽しむくらいの気持ちで日々を過ごしている。以下では、私のこれまでのキャリアパスを振り返るが、理想のキャリア選択を読者に紹介するものではないことを強調しておきたい。

大学生(学部生)から大学院へ進学

 私立の進学校に通っていたため、大学に進学するかどうかで悩むことはなかったが、大学で何を学びたいかについて考えていなかった。高校3年生になり、数人の先生と相談し、創薬でひとりでも多くの命を救うことができる可能性があることに興味を持ち、薬学部を選択した(というと聞こえは良いが、実際には当時、薬学部の人気が上昇していたため、という単純な理由かもしれない)。高校生のときは「物理」「化学」「生物」が独立した科目であると思っていたが、薬学部では、生命現象を物理化学的な側面から理解することを目指した研究分野に魅力を感じた(もちろん、このような分野横断的な研究は薬学部に限ったものではない)。大学に入学した当時は大学院の存在すら知らなったが、先輩や同級生の多くが大学院に進学したため、私も大学院に進学する道を選んだ。他大学の大学院に進んだため、心機一転の再出発となったが、大学で学んだことがムダになるわけではないし、異なる環境に身を置くことで多様な考えや価値観に触れる機会が増えたことを考えると、研究室を変えるのは私にとって良い選択だったのかもしれない。
 大学院修士課程から、理学研究科の研究室で蛋白質の構造物性研究に従事した。研究は楽しかったが、修士課程修了後は民間企業に就職するつもりでいた。しかし、指導教員の先生や研究室の先輩から博士課程への進学を勧められ、進学することにした。博士課程への進学については、メリット・デメリットいろいろ(就職への影響、経済事情、結婚のタイミングなど)あるだろうし、何を選ぶのが正解というわけでもないので、自分なりに悩んで決めればよいと思う(私のように、先生に勧められたから進学することにしました、というのは良くないと思う。先生が敷いてくれたレールを踏み外さず歩む優等生は、面倒を見てもらえる間はよいが、指導教員の元を離れてレールがなくなったときに自分の意思でキャリア選択できずに困ることになる)。

博士研究員(ポスドク)としてデンマークに留学

 博士の学位を取得した後は、博士研究員(いわゆるポスドク)として研究室に残り、研究を継続することができた(博士課程に進学したときは、修了後には民間企業へ就職するつもりでいたが、どのタイミングで気が変わったのかは覚えていない)。ポスドクとして1年が過ぎたタイミングで、研究会で出会った海外招待講演の先生から連絡があり、ポスドクとして雇ってもらえることになった。運よく留学助成金を獲得することができ、充実した研究生活を過ごすことができた(留学先は北欧デンマーク)。語学や文化の違いで戸惑うことも多かったが、よい経験となった。いい意味で驚いたのは、女性だけでなく男性も当然のように育児休業を取得していた。私自身(男)も、子どもが生まれたら育児休業を取得して一緒に過ごす時間を大切にしたいと思うようになった(留学当時は独身)。
 海外留学についても、メリット・デメリットがしばしば議論される。私は独身だったこともあり、軽い気持ちで挑戦することができた。私の場合は、結果として留学してよかったと思っている。ただし、「研究者は一度は留学するべき」とか「留学すれば箔がつく」とかは無意味な議論だと思う(ずっと国内で活躍している研究者も数多くいるし、いろんな事情で留学することが困難な場合もあると思う。私自身も、どうしても留学したかったわけではなく、周囲から勧められたから留学してみようか、という程度であった)。
 語学力について。私は、英語は得意ではなく、英会話は下手である。留学前の段階では「留学すれば英語も上手くなるだろう」と安易に考えていたが、間違いであった。もちろん海外に行くと英語に触れる機会は増えたが、自分から積極的に話す機会を増やす努力をしなければ、実際にはほとんど上達しないまま帰国することになる。これから留学することを考えている読者には、私の経験を反面教師にしていただければと願う。

アカデミアから民間企業へ

 帰国後は、大学教員(助教)として約2年過ごした。その後、民間企業へ転職した。キャリア選択において、「アカデミアと民間企業のどちらがよいだろうか?」というのは多くの研究者が考えることであると思う(もちろん、会社で働くことなんか考えたことない、というアカデミア一筋の研究者もいるが、彼らはそもそもこの記事を読む機会もないだろう)。私自身もインターネット記事など検索してみたが、アカデミアと会社の違いは実際に体験してみないとわからないと感じ、転職を決意した。会社では、これまでにない経験(顧客への訪問に同行したり、私がこれまでに研究してきた分野とは異なる研究分野に出会ったり)ができ、転職してよかったと思っている。育児休業も取得した。その一方で、アカデミア研究をやめてしまうのはもったいないと思い、招へい研究員として大学研究機関に在籍している。アカデミア研究を続けることについて、会社から許可していただいたことは、とても有難く思う。
 現状について。満足しているとかと問われると、そうとも言えないのが本音である。将来のキャリア選択の機会に向けて、よい準備をしておきたい。

おわりに

 私自身、本記事を書くにあたり、これまでのキャリアパスを振り返ることになり、当時のキャリア選択を論理的に説明する根拠を作り上げることを試みた。しかし、もっともらしい理由を書いたとしても、実際には後付けの理屈であり、自分のキャリア選択を正当化しているにすぎないと感じる。そもそも、キャリアの選択に正解も間違いもないので、読者の方々には、自分のキャリアパスをポジティブに捉え、新しいことにも積極的に挑戦されることを願っている。


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